第701話 得手不得手!

「何故、許す気になったんだ?」


 俺はステラに尋ねる。


「簡単な事です。あの子にとって、あの二人は掛け替えの無い存在です。もし、私が二人を殺せば、あの子は一人ぼっちになってしまいます」


 ステラは俺の方を見ずに答える。

 もしかしたら、テオドラの姿が小さい頃の自分と被って見えたのだろうか?


「他の奴らも同じで、いいのか?」

「……そうですね」


 ステラの中で、かなりの葛藤があっただろう。

 本心では殺したい筈だ。

 しかし、テオドラのように、黒狐を抜けた者達を頼りにしている者達が居るのであれば、殺す事で俺達は黒狐と同じだと思われてしまうだろう。

 負の連鎖を断ち切る事無く、永遠に続く。


「そろそろ、王都に戻ります」

「分かった」


 俺達は王都へと戻る。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 王都の近くまで【転移】をして、クロの影から助け出した四人を出す。


「あそこが王都になります」


 ステラは四人に説明をして、王都へと歩く。

 王都の門を通過すると、ステラは振り向き四人に向かい話をする。


「皆様とは、ここでお別れです。辛かったでしょうが、これからは前を向いて、頑張って下さい」


 ステラの言葉に、四人は感謝の言葉を口にして、俺達は別れた。


「では、国王様に報告しに行きましょう」

「俺も必要か?」

「何を言っているんですか。当たり前でしょう」


 久しぶりに馬鹿な子を見るような目で、ステラに見られる。


「報告を終えたら、貴方に御願いしたい事があります」

「なんだ?」


 ステラの頼みは、ステラの命の恩人であるラウ爺への報告だった。

 そして、かって自分の村だった場所を訪れて、死んでいった仲間達にも報告をしたいたいそうだ。

 俺であれば、一瞬で行く事が出来る。


「分かった。いつでも連れて行ってやる」

「有難う御座います」


 城へも【転移】するかと聞くが、もう少し歩きたいと言うので、俺も歩くのに付き合う。

 ステラとの会話が弾むはずも無く、無言で歩き続ける。

 先頭のステラを、俺とシロにクロが着いて城の入口まで着く。

 城内に入ると、復旧作業をしている作業員に挨拶をしながら、俺達は歩いた。


 ステラが、誰かを呼び止めて戻った事を伝えた。

 ルーカス達は予定があったので、伝言だけ頼むようだ。

 ステラは何も言わずに、歩き始めた。


「この部屋で待ちましょう」


 ステラは部屋の前で、俺達に話しかけて部屋の扉を開けた。

 そして俺達は待合室で、ルーカス達から声が掛かるのを待つ。

 相変わらず、ステラと共通する話題が無いので、無言のままだ。

 俺は窓から、復旧作業の様子を見ていた。


「なんか用か?」


 俺は窓を見ながら、独り言を話す。

 ステラが俺を見ているだろう。


「ステラに言ったんじゃない。暗部か?」


 扉の横に気配を感じる。

 殺気や敵意は無いので、監視しているようだ。

 俺の問いに答える事無く、気配が消えた。


 しかし何故、暗部が?

 いや、もしかしたら暗部では無いのかも知れないが……。


「……誰か居たのですか?」

「いいや、俺の勘違いだ」


 俺はステラに話す事を止めた。

 話したことにより、ステラが変に警戒するのは、申し訳無いと思ったからだ。

 それから一時間程の間、誰も言葉を発する事無く静寂な時間が過ぎていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「早かったが、問題でも起きたのか?」


 思った以上に早い帰還だったので、ルーカスが驚いていた。


「いいえ。問題無く、黒狐は殲滅致しました」

「……そうか」

「しかし、街に潜伏している残党がおります」

「確かにな。その残党やらが新たな黒狐を作る可能性は無いのか?」

「それは無いかと思います。頭目であるブラクリは居ません。新たに黒狐を率いる者は居ないでしょう」

「間違い無いのか?」

「はい」


 ルーカスは少し考える仕草をする。


「黒狐の残党を一掃する事は可能か?」

「はい。黒狐の象徴でもある紋章いえ、刺青が体の一部にあります。それを見つければ良いかと思います」

「その紋章は覚えているか?」

「はい。書く物を頂ければ」


 ルーカスの指示で、ステラに書く物が運ばれてステラが書き始める。


「この紋章です」


 ステラが書き終わった絵を広げて、ルーカスに披露する。

 俺は、その絵を見て愕然とする。

 絵が下手すぎる……。

 これは俺が訂正する必要がある。


「ちょっと、待ってくれ。そんな感じじゃなかっただろう」


 俺の言葉に、ステラが怪訝な表情を浮かべる。


「……私の書いた絵に文句でもあるのですか?」

「文句というより、違うから違うといっただけだ」

「いいえ、これで正しい筈です」


 ステラは譲ろうとしない。

 俺が何を言っても、言い合いは平行線を辿る。


「貴方達、国王様の前ですよ」


 見かねたロキサーニが、俺達の言い争いを止める。


「申し訳御座いません」


 ステラは冷静さを取り戻して、ルーカスに謝罪する。

 俺も同様に謝罪する。

 ひと呼吸置いて、ステラは俺の方を向く。


「そこまで言うのであれば、貴方も書いて下さい」

「あぁ、いいぞ。ついでにシロとクロにも書いてもらって、答え合わせをすればいい」

「分かりました。国王様、彼等にも書く物を用意して頂けますでしょうか?」

「そうだな」


 俺達の所にも書く物が運ばれてきたので、三人それぞれ書き始める。

 俺が書き終える頃には、シロとクロは書き終えていた。


「これが正解だ」


 俺は自信満々に書いた物を見せる。


「確かに私のよりは近い気がしますね」


 ステラの言葉に、「いやいや、お前のは微妙に似ているだけだろう」と言いたかった。


「お二方も見せて頂けますか?」


 シロとクロも披露する。

 二人共、ほぼ同じ図柄だった。

 これを見たら、俺の書いた絵が陳腐に思えた。


「そうですね。これが正解ですね」


 シロとクロの絵に、ステラも納得したようだった。

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