第762話 余計なこと!

 ゴンド村も一通り回り終えて、雑談をしながらクラリスたちは、村人の服を作っていた。

 男性ということで、女性に比べて装飾品が少ないので、人数が多くても簡単なようだ。

 村人たちも、アラクネ製の衣類の良さを知ったのか、アラクネたちとも好意的に接している。

 わざわざ、森に入って虫を収穫してくるほどだ。

 勿論、クラリスたちは大喜びだ。

 自分たちだけの特権だと思ったのだろう。

しかし、虫を食べる姿に、村人たちの表情は引きつっていた。

 食事に対して、昆虫を食す種族はゴンド村にはいなかったからだ。


 午後の部も問題無かった。

 これで、ゴンド村見学ツアーの終了だ。


 最後に、クラリスがゴンド村に向けて、感謝の挨拶をする。

 その表情は、どこか寂しそうにも見えた。


「機会があれば、いつでもお越し下さい。村人全員が歓迎して、お待ちしております」

「ありがとうございます」


 クラリスは、深く頭を下げた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 アラクネたちは、昨日今日の興奮が冷めないのか、ゴンド村の話ばかりしている。

 外の世界への憧れが、より大きくなったことは間違いないだろう。

 しかし、誰もが「集落を出ていく」という言葉を口にしていない。

 誰かが口にするのを待っているかのようだった。


「集合!」


 クララの言葉が響き渡る。

 アラクネたちは一斉にクララの元へと集まる。


「それぞれ、貴重な体験をしたと思う。それは私たちにとって、これから大切なことだろう。押し殺している気持ちだが、どうするかは個人の判断に任せるが、集落を出ていくのであれば、ゴンド村だけだということは肝に銘じておいて欲しい。勿論、あちらの承諾ありきだ」

「俺からもいいか?」

「なんだ?」

「以前にも話をしたが、ゴンド村は特殊な村だ。他の村などに行きたいという気持ちもあるだろうが、その場合は捕獲されて拷問の末、他の仲間の居場所を言わされたりと他の者たちを危険に晒すことがある。だからこそ、アルやネロたちが居るゴンド村しか、選択肢が無いことは分かって欲しい」


 俺の言葉を理解したのか、誰も口を開かなかった。


「明朝、意見を聞きたいと思っている。勿論、最終判断だとは思っていないので、安心してくれ」


 そう言うとクララは、その場から離れた。

 アラクネたちは自分の気持ちを再確認するように、黙ったまま動こうとしなかった。



「クララは、どうするんだ?」


 俺は離れて行ったクララの後を追い、質問する。


「私は、残るつもりだ」

「一人でもか?」

「一人でもだ! 先祖より受け継いだ土地を守るのも族長の使命だからな」

「立派だな」

「そんなことは無い。それに……集落を出ていくもの達には、私の出来なかった事を存分にして貰えればよいと思っている」

「しかし、その場合はリーダーのような人物がいないと駄目だろう?」

「クラリスがいる。あれは、必ず集落を出ていく。決して、悪い意味ではない。さっきも言ったが応援する気持ちはある。もし、余計なことを言えば、気持ちが傾いてしまうかも知れない」

「母親として、娘の気持ちが手に取るように分かるのか?」

「まぁ、そんなものだ」


 クラリスを見るクララの横顔は、寂しそうだった。


「おやび~ん」


 背後から、ピンクーの泣きそうな声が聞こえて来た。


「クロ兄が虐めるんです~」

「何を……」


 人型のクロに引きずられているピンクーは、俺に助けを求めていた。


「強くなっている証拠だろう?」

「強くなる前に、死んでしまいますよ」

「……じゃあ、死ぬか?」


 俺が低めの声色で返すと、ピンクーの顔から血の気が引いていく。


「すっ、すいませんでした。頑張って強くなります」

「うん、頑張れよ」


 俺は笑顔で返す。

 一応、どれくらい強くなったのか【神眼】で確認する。

 『レベル三』……。一日半としては、上出来なのだろうか?

 新しいスキル等は覚えていないが、HPとMPが少ない。

 レベル六十になるまで、どれくらい掛かるのだろうか……。

 不安な気持ちになる。


「親びーん‼ これ、凄いですよ」


 さっきまで半べそをかいていたピンクーが、笑顔で走ってきた。


「ほらほら! 皆さんが、小さく入っているんですよ」


 写真を指差して、興奮していた。


「それは写真だ。その時の状況をその絵? みたいな感じで記録することが出来る」

「そうなのですか‼ エクシズの世界は凄いですね!」

「エクシズの世界?」


 横で話を聞いていたクララが、首を傾げた。


「あぁ、気にするな。ピンクーは、たまに変なことを言うからな」

「親びん、失礼ですね。私は、れっきとしたエリー……」


 全てを言う前に、俺の目を見て、言葉を飲み込んだ。


「なっ、なんでもないです。あっ、誰かに呼ばれたみたいです。では!」


 誰もピンクーのことなど呼んでいない。

 都合が悪くなると逃げ出す。

 確かに、ピンクーはエリーヌの眷属だと改めて感じた。

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