第534話 第一柱魔王の実力!

 あまりにも俺が一方的に攻撃されていたので、アルが途中で止めてくれた。

 俺がギブアップするかと思っていたらしいが、それをする事も出来なかったのが現実だ。

 ネロは俺に謝るが、ネロは何も悪くない事を言って安心させる。

 ネロの攻撃については、後で色々と教えて貰おうと思うが、まずは……。


「次は、妾じゃな」


 アルは嬉しそうに俺を見て話す。

 しかし、俺はネロに一方的に攻撃されている間に、頭の中でレベルアップの音が鳴り続けていた。

 さっきよりは少しだけ強くなっている筈だが、アルにとっては大差の無い事だろう。

 俺は起き上がり、戦う準備をする。


「次は私がアルを止めるの~」

「安心しろ。妾は、その前に止めてやるからの」


 俺はその会話を複雑な気持ちで聞いていた。


「妾は魔法攻撃無しじゃ!」

「分かった。そういう事なら俺も出来るだけ魔法は使用しない」

「別に使っても良いのじゃぞ」


 アルは余裕の表情だった。

 俺はその表情に嫌な予感を感じた。


「いつでも攻撃してきて良いぞ」


 アルは笑顔で俺を挑発してくる。

 俺は攻撃の構えをして、アルとの距離を一気に縮める。

 分かっていた事だが、ネロ同様に体が小さいので攻撃がし辛い。

 女子供には手を出さないのが、俺の信条だ。

 しかし、この二人は例外だと俺自身を納得させている。

 リーチの長さを活かした戦いをしてみるが、それ以上のスピードで避けたり距離を詰めたりするので、全く意味が無い。

 ネロと違い魔法を得意としない龍人族なので、距離の取り方が上手い。

 アルも俺との戦いを楽しむつもりなので、一方的に攻撃をしてくる事は無い。

 ネロとの戦いの後なのか分からないが、少しだけアルの攻撃を避ける事が出来ていた。

 ……避ける事が出来る。


「ん、どうしたのじゃ?」


 俺が攻撃を止めると、アルは不思議そうな顔で話す。


「随分と手加減してくれているよな」

「おぉ、やはり分かってしまったかの」


 アルは頭を掻きながら答える。


「お主が、どの位耐えれるかを確かめておったのじゃ」

「……成程ね」

「ゴンド村で子供と接する事で、かなり細かく力の調整が出来るようになったからの」

「それは、成長したと言うのか?」

「勿論じゃ!」


 アルは、自信満々に答える。


「とりあえず、もう少し本気になってくれるか」

「仕方ないの」


 仕切り直しでアルの攻撃を待っていると、殴られた痛みも感じる事も無く、体が吹っ飛ばされる。

 アルの姿を確認しようとするが、何処にも居ない。


「ぐぁ!」


 飛ばされた俺の体に、背中から強烈な痛みを感じると、反対方向に飛ばされた。

 右足を地面に着き、勢いを殺そうとするが右足は見事に折れる。

 痛みを感じると目の前にアルの姿を発見する。


「まだまだ、これからじゃぞ!」


 悪魔の笑みを浮かべながら、俺の顔面を殴る。

 俺は目の前の景色が、凄い勢いで回転していた。

 回転が終わったかも分からない状態で、今度は自分が地面に叩き付けられた事を理解する痛みが襲う。

 俺が戦ってきた相手も、こんな感じだったのかと思う。

 一方的に攻撃をされて何も出来ないというのは、思っていた以上に精神的苦痛が大きい。

 肉体的苦痛は耐えられるだけ、まだマシなのかも知れない。

 

 地面に埋まった俺を、アルが見下ろしている。


「まだ、戦えるじゃろ?」

「勿論だ」


俺は立ち上がる。


「さぁ、来い!」


自分から攻撃を仕掛けずに、アルの攻撃に耐える事に重点を置く事にする。

攻撃の仕方等を知る為だ。

格上の相手には、俺のチートに頼った戦い方では敵わないと分かったからだ。


アルは、先程同様に一方的に俺を攻撃する。

必死で攻撃を回避するが、実力はアルの方が何枚も上なので、俺の行動も読まれてしまっていた。


しかし、その間に何回も俺の頭の中でレベルアップの音が鳴っていた。

格上の相手と戦えば、やはり簡単にレベルアップが可能な事を確証した。


アルの攻撃の隙を見て、拳を出す。


「ほぅ〜!」


アルは嬉しそうに俺の拳を手で防いだ。


「タクト! お主、どんどんと強くなってきておるの」


アルは俺の成長と言うか、レベルアップに気が付いた様子だ。


「もう少しだけ、本気を出すかの」


アルは笑いながら、俺を見る。

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