第611話 三度目の人生?
「宜しく御願いします」
俺に頭を下げてから椅子に座る。
「シロとは存分に触れ合えたか」
「はい!」
嬉しそうに即答する。
俺が笑顔な事に気が付くと、すぐに平静を装った。
「悪いがイリアとの個人的な情報は、そう無いんだよな」
「何でも結構です」
俺はとりあえず、恋人というか婚約者のエイジンの事と、王都の冒険者ギルド本部のサブマスであるヘレンと結婚勝負していた事を話す。
「……エイジンとの事はともかく、ヘレンとの勝負の事も知っているのですね」
「まぁ、覚えていないだろうが、俺は色々と迷惑を掛けていたからな」
「そうなんですね。まぁ、少なくとも、貴方が危険人物で無い事は理解しました」
俺はふと、エイジンやイリアがシロと撮った写真の事が気になった。
「シロと撮った写真等は無いのか?」
「……ありません。先程、お会いしたばかりですから」
イリアの返答で、俺と撮った写真も全て存在しなくなったのだと思った。
俺との写真が残っていた場合、ユキノも困惑するだろうから都合は良かった。
記憶だけでなく物まで無くす事が出来るのは、凄い事だと思った。
イリアが部屋から出て、ゾリアス達に終わった事を告げる。
ゾリアスにアルとネロ、シキブにムラサキが入って来た。
「……何か、あったのか?」
全員が揃う必要は無い筈だ。
「その……タクトが、アルシオーネ様とネロ様を倒したというのは本当なのか?」
ゾリアスが不思議そうな顔で、俺に確かめるように質問をして来た。
「だから、さっきから言っておるじゃろう。タクトには全敗なのじゃ!」
「そうなの~、師匠は最強なの~」
俺は、深い溜息をつく。
……そういえば、こんなやりとりを何回もしたよな。
二度目の人生いや、正確には三度目の人生になるのかと思いながら話を聞いていた。
ネロが師匠と呼ぶので後々、説明するのも面倒なので一応、宣言をしておく。
「まぁ、そういう事だ。アルもネロも、俺の弟子らしいからな」
「らしいではない。妾はタクトの一番弟子じゃ」
「わたしは、二番弟子なの~」
何度も見た事のある顔で、全員が驚く。
「いやいや、人間族がどうやったら、魔王二人に勝てるんだ!」
「そうだ! 俺は二人の強さを知っているから、信じられん」
ムラサキが興奮して話す。
ゾリアスも、アルとネロと手合わせをしていると聞いていたので、ムラサキ達よりも魔王二人の強さを知っている。
「何を言っておる。タクトも魔王じゃぞ!」
「えっ! アルシオーネ様、御冗談を。人族が魔王に慣れる筈が無いではありませんか」
そうか。俺の事を記憶から消去したという事は、俺が魔王だという事も忘れ去られたという事になる。
俺が魔王だと確認出来るのは、鑑定士のターセルだけだ。
それ以外は【隠蔽】のスキルで隠す事が出来る。
つまり、ターセルに会わなければ、普通の人族として暮らせる訳だ。
この状況で、俺が魔王だと知れれば面倒な事になる事は、考えなくても分かった。
俺は【念話】でアルとネロに、「俺が魔王な事は内緒だ」と伝える。
二人共、俺の顔を見る。
俺は、ほんの少しだけ頭を下げて頼む。
「冗談じゃ。ただし、タクトに勝てん事だけは事実だ。つまり、魔王並みの強さを持っていると言う事には間違いない」
「そうなの~」
アルとネロは、俺の頼みを聞いてくれて、上手く嘘を付いてくれた。
俺自身、ゾリアス達に嘘を付く事に抵抗はあったが、なにかの事件に巻き込まれる危険があるので、不安を煽るような事はしたくない。
ゾリアス達とは、そこまで信頼関係が築けていないのだから……。
「魔王並みの強さ……ランクSSSであれば、しかし……」
ゾリアスは冒険者ランクの最高位と、魔王の強さを比べてみるが、ランクSSSの強さが分からない。
そもそも、人族が最強と言われる魔王に勝つ事自体、無理だと思っているのだろう。
実際に戦闘すれば、俺の力では勝つ事は出来ないのは事実だ。
「魔王と対等の力を持つ者であれば、勇者なのか?」
「いや、職にも就けない惨めな冒険者だ」
「無職なのに、ランクSSSと言うのが信じられん……」
ゾリアスを含めて、その場に居るムラサキ達が頷く。
「まぁ、そんな事はどうでもよい。タクトの敵は、弟子である妾の敵じゃ!」
「わたしもなの~」
俺と一緒だと、退屈しないと思っているのか、常に誰かと戦っていると思っているのか、アルとネロは笑いながら話す。
ゾリアス達には、アルとネロの笑顔が恐ろしく見えたに違いない。
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