第837話 死のダンス!

「まだ、戦うか?」

「いや、十分だ。ありがとうな」

「私、まだ戦いたい‼」


 ライラは他の魔物と戦いたいと、俺とアルに話した。

 俺に強さを見せるのに、今の戦いでは納得できていないようだった。


 ライラに、無理をさせることはできない。

 

「そうか……アル、ライラの実力もある程度は、分かったと思うから、他の魔物を連れてきてくれるか?」

「分かった。任せるのじゃ!」


 アルは、言い終わると同時に姿を消した。


「ライラ。体力を回復するから――」

「大丈夫。お兄ちゃんの手助けなしで、頑張ってみる」


 俺が言い終わる前に、ライラは俺の助けを拒否した。

 ライラは俺に助けてもらっては、意味がないと考えているのだろう。


 冒険者として、一人でも大丈夫だということを俺に見せたいのだろう。


「分かった。ライラが、そういうなら俺は何もしない。きちんと休憩していろよ」

「うん、ありがとう」


 ライラは呼吸を整えていた。

 実戦での経験を少しでも積みたいのだろうか? とも思いながら、俺はライラを見ていた。


 客観的に見ても、ライラは強くなっている。

 さすがは九尾の狐人族だけある。

 元々の才能に加えて、努力を惜しまないライラが、冒険者として成功しないわけがない。

 俺はトグルの弟子である鬼人族の双子ザックとタイラーを思い出す。

 先に冒険者になったライラに、差をつけられたと思い焦らないといいが……。

 トグルがいれば安心だとは思うが、思い込みが激しいところもある。

 あの双子は、俺のことを思い出していないと思う。

 それに、そろそろ冒険者登録ができる年齢になるので、修行にも身が入っているだろう。



「待たせたの!」


 アルが戻ってきた。

 手には見慣れぬ魔物を持っていた。


「アル、それは?」

「これは、ソニックウルフじゃ!」

「ソニックウルフ?」


 名前からして、俊敏な魔物なのだろう。


「ライラ、戦えるか?」

「うん、大丈夫」

「そうか。アル、頼む」


 俺の合図とともに、アルがソニックウルフを放った。

 ソニックウルフは、俺やアルには目もくれずに、ライラをターゲットにしたようだ。

 野生の本能で、一番弱いものをライラだと判断したのだろう。


 ソニックウルフの姿が消えた。

 いや、正確には消えるように思えたほど、早く動いていた。

 少なくともライラには、ソニックウルフが消えた! と思えたはずだ。


「……アル」

「なんじゃ?」

「ライラに……ソニックウルフは倒せるのか?」


 明らかに相性が悪い相手だと感じたし、実力もソニックウルフのほうが上だと感じた。


「ライラでは、勝てんじゃろうな」

「やっぱりな……」

「お主は、ライラの勝てる相手を連れて来い! とは、言っておらんかったじゃろう?」

「確かにそうだが……」

「苦手な相手と戦った方が、ライラのためになるじゃろう?」


 アルの言うことは、もっともだと思った。


「きゃぁ‼」


 ライラにソニックウルフの牙と爪が襲い掛かる。

 目にも止まらぬ速さで攻撃を繰り返すソニックウルフ。

 ライラに詠唱もできずに、ダンスを踊るように一方的に攻撃をされていた。

 ソニックウルフの攻撃を受けていると知って、ライラのことを見ていると『死のダンス』という表現がピッタリだ……。


「魔法に頼った攻撃をするライラには、少々きつかったかの?」

「そうだな……」


 俺は攻撃をされるだけのライラを見ながら、助けようかと悩む。

 助けるタイミングを間違えると、ライラも傷付くと考えていたからだ。


「何を悩んでおる?」

「何って――⁉」


 少し考えごとで、目を離した隙にライラは意識を失っていた。

 本当に一瞬の出来事だった。


「そこまでだ!」


 俺はライラを攻撃していたソニックウルフを掴む。

 突然、俺に掴まれたため威嚇するソニックウルフ。

 しかし、俺が睨むと尻尾を丸めて大人しくなる。


「アル!」


 俺はアルに向かって、ソニックウルフを投げる。

 一瞬、逃げようとする行動を


「ソニックウルフを元の場所に戻してやってくれ」

「分かった」


 アルは姿を消したかと思うと、数秒で戻ってきた。


 ライラは完全に意識を失っていた。

 意識を取り戻して、何も出来ずに倒れてしまったことを知ったライラはどう思うだろう。


 俺は自然にライラが目を覚ますのを、待つことにした。

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