第823話 神たちの解釈-2!

「人族に何かしましたか?」


 俺は抱き続けていた違和感は、ヒイラギたち神の仕業だと思っていた。


「そうですね。やはり、」


 ヒイラギは、人族の変化について説明する。

 まず、アデムとガルプのことは、無かったことにすると話す。


「ちょ、ちょっと待って下さい‼」


 俺は思わず、声を上げて説明を止めて質問をする。


「無かったことに‼ とは、どういうことですか⁉」

「言葉の通りです。と、言いたいところですが、少しだけ語弊がありますね」


 ヒイラギが言うには、ガルプが行った事については記憶から消すことは出来ない。

 しかし、それによる魔族への嫌悪感等は、魔物行進モンスターパレードの前に――いや、それ以上に戻して、魔族への嫌悪感を抑えたそうだ。


「それが可能であれば、人族と魔族でも意思疎通が出来る者もいます。対立自体を無くすことも出来るのではないのですか?」

「いいえ、貴方には以前にも御話ししましたが、今回は我ら神が犯したことによる影響を出来るだけ元に戻すつもりなのです。それ以上のことは出来ません」


 ヒイラギなりに、人族が俺やアルにネロの事を悪く思われないよう配慮したようだ。

 しかし、それだけでは納得出来ない部分もある。


「つまり、人族と魔族は、共存の道が歩めるかも知れないということでしょうか?」

「それは分かりません。しかし、魔族に関しては、何も変わっていません」

「そうですか……」


 アデムの時もそうだが、ヒイラギも問題の核心には触れずに回答をはぐらかすように思えた。

 俺いや、俺たちの知らない問題を隠している気もする。

 本当にそれだけだろうか?

 どうしても、猜疑心を抱いてしまう――。


 ヒイラギの言葉を要約すれば、魔族は今まで通り。

 人族のみ、魔族への嫌悪感が少しだけ薄れて、俺たちには好意的な印象を持つようになったということだ。

 確かに、俺たちに配慮した内容だ。

 それに、魔族に対しての抵抗が弱まるのであれば、魔族との共存についても、良い方向へと進むだろう。


「何を企んでおる⁉」


 何も言わずに話を聞いていたアルが、ヒイラギに突然、質問をする。


「企むとは?」

「元々、エクシズはアデムとやらの実験世界じゃったのだろう?」

「はい、先程もそのように説明させて頂きました」

「アデムの考えで種族を増やしたことにより、エクシズは争いの絶えな世界になったのじゃろう?」

「はい、その通りです」

「お主ら神は、そのまま傍観するつもりなのか? それとも、種族を選別したうえで淘汰するつもりか?」

「いえ、そのようなことは考えておりません」

「ほぅ、それは本当かの~」

「はい。私たちは本来、見守るだけです。もし、絶滅する種族が現れるのであれば、それはエクシズに住む者たちの総意なのでしょう」

「本当に、なにもせぬのじゃな?」

「何かをするとしても、長い年月を掛けて種族を変化させたりるなどについては、約束しかねます。しかし、突然発生等でエクシズを混乱させるような事や、私たち神が実験的な意味合いで生物を誕生させることは無いと御約束します」


 生物の環境に合わせた進化については、生物本来の姿ということなのだろう。


「神の眷属については、特例となります」


 神の眷属……シロやクロに、ピンクーのことだろう。

 ――んっ? そういえば、ピンクーの姿を見ていない。

 いつからだ?

 ガルプいや、プルガリスとの戦闘中には居た――。

 戦闘後は見かけたか?

 ……ん~、全く覚えていないが、見た記憶が無い。

 戦闘に巻き込まれた筈はない。

 シロとクロに聞いてみようと思ったが、今は聞けない。

 しかし、シロとクロは覚えているのに今の今迄、思い出さないのは変だ。

 そう、俺が忘れっぽいとはいえ……。


 そんな俺の異変に気が付いたのか、ヒイラギに代わりモクレンが口を開く。


「……気付きましたか」

「ピンクーのことですか?」

「はい。彼女は今回の事と関係ありませんが、エリーヌの不備で、大した説明も無く、エクシズに転移させてしまったので、きちんと話し合いをする必要がある為、こちらの世界に呼び戻しました。その際に、少しだけ貴方たちの記憶を操作させて頂きました」


 モクレンは右手を前に出すと、光の玉が現れる。

 徐々に光が消えると、戸惑うピンクーが立っていた。


「親びん‼」


 俺を見つけると、嬉しいのか駆け寄って来た。


「ここは何処ですか⁉」

「ん~、神の世界になるのかな? ほら、あそこにエリーヌもいるだろう?」


 俺の言葉で、ピンクーはエリーヌを見つけた。

 眷属に、使徒よりも後に気付かれる神って……。


「宜しいですか?」


 感動の再会では無いが、ピンクーは俺やアルにネロとも嬉しそうに話をしていた。

 勿論、神の存在を完全に無視してだ。


「はい」


 俺はモクレンに、返事をする。


「眷属その二――いえ、今はピンクーでしたね。エクシズは、どうですか?」


 モクレンはピンクーに問い掛ける。

 突然のことで、ピンクーは答えを考える。

 即答出来ないようだ。


「悩まれているようですね。あとで、詳しく話を聞かせて下さい」

「はい、分かりました」

「では、私と別の所で待機しましょうか?」

「はい」


 ピンクーは返事をすると、俺たちの方を向く。


「では、親びん。また後で」

「うん、後でな」


 ピンクーはモクレンの所まで走っていくと、モクレンと共に姿を消した。


「他に聞きたいことは、ありますか?」

「いえ。まだ、整理が出来ていませんので、後で気付いた事があれば相談をさせて頂くかも知れません」

「えぇ、それでも構いません。アルシオーネとネロは、どうですか?」

「特に無い。詳しい事はタクトに任せる」

「そうなの~」

「そうですか。では、エクシズでの使徒としての活動を、引き続き御願いします」

「はい、分かりました」


 俺の返事に、ヒイラギは笑みを浮かべた。


「では、エリーヌ。私たちも」

「はい、ヒイラギ様」


 ヒイラギとエリーヌは、俺たちに軽く頭を下げると目の前から消えたと同時に、俺たちもエクシズへと戻った。

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