第749話 眷属その二!

「……それで、どうして俺たちを監視しているんだ?」

「……」


 ハムスターは喋らない。

 ムーンウルフの群れが去ろうとした時に、ムーンウルフたちに見つかり、襲われていたところを助けてやった。

 助けた後も距離を取りながら、俺たちを監視していた。

 一応、川原を移動してみると後をついて来る。

 それもへたくそな尾行だったので、簡単に捕獲出来た。

 捕獲の際に、「うわぁ!」と叫んだので、言葉は理解できている筈なので【念話】

は使用していない。

 俺は【鑑定眼】でハムスターを見る。

 種族名が『ジャイアントモモンガ』となっている。

 ……ハムスターじゃなかったのか!

 モモンガなんて、実際に見たことが無いので分からないが、こんなに太っているものなのか?

 そのまま、下に目をやると気になる一文を見つける。

 『神エリーヌの眷属』。

 ……なんとなく、分かった気がした。


「シロ。多分だが、シロの後任だ」

「私の後任?」


 シロは、俺の言葉が理解できなかったようだが、すぐに意味を理解する。


「エリーヌ様の眷属ですか」

「らしいぞ」


 俺たちの会話を聞いて、ジャイアントモモンガは驚いていた。

 何故、自分の正体が分かったのだろうと思っているに違いない。


「確かに眷属の仕事は、使徒の監視などもふくまれておりますが……」

「彼は他の世界から転生させられたようですね」

「しかし、監視対象に見つかるって、どれだけ間抜けなんだ?」


 俺たちはジャイアントモモンガそっちのけで、話をしていた。

 ジャイアントモモンガも話の内容が気になっているのか、耳が小刻みに動いていた。


「どうせ、エリーヌの事だから、こいつの名前を適当に『眷属その二』とかにしたんだろうな」

「そうですね。私は『眷属その一』でしたから……」

「どちらにしろ、目的を聞かなければ話が進みませんね」

「確かに、クロの言うとおりだな」


 俺はジャイアントモモンガの目の前に移動して、尋ねてみる。


「目的はなんだ?」

「……」

「エリーヌに何を言われたのか?」

「……」


 一向に話す気配が無い。


「……面倒だし、殺すか!」


 俺は殺気を込めて、ジャイアントモモンガを睨む。

 勿論、殺すつもりは無いが何も話さないのでは、話が進まない。

 ジャイアントモモンガは、震えると足の辺りから液体が流れる。

 ……恐怖のあまり、失禁したのか?


「ごっ、ごめんなさい」


 ジャイアントモモンガは泣き始める。

 何か以前に見たことのある状況だ。エリーヌの眷属らしいという表現が、ぴったり当てはまる。


「とりあえず、質問に答えろ!」


 少し罪悪感もあるが、このまま話を進めた方が効率が良いと思った。


「そっ、その……先輩であるシロ様やクロ様に眷属としての教えを請うように、エリーヌ様に言われたのですが、使徒であるタクトには絶対に見つからないようにと言われましたので……」


 ……シロとクロは敬称があるのに何故、俺だけ呼び捨てなんだ?

 本当にエリーヌの眷属らしいと改めて思う。


「……分かった。シロとクロは、こいつに眷属とは何かを教えてやってくれるか?」

「御主人様は、どうされるのですか?」

「エリーヌに会って来る」

「分かりました」


 シロがお辞儀すると、クロも合わせて頭を下げる。


「そっ、そのシロ様とクロ様は何故、たかが使徒如きのタクトに頭を下げるのですか?」


 俺が怒る前にシロとクロから怒りを感じた。


「御主人様を侮辱するのであれば、私が相手になりますよ。今の私は眷属でなく、御主人様であるタクト様に仕えておりますから」

「いやいや、我が先に相手を致します。主を馬鹿にされて黙っているほど、温厚ではありませんので」

「えっ、どういうことですか!」


 シロとクロの迫力に、ジャイアントモモンガは意味が分からずに戸惑っていた。

 ジャイアントモモンガの様子から、エリーヌがろくに説明もせずにエクシズに送り込んだのだろうと感じた。


「もういい。お前も詳しい話をエリーヌから聞いていないんだろう」

「エリーヌ様を呼び捨てとは、使徒の分際で許さな……」


 ジャイアントモモンガが全てを言う前に、シロとクロの視線を感じたのか、口を噤んだ。

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