第641話 去る者と残る者達!
翌朝、俺はネイラート達と別れる者達に道を教える。
「ここを真っ直ぐ進めば、商人や冒険者達が多く往来している通りに出る」
少し歩けば、尾行者が声を掛けると思うが、それっぽい事を言ってみた。
昨晩、もう一度考えてから今朝、最終判断を聞いてみたようだが思っていたよりも多くの者が去る事になった。
長く苦楽を共にした事もあり、男女の仲になった者達も居る。
騎士としてよりも、ひとりの人間族として、国よりも愛する者に守る相手が変わっただけだ。
ネイラートも、感謝こそすれ恨む事等無いだろう。
結局、残ったのはイエスタを含めた騎士団の五人だった。
ネイラートの優しさなのか、食料等の殆どを去って行った者達に分け与えていた。
「色々とお世話になりました。お元気で」
去る者達、一人一人にネイラートは別れの挨拶をする。
残った者達は、去って行った者達が見えなくなるまで、見続けていた。
「では、行きますか」
無理をして笑っているネイラート。
俺はその表情が、とても悲しく見えた。
俺達が歩き始めると、商人や冒険者に変装した尾行者達が、去って行った者達を追っていく小さな姿が見えた。
ネイラートと別れた事で、少しだけ距離を詰めたようだ。
早めに接触をして、身の安全等を確保したいのだろう。
道中も無言のまま進み続ける。
俺は先頭を歩き、ネイラート達を誘導していいる。
背後からの無言に耐えられないのだが、これと言った話題も無いので振り返る事無く、移動速度を気にしながら歩き続けた。
シロから仮面が入手出来たと連絡が入る。
入手先は第三柱魔王のロッソだった。
シロなりに考えた結果、ロッソの元を訪ねるのが良いと判断をしたようだ。
特殊な仮面かも知れないので、礼も兼ねて詳しい説明はロッソに聞く事にする。
シロには先に俺達と別れた、ネイラートの仲間達の監視を暫く頼む事にする。
クロには引き続き、王都の様子を確認して貰う事にする。
「そろそろ、休憩にするか?」
「そうですね」
昼近くになったので、昼食も兼ねて休憩を取る。
食料は残りの物を食べる。
俺は「大丈夫だ」とだけ伝えて、渡された食料を返す。
一人食べないだけでも、残りの食料を考えたら無駄に食する必要は無い。
俺は「食料を探してくる」と言い、少しだけネイラート達から離れる。
と言っても、【隠密】で気配を消しただけなので実際は、少し離れた所からネイラート達が外敵から襲われないように監視をしていた。
監視をしながら、俺はロッソに連絡を取る。
ロッソに礼を言うと、「使っていない物だから、好きに使ってくれ」と言われた。
仮面は強度を上げている為、余程の衝撃が無いと破壊する事は無いらしい。
又、顔の形状に合わせて密着度を変更させる為、装着者の意思無しで外す事は出来ないそうだ。
ロッソが自分用に製作した事は、説明を聞いていて分かった。
外に出る際に、使用するつもりだったのだろうが失敗した仮面なのだろう。
仮面には、特に魔法等は付与していないらしく、正体がバレにくい事を優先に製作されたようだった。
最後にロッソは、「いつでも訪ねて来い」と言ってくれた。
俺に起きた事を知っていたようで、慰めてくれているのだろう。
ロッソとの【交信】を切り、ネイラートの所に戻る。
昼食は済ましたと言うと、急いで食べようとするので、ゆっくり食べるように伝えた。
食事は、ゆっくり味わって食べるに限る。
まぁ、保存食の干し肉等なので、味わって食べる程の料理でも無いのだが……。
シロから連絡が入る。
先程、別れた者達と尾行者達が合流して、敵対する事無く商人と冒険者に変装した尾行者達と行動を共にしている。
目的地までは、一緒に旅をするとでも言ったのだろう。
シロには、問題無いと判断した段階で、俺の所に戻って来て貰う事にする。
シャレーゼ国への移動を再開した。
ネイラートの馬を一頭だけ残して、他の馬は別れた者達に渡してしまったので、残りの者達も歩いての移動だ。
荷物も少なくなったが、騎士達は護衛を主に置いて行動していたので、荷物を背負いながらの移動は、辛そうだった。
俺が【アイテムボックス】に仕舞う事も出来るが、俺が言ってもネイラートが拒否する事は想像出来た。
これ以上、俺に甘える事をネイラート自身が許さないだろう。
俺は今回の騒動の関係者ではない。
あくまで部外者なのだ。
その一線を越えないようにと、ネイラートは考えてくれているのだろう。
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