第800話 戦後処理-4!

 ヒイラギからの謝罪もあったが、結局のところ何かが変わったわけではない。

 アルとネロが死んでいなかったという点以外は――。

 エクシズは、今回の件で人族と魔族の抗争がより一層強くなる。

 魔族の中に人族と友好的な者が居るとしても、信じては貰えないだろう。

 王都を必死で守ったアルだが、人族に受け入れられることは無いと思った。

 それよりも、ゴンド村で暮らす者たちのことが心配だった。

 魔族と仲良くしていることで、攻撃を受けたりする可能性だってある。

 正当防衛で反撃したとしても、悪い噂しか広まらないだろう……。

 そして、人族で魔王という俺の存在。

 非難されるのは構わないが、俺に関わった人たちまで巻き込むことは出来ない。

 ある意味、プルガリスいや、ガルプの思い通りの展開だろう。

 

「私どもとしても、謝罪するしかないですし、このようなことは二度と起こさないようにするとしか……」


 ヒイラギは申し訳なさそうだ。

 神だから何でも出来るという訳でなく、組織に属する以上は規則があり、多くの者たちの思想が働くため、管理するのも難しい。

 言いたいことは、なんとなく分かる。

 分かるのだが……。


「もう、エクシズが平和になる方法は無いのでは無いですか?」


 俺は諦めたように、ヒイラギに話す。


「いいえ、そんなことはありません。絶望の後には希望があります」

「……それは今回の件は、神にとって都合が良かったということですか⁉」


 ヒイラギの言葉が癇に障った。


「そういう意味ではありません。私も言葉を選ぶべきでした。配慮が足らず申し訳ありません」


 エクシズに生きる人たちにとって、信仰が薄れてきている事実。

 そこにガルプという悪の存在。

 俺が魔王という問題を除き、エリーヌの加護を受けてガルプを倒したとなれば、エリーヌの名が広まるのは間違いない。

 ヒイラギに悪気がある訳では無いのだろうが、ヒイラギの言葉には心が感じられなかった。

 あくまで事務的に話をするように思えた。

 俺が何を言っても結論は変わらない。

 だから、俺に文句を言わせるだけ言わせて、適当にあしらっているだけなのだ。

 神からすれば長い年月に起きた一時のことだから、まともに相手をする必要がないのだろう。

 そう、それが神側に非があってもだ。


 結局、アデムとガルプの悪事の説明を聞いただけだ。

 アデムの処遇についても、俺が騒いでも変わらない。

 俺に配慮するようなことを言うが、立ち会う事など出来ない事くらいは承知している。

 建前上、俺から了承の言葉を取り付けたかったのだとも感じた。


 気まずさからエリーヌの方を、まともに見ることが出来ない。

 それはエリーヌやモクレンも同じだと思う。

 あれ以降、目線が合わさることが無いからだ。


「本当に今回の件は、申し訳ありませんでした」


 ヒイラギが頭を下げると、モクレンとエリーヌも同じように頭を下げた。

 モクレンやエリーヌよりも少し早く頭を上げたヒイラギ。


「ついでと言っては何ですが、オーカスにも会って行って下さい」

「オーカス様に?」


 俺としても、オーカスには会いたいと思っていた。

 あれだけのアンデッドを使用したプルガリスの事を聞きたかったからだ。

 俺から見れば、あれは死者への冒涜以外の何物でもなかったからだ。


 気持ちの整理がつかないまま、ヒイラギたちと別れると、景色が変わりオーカスらしき人物が現れた。


「今回の件、大変だったな」

「はい……ここは冥界ですか?」

「いや、違う。神の世界という表現が正しい」

「そうですか……」


 どう話を切り出そうかと、俺は悩む。


「まずはアンデッドたちを解放してくれて感謝する」

「いえ……私としても倒さなければいけませんでしたから……」

「そうだな。私に聞きたいことがあるのだろう」

「はい。何故、プルガリスはアンデッドを操ることが出来たのですか?」

「それは、アデムとの契約だったからだ」

「……どういうことですか?」


 オーカスは説明する前に、アデムの共犯者で無いことを話す。

 アデムが上級神になったタイミングで、接触してきた。

 何かあった時に一度だけ、アンデッドを召喚させて欲しいと提案する。

 アデム曰く、エクシズが混乱した際に自分の代行者に使わせるためだと。

 そして、自分自身の昇進祝いだと言ったそうだ。

 オーカスも上級神であれば、悪用しないだろうと一度だけの使用を了承したそうだ。

 まさか、このようなことに使用されるとは夢にも思っていなかったようだ。

 話しぶりからも、オーカスの悔しさが伝わってきた。

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