第621話 信用!
「差し支えなければで結構ですが、タクト殿がシャレーゼ国に来た理由を御教え頂けませんでしょうか?」
「個人的に、枯槁の大地の様子を見たいと思っただけだ」
「枯槁の大地ですか……」
「あぁ、先の戦で草木も生えないと聞いていたので、一目見ておきたいと思っただけだ」
「そうですか。あそこは確かに何も無い土地です」
俺は枯槁の大地について、知っている事を教えて貰う。
人が往来出来るようになったのは最近だが、好き好んで訪れる場所では無いそうなので、情報が少ないそうだ。
やはり、直接見ておく必要があると話を聞いて、改めて思う。
「出発は明日の朝でいいか?」
「はい。その前に仲間を紹介しておきます」
騎士団長のイエスタを最初に、その後に騎士団員と続き、世話をしてくれる使用人達全員を紹介してくれた。
当たり前だが、全員が人間族だ。
俺もシロとクロを紹介する。
当然、エターナルキャットと、パーガトリークロウとしてだ。
姿が変わった事に驚くが、やはりクロは聖獣とされていた。
「タクト殿も良ければ、ここで休まれてはどうですか?」
「有り難いが今夜中に寄りたい所がある。朝までには戻るので、起きたら出発の準備はしておいてくれ」
「分かりました」
ネイラートの申し出を断る。
「じゃあ又、明日の朝」
ネイラートは頷く。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「彼は信用出来るのか?」
俺が居なくなってから、ネイラート達は俺の事を話し始めた。
その場から居なくなったと思わせて、俺は【隠密】で話を聞いていた。
理由は何かを隠している事と、俺を利用してエルドラード王国に危害を加えようとしている不安があったからだ。
もし、本当にエルドラード王国に危害を加えるのであれば、当然だがエルドラード王国へ連れて行くことはしない。
「それは大丈夫かと。冒険者という者は依頼を必ず守ると言います」
「父上の追っ手と言う事は無いのか?」
「追っ手であれば、既に私達を殺そうとしているかと」
「確かにそうだな。なんとしても、エルドラード王国の協力を取り付けなければ……」
ネイラートは辛そうな表情で話す。
聞いていたイエスタも、同じように辛そうな表情だった。
「もし失敗したら、シャレーゼ国の運命は……」
「ネイラート様、大丈夫です。私の命に代えても、必ずネイラート様をエルドラード王国に御連れ致します」
「イエスタ、そんな事を口にするものでない。私の命も、そなたの命も同じ一つの命だ」
「いえ、違います。ネイラート様はシャレーゼ国の唯一の希望なのです」
どうやら、シャレーゼ国の危機をルーカスに伝えようとして、協力を仰ぎたいようだ。
しかし、そんな簡単にルーカス達が会ってくれるのだろうか?
今の俺では、連れて行くだけでそれ以上の事は出来ない。
「それに王妃様の命も……」
「大丈夫だ。アスラン王子も、旅から戻っていると聞いている。彼なら私の思いも分かってくれるだろう」
ネイラートは力強くイエスタに話していた。
国王からの追っ手に、王妃の命。
どうやら、かなり面倒な事のようだ。
確か、第二王子は既に亡くなっていた筈だ。
俺が面識のあるのは国王と第三王子だけだ。
第三王子の名前は覚えていないが……。
三国会議の時に、エルドラード王国の大臣達が、シャレーゼ国の様子が変だといっていた事だけは覚えていたし、オーフェン帝国の料理に対して暴言を吐いていた事も記憶している。
なにより、獣人に対しての態度が酷いという印象を持っていた。
長い間、人間族による統治が行われていたので、獣人族達はシャレーゼ王国には居ないのだろう。
居たとしたら奴隷並みの迫害を受けている可能性だってある。
その辺りの事をネイラートに聞こうとも思っているが、シャレーゼ国にとっては触れられたく問題なのかも知れない。
それと、イエスタが神の事を言ったときに、ネイラートが否定した事も気になっていた。
シャレーゼ国の神といえば、ガルプだ。
ガルプを神と崇めている者が、少なくなってきて居るのか?
それともネイラートがガルプを嫌っているのか?
どちらにしろ、ガルプを信仰している者が一人でも減る事は良い事だ。
(主。四十人程の集団がこちらに向って来ております)
(ネイラート達の追っ手か?)
(多分、そうかと)
(分かった。どれくらいの時間で、ネイラートの所に着く?)
(馬に乗っておりますので、一時間程かと)
(分かった。クロはそのまま監視を続けてくれ)
(承知致しました)
追っ手を差し向けられるという事は、先程の話は本当だと言う事だ。
俺は一旦、外に出て再度、ネイラートの所に戻ったふりをする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます