第841話 反省と改善!

「お主らは、ここで待っているのじゃ」


 アルは洞窟の入口で、俺たちに待つように言った。

 まずは一人で先代グランニールと話したいことでもあるのだろう。


「分かった。存分に語ってこい」


 アルは笑顔で洞窟へと入って行った――。


「お兄ちゃん、ここは?」

「あぁ、ここはな――」


 俺はライラに説明する。

 初代グランニールのこと。エビルドラゴンのこと。

 そして、アルと初代グランニールの関係を――。


 ライラは王都を攻撃していたドラゴンが、本当は心優しいドラゴンだと知ると驚いていた。

 ロードのことは、魔法研究所から発表されているので、魔素との関係はライラも知っている。


「アルシオーネ様は……大丈夫かな?」

「さぁ、どうだろうな」


 アルだって、辛いはずだ。

 しかし、その辛さを俺たちには、決して見せないだろう。


「お兄ちゃん?」

「ん、なんだ?」

「少し聞いてもいい?」

「あぁ、いいぞ」


 ライラの聞きたいことは、先程の戦いについてだった。

 率直な感想を聞きたいようだ。


「そうだな――」


 俺は思っていたことを忖度無しで話す。

 バレットモンキーとの戦いについては、悪いところはなかった。

 【雷鞭】の使い方も良かった。

 俺は【雷鞭】で、バレットモンキーを捕まえきれなかった場合のことを、逆に質問をする。


「もう一本、【雷鞭】を出すつもりだった……」

「なるほど」


 俺は正直驚いた。他の魔法を使う訳でなく、あくまでも【雷鞭】に、こだわっていた。

 それだけの自信があったのだろうか?

 自分の技に自信を持つことは、いいことだ。

 もちろん、こだわりを持つこともいい。


「ライラは【雷鞭】を使いこなしているのか?」

「……使いこなせてはいないよ。でも、【雷鞭】は私に合っていると思うの」


 好きこそ物の上手なれ……か。


 俺は続けて、ソニックウルフとの戦いについての感想を話す。

 まず、何が起きたか分かっていないライラに、もう一度戦った状況を話すことにした。

 そもそも、この地域に生息している魔物たちは、俺たちが普段生活している世界とは別世界だと説明する。

 別世界だと語弊があるので、隔離されている別世界だと訂正をする。

 そして、ここに生息する魔物たちは、俺たちの知っている魔物とは別の生き物だと考えた方がいいと話した。


「もしかして、ソニックウルフは、アジャイルウルフの上位種なのかな?」

「たしかに、アジャイルウルフに似ているな」

「でも、スピードが全然違っていた……」


 アジャイルウルフは、素早い攻撃で敵を仕留める。

 しかし、アジャイルウルフは集団で攻撃をする。

 アルが連れてきたので、ソニックウルフが集団で行動するかは分からないが……。


「お兄ちゃんは、見えていた?」

「あぁ、見えていたぞ」

「そうなんだ……」


 悔しそうな表情をするライラ。

 しかし、あのソニックウルフを目で追える冒険者は……分からない。

 護衛衆のロキサーニや、セルテートならば辛うじて追えるかも? と思ったが確証がなかった。

 そのことをライラに伝えようかと悩んだが……。


「ソニックウルフを目で追える冒険者は、数人しかいないだろう」

「そうなの?」

「あぁ、多分だがな――。だから、ライラが落ち込むことはないと思う」

「でも!」

「今、冷静に考えてライラは、どうしたらソニックウルフに勝てたと思う?」

「……勝てない。今の私では、勝てないと思う」

「そうか……」


 ライラは冷静に自分のことを分析できていた。

 俺の目から見ても、今のライラではソニックウルフと互角に戦うことは、できないと思っていた。


「じゃあ、勝つために何が足りなかったと思う?」

「それは――」


 補助系の魔法スキルがあれば、ライラの勝率も上がっていたかと思う。

 それ以外であれば――。


「……【雷壁】か【炎壁】を自分の周りを囲んで、まずは防御を優先させてから、反撃の方法を探る……かな?」

「ライラはどうして、【雷壁】と【炎壁】とで悩む理由は?」


 ライラは俺の質問に対して、得意なのは雷系統の魔法なので、まずそれを頭に浮かべたこと。

 【雷壁】であれば、決定的なダメージが与えられなくても、痺れさせたりすることができるかも知れない。

 炎系統の魔法であれば、炎が消えるまで継続的にダメージを与えることができると考えていた。

 攻撃に耐えて、反撃の糸口を見つけるのは間違いではない。

 問題は、ソニックウルフから最初の攻撃を受けた状態で、魔法詠唱が出来たかだと思う。

 俺は、そのことについてもライラに聞いてみた。


「それは――」


 ライラは答えに困っていた。

 そこまで考えていなかったのだろう。


「戦う前に、防御の魔法を事前に施しておけば、よかったと思う」

「そうだな。コスカがよく使っていただろう?」

「うん。師匠も戦う前から、戦いは既に始まっているって言っていた」


 コスカの弟子なら、それくらいの厚かましさを見習ってもいいと思っていた。

 それから、反撃の方法を色々と聞く。

 俺からの意見を聞く前に、間違っていようが自分の意見をきちんと話す。

 そのうえで、俺の意見を聞く。

 自分の考えと比べて、なにが悪かったかを自分なりに理解しようとしていた。

 俺の考えが正しいとは限らないと言うが、ライラは俺の言うことだから間違いない! と疑っていなかった。

 まぁ、幸いにもライラの周囲にはコスカやクレストがいる。

 護衛衆のステラも、たまに顔を出すと言っているので間違いは正してくれると信じていた。

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