第679話 定着!

「それと」

「まだ、あるんですか!」


 アデムが話している途中だったが、俺は思わず叫んでしまう。


「あっ、すいません」

「気にしなくていいよ」


 大声をあげた事を謝罪する。

 アデムは笑顔のまま、話を続けた。


「結論から言うと、君に掛けられた【呪詛】だけど、もう解除出来ない事は前に話したよね」

「はい。私の抑止力になっているとかですよね」

「その通りなんだけど、解除は出来ない事で一応、君に報告だけしておこうと思ってね」

「えっ、どういう事ですか?」

「君の体と言うか、魂に【呪詛】自体が定着してしまっているんだよ」


 アデムは詳しく説明をしてくれた。

 俺がレベルを上げすぎた事で、【呪詛】が馴染んでしまい解除出来なくなったという事らしい。

 通常であれば、【呪詛】を掛けられたとしても解除するまで、大目に見たとしてもレベル向上は十五程度だ。

 俺の場合は発動した時期は低レベルの時なので、百以上もレベルが向上している事になる。

 レベル向上した事が裏目に出た。

 この事は、【呪詛】を解除しようとしていたアデムには、少し前に分かったらしい。

 しかし、今更どうしようもない事らしく、次に俺と会った際に伝えるつもりだったそうだ。


「無理に解除しようとしたら、君の魂が傷付くからね」


 俺には掛けられた【呪詛】は、【呪詛:言語制限】と【呪詛:恩恵ユニークスキルの代償】の二つ


 エリーヌを見るが、先程まで笑顔で俺を見ていたが一転して、俺と目線を合わさないように必死だ。


「まぁ、部下であるエリーヌのせいだからね。私としても、出来る限りの事はしようと思ってるよ」

「どういう事ですか?」

「まず、【呪詛:言語制限】は解除は勿論だけど、修正も難しい。既に君の口調として完全に定着してしまっている。話せなくなってもいいのであれば、そうするけど?」

「……話せないのは不便ですから、このままで御願します」

「うん、分かったよ」


 アデムの目的は、俺の口から「現状維持」を言わせたいのだと思った。

 神であるエリーヌの失敗を、俺に選択肢を与える事で、最終判断は俺が決断した事にしたいのだろう。

 結局、アデムの思惑通りに進んでいるかと思うと、少しだけ怒りが込み上げる。


 【呪詛:恩恵ユニークスキルの代償】は、俺を殺す事が出来る【呪詛】になる。


「そうだね……スキル値の振り分けを、もう少し簡単に出来るようにしてあげよう」

「簡単に?」


 今は、スキル値を計算しながら、習得した中で不要だと思うスキル値を削除(神へ返還)して、死なないように寿命を調整している。

 アデムの言う簡単と言うのが、よく分からないでいた。


「手を出してくれるかな」

「はい」


 アデムは、俺の手を触る。


「はい、いいよ。ステータスを確認してみて」


 俺は言われるまま、ステータスを開く。

 スキル一覧の横に、枠が二つ追加されていて『削除予定スキル』と『削除済スキル』書かれている。

 『返還済スキル』には、既に返還して灰色の文字になっていたスキルが並んでいた。


「不要なスキルは、その『削除予定スキル』に入れておけば、新たなスキルを習得した際に、勝手に計算して削除(神へ返還)してくれるから」


 確かに、これは分かりやすい。

 あらかじめ、不要なスキルを入れておけば、毎回慌てる事も無い。


「有難う御座います」

「いえいえ。それと『削除予定スキル』、『削除済スキル』は第三者からは閲覧不可にしてあるからね」

「それは鑑定士でも覗けないという事ですか?」

「うん。私達神以外には見えないから、安心していいよ」


 エルドラード王国の王宮鑑定士ターセルでも、覗けない事が分かったので少し安心する。

 アデムの用件が終わったようなので、俺はどうしても確認したい事があったので、アデムに尋ねる事にする。


「今更ですが、もう一度確認したい事があるのですが、宜しいでしょうか?」

「うん、いいよ」

「これ以上【呪詛】が追加で発動する事はありませんか?」

「成程。確かにそうだね、君としては不安になるよね」


 アデムは苦笑いしている。

 エリーヌは顔面蒼白だった。


「それは無いから安心して、万が一【呪詛】が発動でもしたら、私の責任でエリーヌに、その発動した【呪詛】を移すから」

「えっ!」


 俺より先にエリーヌが声をあげる。


「エリーヌ。報告ではこれ以上の【呪詛】は無いと書いてあったよね」

「……はい」

「であれば、何も心配する事は無いよね」

「……はい」


 エリーヌは【呪詛】を俺に掛けたという自覚がない。

 だからこそ、これ以上俺に掛けた【呪詛】は無いと判断して、アデムやモクレンに報告したのだろう。


(大丈夫だよ。これ以上、【呪詛】は無いから)


 心配そうな表情をしていた俺にアデムは、モクレンとエリーヌに気付かれないように直接話し掛けて、俺を安心させてくれた。

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