第612話 世界を崩壊へと導く者!

 俺はゴンド村での説明を終えて、人が寄り付かない場所で水精霊ウンディーネのミズチを呼ぶ。


「大変だったわね」

「まぁな。それより、ユキノとの関係まで壊してしまって悪かったな」

「仕方ないわよ。私より、タクトの方が辛いでしょうし……」

「生きていれば、もう一度ユキノと会う可能性もあるからな。まぁ、ユキノが俺に惚れるかは別だけどな」

「そうね。ユキノとの関係が無くなったのなら、私にも婚姻関係を結べるチャンスが出来たって事かしら?」

「……悪いが、それは無いな」

「冗談よ。タクトとユキノの関係が無くなったからと言って、その隙間に入る程、性悪では無いわ」


 ミズチは笑う。

 ミズチなりに、俺を励まそうとしてくれているのだろう。

 俺もミズチに、ユキノとの事を謝罪出来て良かったと思っている。


 ミズチは仲の良い風精霊シルフに俺という変わった人間族が居る事を話したそうで、もし会う事があれば正式に紹介するので、呼んで欲しいそうだ。

 ……そうそう、精霊と会うことは無いと思うが、今までの事を考えれば有り得ると感じた。

 俺はミズチに「分かった」と言い、ミズチと別れる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「落ち込んでいる?」


 俺が落ち込んでいると思っている、エリーヌに呼ばれた。


「まぁ、そうだな。エリーヌの名を広めるのも、今迄通りいかなくなったな」

「それは大丈夫よ。少しずつだけど、私の名が世界に広まっているから」


 エリーヌは嬉しそうに答える。


「俺を慰める為に呼んだのか?」

「それもあるけど、大事な事を伝える必要があってね……」

「大事な事?」

「うん。タクトは自覚無いと思うけど、タクトの存在が、世界を崩壊へと導いているの」

「俺の存在が?」

「そう。タクトが新技術を使う事ね」

「それは、カメラや転移扉等の事か?」

「当たり。急激な技術の進歩に人々が追い付かない事による世界の崩壊ってことかな?」


 俺はエリーヌの言っている意味が理解出来なかった。


「タクトが前世で住んでいた地球でも、幾つか滅びた文化があった事は覚えている?」

「滅びた文化?」

「うん、ちょっと待ってね。あっ、これだ」


 エリーヌは、マヤ文明やムー大陸、アトランティス等の幾つかの例をあげる。


「つまり、俺が良かれと思ってやっていた事が、エクシズという世界を破滅に導いていたって事か?」

「そう言う事なの」


 先にエリーヌがあげた例は、滅んだ理由が原因不明だ。

 しかし、どの文明も高度な技術があったのは間違いない。

 エリーヌの言っている意味が、ようやく理解出来た。


「これ以上、新しい物を作るなって事か?」

「流石はタクト、その通りよ。ただし、食べ物に関しては例外だから安心してね」

「今迄に俺が発明したり、手を加えた物に関しては問題無いという事でいいのか?」

「まぁ、それは大目に見るよ。既に新技術として広まっているから作っても良いよ。ただし、あのエリクサーと言われる万能回復薬は、例外ね」

「効果があり過ぎて、奪い合いになるからか?」

「うん。タクトが個人的に所有して、人助けなどに使うのであれば問題無いけど、商売として売買をするのは駄目だよ」

「分かった」


 つまり、四葉商会にエリクサーを卸すなという事だ。

 俺が居なくなった今、エリクサーの入手先をマリーが、どう認識しているかは分からない。

 一応、マリーには数量限定だと言っていたので、トブレ経由で聞いてもらう事にする。


「でも、タクトと会話が出来て本当に良かったわ。もし、忠告出来なかったら、時期を見てタクトを討伐しなくちゃいけなかったかも知れないしね」

「……そうなのか?」

「うん。世界を破壊に導く者だからね」

「それは、アルやネロに頼むのか?」

「それは秘密かな」


 エリーヌの言葉で、エクシズという世界には、エクシズの時間の流れがある事を改めて感じた。

 俺が人々の為になると思っていた事。

 一時は良いのかも知れないが、長い目で見れば悪い方向に向かっていたという事だ。

 エリーヌが食べ物は問題無いと言うのは、元々エクシズに生息していた植物に手を加えず、知識だけ広めるだからだろう。


「私からタクトに話すのは、これ位かな。タクトは何か質問ある?」

「……そういえば、この間まで、エリーヌ居なかったよな。モクレン様に聞いても、はぐらかされたしな。何をしていたんだ」

「……まぁ、色々だよ」


 俺を目を合わせようとしない。

 何かやましい事でもあるのだろう。


「色々って?」

「色々って言ったら、色々だよ」


 これ以上、エリーヌに聞いても意味がないと思ったので、この話題については話し終える。


「他には無い?」

「今の所は無いな」

「そう。じゃあ、引き続き御願いね」


 笑顔で手を振るエリーヌと別れる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る