第840話 戦いを振り返って……-2!

 バレットモンキーとの戦いに勝てたことは、とても嬉しかった。

 とても貴重な体験ができたと思っている。


 バレットモンキーとの戦いを終えたことで、私がどれだけ成長できたか、お兄ちゃんに分かってもらえたと思う。


 お兄ちゃんはアルシオーネ様と話をしている。

 ……まだ、私は戦える!

 不甲斐ない戦いを見せただけでは終わらせられない。 

 私は、まだ戦いたいことをお兄ちゃんとアルシオーネ様に伝えた。

 

 驚くことなくお兄ちゃんは、アルシオーネ様に別の魔物を連れてくるように頼んでいた。

 私が引き続き戦いたいと思っていることに、気付いていたのだろう?


 私はバレットモンキーとの戦いを思い出しながらも、次の魔物を考えながら対策を考える。


 そんな時、お兄ちゃんが体力を回復してくれようとした。

 しかし、私はお兄ちゃんの申し出を断った。


 お兄ちゃんに頼らなくても、冒険者として強いということを証明したかった。

 いつまでも助けてもらえるだけの存在ではない……。


 数分後、アルシオーネ様が戻ってきた。

 手には、またも私の知らない魔物を持っていた。


 お兄ちゃんも知らないらしく、アルシオーネ様に質問をしていた。

 魔物はソニックウルフというらしい。


 狼が魔物化したようで、私の知っている似たような魔物サーベルウルフよりも、小柄だ。

 尾や牙もサーベルウルフよりも小さい。

 しかし、四本の脚は、サーベルウルフに比べて短いのに太さは同じ……いや、それ以上に太い感じがする。

 俊敏性に特化した魔物なのかも知れない。


 お兄ちゃんの合図で、アルシオーネ様がソニックウルフから手を離した。

 ソニックウルフは、私に向かい威嚇をしてきた。

 私なら倒せると思っているのだろうか?


 ……消えた‼


 目の前からソニックウルフの姿が消えた。

 私は、すぐに周囲を見渡してソニックウルフの姿を確認しようとした。


 ……ソニックウルフがいない。

 いや、そんなはずはない。空気を切り裂く音は聞こえている‼


「きゃぁ‼」


 突然、背後から衝撃を受けた。

 ソニックウルフの攻撃に違いない。

 しかし、体勢を整えることもできない。

 目に頼らないとかいう次元ではない……。

 私は、前後左右からの攻撃に何もできず体を揺らすだけだった。

 そして、徐々に意識が薄れていくのが分かった――。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……ここは?」


 何もない暗闇の中に私は立っていた。

 先程まで、ソニックウルフと戦っていた筈……。


「情けないわね」

「誰⁉」


 私は声の主を探そうと周囲を見渡す。

 しかし、暗闇の中では姿を探すことができなかった。


「それでも賢者候補か?」


 また、私に話し掛けてきた。


「誰なの! 姿を見せなさい‼」


 私の呼びかけに応じたのか、目の前に人が立っている。

 ……私だ‼


「そう、私はライラ。そして、あなたもライラよ」

「……どういうことなの?」

「あなたは……いえ、私はソニックウルフに一方的にやられて、気を失ったの」

「そう……」


 気を失った……お兄ちゃんの前で不甲斐ない姿を見せてしまった。


「中途半端な状態だから、このような結果になったのだと思わない?」

「……中途半端?」

「えぇ、賢者という存在が、どっちつかずの状態になっているってこと」

「そんなことはない‼」

「周りから、おだてられているだけじゃないの? 本当に賢者になりたいの?」

「……そうよ」


 答えるのに、少し考えてしまった自分がいたことに気付く。


「私は……一流の冒険者になって、お兄ちゃんに認めてもらう!」

「どうして、お兄ちゃんに認めてもらう必要があるの?」

「えっ!」

「お兄ちゃんはお兄ちゃん。私は私でしょう?」

「そうだけど……」

「結局、自分のためでなくて、お兄ちゃんのために強くなろうとしているんでしょう?」


 自分からの問い掛けに、即答することができなかった。

 私は、なんのために強くなろうとしていたの?

 冒険者になるきっかけは、たしかにお兄ちゃんだった。

 お兄ちゃんのように、困っている人の力になりたい! と思ったから――。


 そうだ。お兄ちゃんに認められる冒険者になるんじゃない。

 お兄ちゃんのような冒険者……困っている人を助けられる冒険者になりたかったんだ!


 私は目の前の自分を見る。


「そうよ。困っている人を助けたいから、賢者になろうと思ったのよね」


 目の前の私が微笑んでいた。


「うん‼」


 私が返事をすると、目の前の私の姿は薄くなり消えた……。


 私はまだ弱い。早く強くなりたい気持ちだけが先走っている!

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