第651話 国が抱える闇!
「大丈夫か?」
「はい……」
ネイラートは、元気が無い声で答える。
俺はシロとクロに護衛をしてくれた礼を言う。
ネイラートやイエスタ、他の騎士達も無言のままだった。
俺に何を言えば良いのか、考えているのだろう。
ウォンナイムが話した、シャレーゼ国の闇。
俺が魔王と言う事。
それに、反乱に成功したという事実。
何を最初に話すべきなのか……。
「タクト殿。有難う御座ました」
ネイラートは俺への感謝の言葉を口にする。
俺は黙って頷いた。
「この国の秘密を御話しさせて頂きます」
ネイラートは先程、ウォンナイムが言っていた件について話し始めた。
ウォンナイムの言っていた通り、シャレーゼ国は外敵から守って貰う代わりに、定期的に人族を生贄として、ウォンナイムに差し出していた。
昔は人間族以外の種族を優先的に生贄にしていたが、徐々に人間族の生贄を増やしていく。
王族との繋がりを持とうとする商人や、腕に覚えのある者達等だったが、シャレーゼ国を訪れる者は年々、少なくなる。
秘密が外部に漏れる事を恐れた国王が、出来る限り他国との繋がりを持とうとしなかったからだ。
ある時代の国王は、豊かな国であるエルドラード王国に攻撃をしようとした。
ウォンナイムは対価として、三百人の生贄を要求する。
それも年齢や性別等、事細かにだ。
結局、国王はウォンナイムの要求全てに答えることが出来ず、馬鹿にされたと思ったウォンナイムに殺されて王子が国王に就任する。
又、ある時代の国王は、城の使用人は高収入だと噂を広めて、人を集めて生贄として差し出したりしていた。
時代は違えど、犯罪を犯した者は全て生贄にされる。
シャレーゼ国は年々、人口が減っていく。
しかし、ウォンナイムへの生贄の数は増える事はあっても、減ることは無い。
現国王のウーンダイや王族は当然、この事実を知っている。
騎士団の数人も、生贄の者達を牢に閉じ込めておく業務を担っていたので、秘密を知っていた。
彼等は「この国の為!」という事で、無理矢理納得していた。
この状況に見かねた第二王子のラボットは、ウォンナイムに提案をする。
「王子である私が生贄になるので、何年かは生贄を勘弁して貰えないか」
王族という事もあり、興味を示したウォンナイムは即答で「分かった」と答える。
この提案に、国王と王妃は嘆く。
ネイラートは「私が代わりに!」と言うが、ラボットからは「次期国王の兄上を失う訳にはいきません」と、自分が生贄になる事を譲らなかった。
ラボットは別れの挨拶もさせて貰えずに、生贄としてウォンナイムに連れていかれた。
数日後、変わり果てた姿のラボットが、ウォンナイムの部下として紹介された。
痩せていたラボットが筋肉隆々になり、髪の毛は全て抜け落ちていた。
目は血走って、口からは唾液が垂れていた。
その姿を見て、王妃が号泣した。
「流石、王族だな」
ウォンナイムは満足そうだった。
「コイツに勝てば、今年の生贄は免除してやる」
「それでは、約束が!」
「約束? 覚えていないな」
ウォンナイムの言葉で、ラボットの行為は無駄だと知る。
この変わり果てたラボットに勝ったとしても、約束を守る気が無い事も分かっていた。
しかし、勝たなければ今以上の悲劇が起きる事も分かっていた。
「国御自慢の騎士達を何人でも同時に相手をしてやるぞ」
ウォンナイムは笑う。
ラボットの戦闘能力を試したいだけだ。
ウーンダイに呼ばれたイエスタ達は、目の前の化物に驚く。
しかもその化物が、ラボットだと知り更に驚く。
呼ばれた理由がラボットと戦う事。
ラボットを倒さなければ、自分達の命が無いという事実。
イエスタを含めた騎士団は十人。
戦いが始まると同時に、ラボットの力に驚く。
しかも、痛みを感じていないのか、どれだけ斬られようが攻撃の手を止める事は無かった。
一人、又一人と騎士団は命を落とす。
謁見をする為の部屋が血に染まる。
騎士の一人がラボットの心臓を突き刺す。
騎士達は誰もが勝利を確信する。
しかし、ラボットは刺した騎士を殴り飛ばすと、何事も無かったかのように目に入った騎士を攻撃する。
「怯むな!」
イエスタは騎士達を鼓舞する。
それに応えるように、騎士達はラボットを攻撃する。
戦闘を初めて1時間程経つと、ラボットの動きが鈍くなる。
最後には、膝を付き倒れて息絶えた。
「血を流し過ぎたか。痛覚を無くすのも問題だな……」
ウォンナイムは、ラボットを冷静観察していた。
「この王子に免じて、半年は生贄を無しにしてやる」
この言葉を残して、ウォンナイムは去って行った。
王妃はラボットに駆け寄り、涙を流しながら何度も何度も名前を呼ぶ。
第二王子のラボットが化物にされた事は、極秘事項として病気療養という事で口外しない事をウーンダイはその場に居た者達に伝える。
この時、ネイラートは「民の犠牲の上に成り立つ国等あってはならない!」と考える。
その後、第三王子のタッカールの様子が変わってしまうまで、数ヶ月の出来事だった。
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