第788話 王都襲撃-10!

 プルガリスは俺から視線を外すことなく、話を続けた。


「まぁ、いいでしょう。貴方が何をしようが私の勝利は揺るぎません。それよりも、自分の分身の心配でもしたらどうですか?」


 プルガリスの顔から不快な表情は消え、笑みに戻っていた。

 プルガリスに言われるまでも無く、俺の分身たちの状況は分かっている。

 街の人から罵声を浴びせられ、石などを投げつけられている。

 王都がこんなことになったのも、俺のせいだと思っているようだ。

 俺さえいなければ、王都は襲撃されなかったと涙ながらに石を投げつける人々。

 俺が何を言ったところで、聞いては貰えないだろう。

 俺は街に現れた魔物を倒すことだけに集中していた。

 ――いや、街の人たちの言葉を全て聞く勇気がなかっただけなのかも知れない。


「どうですか? あれが、人族の本性です。自分たちが助かれば、同族だろうが裏切るような種族ですよ」

「――それがどうした」

「ふっ……今の貴方の言葉は、ただの強がりにしか聞こえませんよ」


 言い終わると背中の翼を広げて、黒い羽根を俺に向けて一斉に放出した。

 避けようとするが、【光縛鎖】のせいで距離を取ることが出来ない。

 分かっていたことだが、思っていた以上に勝手が悪い。

 しかし、早めに【光縛鎖】を使用しないと、プルガリスに逃げられる可能性があったので仕方が無い。


「――っ!」


 これしきの攻撃で、これほどの深手を負うとは信じられなかった。

 【身体強化】がなんらかの理由で、発動していない――そういう事か!


「お前、俺のスキルを無効化しているな」

「ほぅ、気付きましたか。さすがですね」

「しかし、全てのスキルを無効化する訳では無いようだな」

「さぁ、どうですかね」


 プルガリスの戦闘中に【オートスキル】にセットしてある【MP自動回復】や【魔法威力増加(十倍)】は、問題無く発動している。

 【転移】や【結界】に【分身】も同様だ。

 発動していないのは、【魔法反射(二倍)】【身体強化】。

 それに今の攻撃に使用された羽根には毒があった。

 【全属性耐性】があれば、毒を無効化出来た筈だが、ステータスは『状態異常:猛毒』となっている。

 【神の施し】で状態異常は無くなり、正常に戻したが――。

 考えられるのは、【魔法反射(二倍)】【身体強化】【全属性耐性】の三つが無効化されている。

 他にもあるかも知れないが、戦闘に大きく影響するのは、この三つだろう。

 しかし何故、【自己再生】を無効化しなかったのだ?

 出来なかったのか? それとも――。

 俺は、プルガリスの発言を思い返す。

 プルガリスは【自己再生】を使用した俺を見せることで国民の不安を煽っていた。

 俺が魔王そして、人族でありながら、人族で無い存在を知らしめるために、敢えて無効化しなかったのだと結論付けた。


「私と離れられないのであれば、別の者に貴方を攻撃させれば、よいのですよね」


 プルガリスは仲間を呼ぶように、声を上げる。

 すると、影の中から十数人の魔人が出現した。


「この時をどれだけ、待ち望んだ事か……ようやく、恨みが晴らせられる」


 魔人は狐人に姿を変える。

 俺は彼らに見覚えがあった。

 ライラたちの住んでいた狐人族の里の元頭首『レクタル』と、その仲間たちだ。


「王都の者たちよ。私は狐人族の里で頭首をしていた者だ。この冒険者の策略に嵌り、里を追われた。今、思えば可笑しなことばかりだった。王都の人々よ、騙されるな! 私のようになりたくなければ……決して、この男を信用してはいけない!」


 レクタルの姿が空に映し出され、同情を買うような声が響き渡った。

 空から映像が消えると、レクタルたちは再び魔人の姿へと変わる。


「これで、お前の信用は更に無くなるだろう」

「……魔族になったから、俺のことを覚えているってことか」

「あぁ、里を追放されてからは、食うにも困るような酷い生活だった。それをプルガリス様は助けて下さった。そればかりか、このような素晴らしい力まで、授けて下さった」

「所詮、クズはクズか……」

「何だと‼」


 レクタルたちは俺を取り囲むと同時に、攻撃を仕掛けて来た。

 アンデッドになる事を懸念して、【火球】を使って応戦する。


「ぐぁぁぁぁぁ――‼」


 レクタルたちは悲鳴を上げながら、消し炭になる。


「……全く、使えませんね」


 期待通りの働きをしなかったレクタルたちに、プルガリスは御立腹のようだ。


「あぁ、最初から期待した私が馬鹿だったのでしょう」


 プルガリスと戦闘と会話をしながらも、俺は分身たちの様子を確認する。

 王都で魔物討伐をしている俺の分身たちへの風当たりは、先程以上に酷いものになっていた。

 冒険者でも俺に攻撃を仕掛けてくる者もいた。

 他の冒険者が必死で止め、仲間割れが起きている。

 既に正常な精神状態を保っていられない人たちもいるようだ。

 これもプルガリスの狙い通りなのだろうか……?

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