第627話 極秘!

「タクト。悪いが指名クエストを受注してくれるか?」


 何人かと連絡をしていたジラールが、俺に話し掛ける。


「それは今回の件という事でいいか?」

「その通りだ」


 ジラールは、来たばかりで何も知らないヘレンに事情を説明する。

 ヘレンへの説明が終わった後、俺への指名クエストを話す。

 依頼者は『エルドラード国王』。

 依頼内容は『極秘に城まで、連れて来る事』だった。


「城は復旧中だろう?」

「あぁ、それは問題無い。俺が通行許可証を今から用意する」

「それは、城への通行許可か?」

「そうだ。王都へは極秘にという事になる」


 王都に入ったという記録は残したくないのだろう。


「……俺から提案だが、いいか?」

「なんだ?」

「指定された部屋があるのであれば、俺がそこまで誰にも知られずに、対象者を連れていく事が可能だ」

「……そんな事が可能なのか?」

「勿論だ」

「ちょっと、待っててくれ」


 ジラールは、もう一度【交信】で連絡を取り始めた。


「本当にそんな事が可能なのですか?」


 ヘレンは疑うように俺を見る。


「まぁな。常識外れの事を可能にするのが、ランクSSSだからな」


 自分で「常識外れ」と言った言葉が、非情に懐かしく感じた。


「そうですか……」


 ランクSSSという便利な言葉に、ヘレンは腑に落ちないような返事をする。

 俺が転移で全員を運んでも良いが、この状況であればクロの能力で影の中に入れた方が良い。


「ちょっと、トイレに行ってくる」


 俺は立ち上がり部屋を出ようとすると、後ろからヘレンが声を掛ける。


「場所は分かりますか?」

「あぁ、俺は覚えているからな」


 俺の返事に、ヘレンは首を傾げていた。


 トイレに着くと同時に、ネイラートの所に【転移】をして、王都に移動するから目を閉じるよう頼む。

 先程、俺が使った【転移】だと思い、素直に目を閉じてくれた。

 全員が目を閉じた所で、クロに影の世界へと引きずり込んで貰った。

 この能力の便利な所は、クロの意思で一人ずつ影から出せる。

 俺はシロとクロを連れて、ギルド会館のトイレに移動して、ジラール達の部屋へと戻る。


 部屋の扉を開けると、ジラールは【交信】を切っていた。

 話がまとまったのだろう。

 それよりも、ジラールとヘレンが俺の姿を見ながら、微動だにしない。

 正確には、俺を見たまま固まっているという表現が正しい。


 ……そうだった。

 原因は、左腕に抱かれているシロと、右肩に乗っているクロだと分かった。


「あぁ、俺の仲間のシロとクロだ」


 うっかりしていると忘れてしまう。


「噂は本当だったんだな」

「そうですね。私自身、この目で見ていますが信じられません」

「聖獣二匹を従えているとはな……」


 シロとクロは、以前と変わりなく聖獣扱いされている事に安心する。


「一応、自己紹介しておいた方がいいな」


 俺は二人に獣型から人型に変化してもらい、いつも通りシロとクロに自己紹介をしてもらう。


「タクト様に仕えさせて頂いております、エターナルキャットのシロと申します。 宜しく御願い致します」

「同じくパーガトリークロウのクロと申します」


 ジラールとヘレンは、シロとクロが人の姿になった事に驚くが、言葉を話した事を更に驚いていた。

 俺は、その光景を見ながら「以前は、ムラサキとシキブにトグル達も、この場に居たんだよな」と懐かしく思う。

 ……そういえば!


「シロ。二人に握手とハグでもしてやってくれ」

「はい、御主人様」


 前回、猫系獣人の中でエターナルキャットを『神獣』と崇めている者達だ。

 ジラールとヘレンは嬉しそうだった。


 とりあえずは、このまま城に行きネイラート達を届ければ、依頼完了だ。

 まだ、ユキノの姿を見るのは正直、辛い。

 出来れば王族や関係者等、誰にも会わずに城から去りたい。

 俺は大きな問題を思い出す。

 王宮鑑定士ターセルの存在だ。

 ターセルの【鑑定眼】で俺のステータスを覗かれれば、間違いなく『魔王』である事が分かってしまう。

 現状では、何を言ったところで聞いて貰えないだろう。

 魔王であるアルとネロに対して、ルーカス達がどのように接しているかも含めて、情報が少なすぎる。

 不測の事態に備えて、アルとネロに確認をする必要がある。


「どうした?」


 考え込んでいる俺に、シロと幸せな時間を満喫したジラールが話し掛けてきた。


「少し考え事をな。それより、これからどうする?」

「そうだな、部屋へ極秘にとの事だ。部屋には国王様と第一王子であるアスラン様。それに王国騎士団だ団長のソディック殿と、護衛衆にメントラ大臣が御待ちになっている筈だ」


 想定通りの面子だった。


「こちらからは俺とヘレンに、タクトの三人だ」

「あぁ、分かった」


 俺はターセル対策の事で、頭が一杯だった。


「それと、国王様達が、タクトに話があると仰っている」

「……俺に?」

「あぁ、今回の事とは別だ。昨日、急な連絡があって、タクトがギルドに現れたら連絡するようにと言われている」


 ルーカスは、俺の事を覚えていない筈だ。

 全く、心当たりが無い。

 得てしてこういう場合は、良い話ではないと相場が決まっている。

 話を聞きながら、嫌な予感しかしない。


「それよりも、国王で無く達と言ったが?」

「俺も誰かまでかは聞いていない」

「そうか……」


 俺は、急な展開に戸惑っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る