9章

第677話 猫同士?

 世界中の庭園から戻ると、シロがオーフェン帝国から戻って来た。

 思ったより長く滞在していた理由を聞くと、フェンが俺の事を聞く為、帰るに帰れなかったそうだ。


 事の始まりは昔、俺が提案した『武闘会』だった。

 着々と準備をして、開催の目処が立ったので招待客を確認していた際に、事件は起こる。

 招待客のリストを見ていたフェンは、エルドラード王国のリストに俺の名が無い事に気が付く。


「おい、タクト様の名が無いぞ」

「タクト……様? その方は、どの様な方なのですか」

「何を馬鹿な事を言っている」


 フェンが俺の事を話すが、誰一人として俺の事を覚えていない。

 俺に倒されて、プライドがズタズタにされたスタリオンでさえだ。

 クラーケンの討伐。

 バジリスクの討伐。

 俺に関する事を、全て忘れている。

 しかも、討伐者を聞いても「誰だったかな……」という返答ばかりだった。

 ルーカスやユキノ等の事は、全員が覚えている。

 フェンは間違いなく俺だけ、皆の記憶から消えている事を確信する。

 

 変だと思ったフェンは、招待客のリストに俺を追加させて、オーフェン帝国各地に俺の名と特徴を伝えて、見かけたら手紙を渡すように指示を出す。

 それはシャレーゼ国に居たダルベット達も同じだった。


 フェンは自分の気が狂ったのかもと、心配になっていたところに、シロが現れた。

 自分が苦しんでいた所に現れたシロの姿を見て、「流石は、お姉様!」と飛び掛ってきたそうだが、シロは簡単に避ける。

 シロは、まずは落ち着くようにと、フェンに言う。


 話を聞く体勢になったので、シロは俺の事を話し始める。

 当然、ユキノ達を生き返らせた事は秘密だ。

 しかし、俺の事を自慢したいシロは「人族で最初の偉業だ!」や、「御主人様以外に、出来る人族は現れないと」熱心に語ってしまったと、申し訳なさそうに話した。

 俺の強さを知っているフェンは、参加者でなく観戦者として招待するつもりのようだ。

 しかし、スタリオンが「優勝者は各国の代表と戦う方が面白い!」と言った為、親善試合が催される事になったそうだ。

 その事を止めなかったフェンを、シロは叱る。

 出来る限り俺を闘わせたくないシロの優しさなのだろう。

 結局、長くなった理由はシロとフェン両方のお喋りが過ぎた事だ。


 シロはフェンの事を苦手だと言っていたが、同じ猫系なので仲良くなれるのでは? と思っていると「それはありません」とシロが強い口調で反論する。


 ルーカス様が俺に「指名クエストがある」と言っていたのは、二ヵ月後に開催されるオーフェン帝国主催の武闘会への親善試合の参加でほぼ決まりだろう。

 しかし、スタリオンは俺との記憶が無くなって、自信を取り戻したという事なのだろうか?

 断る事が出来るが、調子に乗ったスタリオンに「逃げた!」と思われるのは癪だ。


 シャレーゼ国の事も、シロからフェンに伝えて貰った。

 フェンは驚き、すぐに皇帝のトレディアに連絡をする。

 ネイラートが新国王になったばかりなので、挨拶が遅れているが疎かにしている訳では無い事だけは、きちんと伝えて貰う。

 フェンも、ネイラートを招待しても「国が大事な時なので、難しいだろう」と話していたそうだ。


 シロはシャレーゼ国の魔族の関与についても、フェンに話す。

 もしかしたら、オーフェン帝国内にも同じような事が起きる危険がある! と、いう意味で忠告した。

 それはエルドラード王国も同じだ。

 入れ替わっていても気付かなければ、何事も無く時間は経過してしまう。

 今回のように、事が起こってからでは手遅れになる事も考えられる。

 人族に敵対する魔族は、何処に潜んでいるか分からない……。


「ありがとうな、シロ」


 俺はシロに礼を言う。

 そして、居なかった間に契約した 風精霊シルフのアリエルと地精霊ノームのノッチを紹介する。

 シロとアリエルは、ミズチ同様に面識があるようだった。

 しかし、シロは精霊と接点があるのに、クロには全く無い。

 長くこの世界にいる者同士でも環境が違えば、出会いも異なるのだと感じた。


「もう、戻りますか?」

「いや、もう少しだけシャレーゼ国を見て回ろうと思う」

「分かりました」


 小国であるシャレーゼ国だが、まだ訪れていない場所もある。

 見識を広げる意味も兼ねて、一通り回ってからエルドラード王国に戻るつもりだ。

 そう思っている俺の目の前に表示が現れる。


 神からのお呼び出しだ……。

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