第766話 ババ抜き大会ー2!
決勝には、ターセルとネロ、そしてゴードンとリズが勝ち進んだ。
料理が終わった俺は家の窓から【望遠】を使い、試合を観戦していた。
ターセルは完全にポーカーフェイスで、淡々とカードを引いている。
反対にリズはカードを引く度に、微妙に表情に出ている。
リズのカードを引くターセルは、リズの表情からカードの内容を読み取っているのかも知れない。
ネロも頑張ってポーカーフェイスをしているようだが、枚数が少なくなっていくと、表情が崩れ始める。
優勝を意識し始めたからだろう。
恐ろしいのは、前村長のゴードンだ。老人だから表情の変化は殆ど無くポーカーフェイスというよりも無表情といった表現が正しいのだろう。
長く伸びた眉毛に細い目は、何処を見ているのか分からない。
結局、優勝はゴードン。準優勝にターセル。三位はネロだった。
しかし、ターセルはビンゴ大会の時といい、必ず勝っているイメージがある。
かなり運が強いのだろうか? それとも鑑定士は運が強い職業なのだろうか?
俺は、どうでもいいことを考えていた。
「親びん。誰が一番弱かったのですか?」
胸元からピンクーが質問をする。
「一番弱い奴は決めていない」
「弱い奴は相手にしていないのですね」
「……それは、ちょっと違うな」
ピンクーの言うとおり『最弱者』を決めるのも面白いとは思う。
しかし、万が一……子供が、最弱者の称号を受け取ってしまうと、他の子供達から虐めに会う可能性もある。
誰もが自分の方が優位だと思い、優越感に浸りたいだろう。
当然、ゴンド村で生活している村人たちに、そのような者がいるとは思っていない。
しかし、傷つける気が無い何気ない一言……悪意のない言葉ほど質の悪いものはない。
言葉の続きを口にしない俺に、ピンクーが不思議そうに見ていた。
「お前も、いつか分かる時がくるさ」
ピンクーの頭を人差し指の腹で撫でる。
「なっ、なんですか!」
意味が分からないピンクーだが、頭を前後左右に振られながら抵抗していた。
「御主人様。そろそろ、表彰式のようですよ」
「そうか、意外と早いな」
戦いの余韻冷めやらぬうちに、クロの司会で表彰式を行う準備をしていた。
参加者は、歓談しながら時間を過ごしていた。
(……なんで、俺の方を見ているんだ?)
俺は気付かない振りをしているが、マリーが俺の方を見ていた。
遠く離れている俺を、わざわざ見ているということは意識的に見ていることになる。
何も悪い事はしていない。それ以前に俺のことは覚えていない筈だ……。
苦手意識では無いが、マリーが怒っていると俺に原因があると思ってしまうのは、悲しい性のようだ。
暫くするとマリーは、王妃であるイースに声を掛けられる。
ユイと合流して、会話を楽しんでいるようだ。
「くやしいの~‼」
ネロが叫びながら部屋に入って来た。
「お疲れ! よく頑張ったな」
「でも、優勝出来なかったの~」
「アルは予選落ちだから、ネロは決勝に進めただけ凄いことだぞ」
俺が褒めると、ネロは少し照れていた。
「何故、妾と比較をするのじゃ! 次は絶対に勝つからの!」
後ろにいたアルが俺を睨みつけていた。
「頑張れよ」
「次は……お主も参加するのじゃぞ」
「そうなの~、師匠も参加するの~」
「まぁ、その時に考えるよ」
俺は誤魔化すように答えた。
「それより、表彰式の準備を手伝わなくてもいいのか?」
「村人がやるからと、追い出されたのじゃ……」
「そうなの~」
アルとネロは追い出されたことに不満があるのか、不貞腐れた表情をしていた。
ババ抜き大会を主催したのはアルとネロだ。
大会の最後に主催者が、表彰式の準備をするのは申し訳ないので、村人たちからの気遣いなのだろう。
「そうじゃ、タクト! 最初の数字の遊びをやろう」
「二十を言った方が負けの遊びか?」
「そうじゃ、妾も強くなったからの」
「私もなの~」
自信満々な二人を言い放つ。
「別にいいが、一回だけだぞ」
「勿論じゃ! 師匠越えの瞬間じゃ」
「絶対に勝つの~」
「じゃあ、アルから始めるか……」
俺はアルと、懐かしい対戦を始める。
よく考えれば、この勝負で俺のこの世界での立ち位置が変わったと言っても間違いでは無い。
「どっちが先行だ?」
「妾じゃ」
懐かしさを感じながら、数字を口にする。
「十八、十九」
「……二十じゃ」
俺という壁を越えられなかったアルは、ババ抜きで負けた時よりも悔しそうな顔をしていた。
昔の時のように半べそにはなっていない。
「次は私なの~」
アルを押しのけるようにして、ネロが勝負を挑んできた。
「師匠が先行なの~」
「分かった。一、二、三」
「四なの~」
・
・
・
「十九」
「二十なの~……やっぱり、師匠には勝てないの~」
ネロも項垂れる。
「まぁ、師匠らしいことくらいさせてくれ」
二人の目線に合わせてしゃがんだ。
「そうじゃな。お主はやはり、妾の師匠じゃ」
「違うの~、私たちの師匠なの~」
二人の顔に笑顔が戻った。
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