第533話 自信過剰!

 アルとネロの稽古と言うか、戦いは悲惨だった。

 最初はやる気満々のアルよりもネロを指名した。

 当然、アルは文句を言うが渋々承諾した。


 ネロは開始早々、接近して攻撃をして来た。

 手加減してくれているとは思うが、攻撃を避けるだけで精一杯だった。

 辛うじてカウンター気味に蹴りを出すが、いともたやすく避けられる。


「流石、師匠なの~」


 嬉しそうに話すと、犬歯で自分の親指を傷つける。

 親指から出血しているが、お構い無しにネロは構える。

 次に瞬間、目の前に赤い物体が現れたので、何とか交わすが避けきれずに頬に傷を負う。


「ん~、避けられたの」


 ネロは悔しそうだが、ネロが仕掛けた攻撃が分からなかった。

 距離を取ろうにも、足場が無くこれ以上下がれば、湯に足を突っ込む事になる。

 別に落ちても負けにはならないが、何となく湯に足を突っ込む事は絶対に嫌だった。

 俺は防戦一方だったので、こちらから攻撃を仕掛けてみる。

 しかし、ネロは笑いながら簡単に避けていた。

 拳を出そうとした瞬間に、左腿に激痛が走る。

 赤い針のような物が刺さっていた。

 抜こう引っ張ると、より痛みが大きくなる。

 仕方が無いので【転送】を使い、太腿から血で出来た針のようなものを強引に移動させる。


「ずるいの~!」


 ネロは俺が簡単に、針のような物を抜いた事に怒っていた。

 よく見ると釣針には付いている返しのような物が有る。

 簡単に抜けないようになっているのだと、感心をする。

 俺はそれをネロに投げると、ネロは簡単に掴む。

 【転送】を使った事に怒っているネロに再度、攻撃を仕掛ける。

 【神速】を使い、攻撃のスピードを上げるが、ネロには大して変わらないのか、先程同様に簡単に避けている。


「久しぶりに使ってみるの~」


 ネロは自分の手首を噛む。

 血が垂れるが、出血の量を自在にコントロールしているのか、血が地面に付く事無く、徐々に剣の形に変わっていった。

 その光景に、思わず見とれてしまい、攻撃をするのを忘れてしまっていた。

 俺は、すぐに距離を縮めて攻撃をする。


「遅いの~」


 ネロは自分の血で作った剣で、俺を攻撃する。

 と言っても、気が付いた時には俺の左腕は斬り落とされていた。

 痛みが俺を襲う。


「ごめんなの~」


 俺の左腕を斬り落としてしまったネロは、申し訳なさそうに謝ってきた。


「大丈夫だ……」


 俺は斬り落とされた左腕部分に意識を集中させる。

 【自動再生】で、すぐに左腕が再生されて元通りになる。


「師匠、凄いの~!」


 ネロは驚いていたが、観戦していたアルが「これは面白い!」と言ったのが聞こえていた。


「じゃあ、師匠いくの~」


 ネロは血で出来た剣を振り回しながら俺に攻撃をしてくる。

 避けきれずに刺されたり、斬られたりしたが【自動再生】で回復していく。

 俺を攻撃するネロは嬉しそうな表情だった。

 攻撃されているのは自分なのだが、どこか他人事のように殺される感覚を感じていた。

 ネロの残虐な一面を垣間見えた気がする。

 意識を失う事は無いので、避けきれないと分かっていても必死で避けながら、何か攻撃の糸口を見つけようと考える。


「師匠、凄いの~!」


 本日、二度目の「師匠、凄いの~!」が出たが、どれだけ攻撃しても死なない俺に対して喜んでいるのだろう。

 俺は倒れながら手を伸ばして【風球】を使う。

 爆発音と煙が立つ。

 しかし、ネロにダメージは無い。


「流石、最強と呼ばれる魔王だけあるな」

「師匠に褒められたの~!」


 ネロは嬉しかったのか、俺への攻撃が更に増した。

 圧倒的な力の差。少しでも互角に戦えると思っていた俺が馬鹿だった。

 強さの次元が違い過ぎる。

 怠慢。自惚れ。自信過剰。

 本当に自分自身が情けなくなる。


 その後も俺は、ネロに反撃する事無く一方的に攻撃され続けた……。

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