第761話 副族長の振る舞い!

 ゴンド村見学ツアー二日目。

 クロとピンクーは特訓の為、別行動だ。


「おっ、親びん! 私も一緒に連れて行ってください」

「貴女は、私と一緒に特訓です」

「ひっ! い、いや~~~~」


 泣きながら同行を求めるピンクーだったが、クロに連れてかれた。

 昨日の午後に、少しだけ特訓したようだが、そんなに嫌がるような内容だったのだろうか?

 しかし、ピンクーを見ていると、どことなくエリーヌを思い出す。

 目の前の面倒事や、問題などから逃げようとする姿勢が、エリーヌと重なるのだろう。


 さて……。

 俺はアラクネ族副族長のクラリスたちと、ゴンド村に向かうことにした。

 初めて外に出るのか、アラクネたちは緊張している。

 昨日のアラクネたちと同じだ。


「緊張しているのか?」

「大丈夫だ。それより、私たちはゴンド村の男性たちの服などを製作すればよいのだな?」

「悪いが頼むな」

「何を言っている。あのような素晴らしい土産を頂いたのだ。それくらいはさせて頂く」

「……クラリス。まだ、ゴンド村じゃないから、そんな話し方じゃなくても大丈夫だぞ?」

「こっ、これは、予行練習というやつだ」


 アラクネ族族長のクララ同様に、アラクネ族副族長としての振る舞いに気を使っているのだろう。

 無理をしても、そのうちボロが出るだろうに……。


「行くけど、いいか?」

「だっ、大丈夫だ。問題無い」


 俺は【転移】を使い、アラクネ族をゴンド村まで運んだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「こ、これは!」

「クラリス、凄いわよ」


 今回のクラリスたちは、比較的に若いアラクネたちになる。

 昨日は年長組だったが、年上の者たちが興奮気味に話すくらい、刺激的な村だと分かっていたので、彼女たちなりに妄想を膨らませていたに違いない。

 それに年長組のアラクネたちは、極力話さないようにしていたのか、静かに見学をしていたが、若者のアラクネたちは好き好きに話し始めている。

 族長であるクララと、自分たちと仲が良く話しやすい副族長であるクラリスという違いもあるかも知れない。


「えーっと……」


 ゾリアスは、先頭にいるのがクララなのかで悩んでいた。


「今日は副族長のクラリスが責任者だ。クララは集落に残っている」

「そうなのか、違うとは感じたが確証が無かったので、教えてくれて助かった」


 ゾリアスはクラリスに声を掛けて、ゴンド村の村長としての挨拶をする。

 クラリスもゾリアスの挨拶で、職務を思い出したのだか毅然とした態度になり、挨拶をする。


「お姉ちゃん。乗せて!」

「乗せて、乗せて~‼」


 子供たちがクララたちの元へと集まってきた。

 そこに警戒心など微塵もない。

 クラリスも、事前にクララから聞いていたので、子供たちを尻に乗せることを了承した。

 ここで、俺はアルとネロがいないことに気付く。


「アルシオーネ様とネロ様は、用事があるとかで村にはいないぞ」

「そうか」


 俺の目線で分かったのか、ゾリアスが教えてくれる。

 アルとネロがいない為、俺が子供たちを乗せることとなった。

 シロも手伝ってくれたので、それほど時間も掛からなかった。


 昨日とは違い、事前に説明は無く、村を案内しながら丁寧に説明をしていた。

 若いからなのか、子供たちとも話をしながら楽しそうにしている。

 事前に情報があったことも大きかったのだろう。


「よっ、タクト」


 名前を呼ばれて振り返ると、声の主はドワーフ族のトブレだった。


「おぉ、トブレ。昨日は、話せずに悪かったな」

「気にするな。お互いに忙しい身だからな」

「俺はそうでもないぞ」

「まぁ、そういうことにしておいてやる」


 二人で軽く笑い、会話を楽しむ。


「しかし、引き籠りのアラクネ族が、一体どういう風の吹き回しだ?」

「引き籠っていたから、外の世界が見たくなったんだろう」

「なるほどね。それより、あいつらも此処に住むのか?」

「さぁ、そこまでは分からないな」

「もし、住むなら場所の確保などで大変だからな」

「確かに、そうだな」


 トブレに言われて俺は村を見渡す。

 確かに手狭だ。


「ダックたちも多くなってきたしな」


 ダックとは、俺が任命したコボルト族のリーダーだ。


「多くなったとはいえ、寿命が三年から五年だと、ゾリアスから聞いたぞ?」

「なにを馬鹿なことを。俺の知っているコボルトは、数十年生きていたぞ」

「そうなのか?」


 確かにゾリアスも外敵がいた場合と、言っていた気がする。


「コボルトたちが短命と言われるのは、成人になるまでに殺される確率が高いからだ。なにより、コボルトの肉は旨いらしく魔獣たちから狙われるからな」

「おいおい、ちょっと待ってくれ! それが本当なら、コボルトの数が村で一番多くなってしまうんじゃないのか?」

「確かにな。しかし、コボルト族は忠義を重んじる種族だから、面倒を見てくれている人族に反旗を翻すような真似はしないだろう」

「そうなのか?」


 確かに、村にいるコボルトたちは大人しく、働くことに生きがいを感じていた気がする。


「コボルトは確かに一度で三人前後の子供を産む。しかし、一年後に子供全員が生きていられることは少ないだろう」

「病気か?」

「俺もよくは知らないが、生まれて来た子供が全員死ぬことも良くあるらしいぞ」

「……」


 子供が死ぬと聞いて、いい思いはしなかった。


「まぁ、コボルト族のことなら、犬人族の方が詳しいかもな。地域によっては独自に交流を持つ奴もいると聞く。だが、大っぴらに魔族と仲がいいとは言わないから、聞き出すのは難しいだろうな」

「そうか……。しかし、トブレは物知りだな」

「数十年前に、俺たちの所に来た犬人族から聞いただけだ」

「なんで、ドワーフの集落に?」

「あぁ、なんか作って欲しいものがあるとか言っていたぞ。まぁ、ラチスが断ったらしいがな。名前は確か……シーバとか言ったな」

「シーバ!」


 俺は犬人族でシーバという人物を知っている。

 王都魔法研究所所長のシーバだ。

 ドワーフ族のことを知っていたから、カメラを手に取った時にドワーフ製だと気付いたのか。

 俺がシーバのことを思い出していると、トブレは仲間のドワーフから呼ばれたようなので、簡単な挨拶をして別れた。

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