第516話 白熱する遊び!

 第一柱魔王アルのカードを魔族嫌いのフリーゼが取る。

 少し前までは考えられない光景だった。

 カードを取るフリーゼも若干、戸惑いがあるように見える。

 アルは純粋にゲームを楽しんでいるようだ。


 たかが、ババ抜きだが誰も言葉を発せずに、ゲームの進行を見ていた。

 俺も、その状況を楽しんでいた。



「私が一位ですね」


 揃ったカードを机の上に置いて勝利を宣言するターセル。

 その姿を悔しそうに見つめるアルが居た。

 その後、リベラが二位となり、アルとフリーゼと一騎打ちとなる。

 手札の数的に、アルがババを持っている事になる。


「これ以上は負けられぬ!」


 アルは何としてでも三位になりたいようだ。

 各々が手札を引き、あるの手札が二枚となる。

 変な駆け引きをせずに、フリーゼの前にカードを突き出し「好きな方を引け!」と言った感じだ。

 フリーゼは突き出されたカードから一枚引く。

 その瞬間、アルは笑みを浮かべた。

 フリーゼが引いたカードはババだったからだ。

 俺はその瞬間を見ていたが、ババに手が触れた瞬間にアルは既に笑っていた。

 もしも、俺がゲームに参加していたら引くカードを変えていただろう。

 表情を見ながらカードを選んでいたのは、ターセル位だった。

 多分、アル達を観察して、誰がババを持っているかを想定しながら、ゲームをしていた筈だ。

 鑑定士と職業柄かも知れないが、駆け引きが上手いと思いながら見ていた。


「やったのじゃ!」


 アルがババを引かずに、三位でゲームを終えた。

 フリーゼはババを机の上に置くと、悔しそうに拳を握っていた。

 暴挙に出る事は無いと思うが、フリーゼを監視する。


「御疲れ様。国王様や魔王相手に、四位とは素晴らしい事です」


 ダンガロイがフリーゼに声を掛ける。

 フリーゼもダンガロイの顔を見て落ち着いたのか、握っていた拳を解く。

 熱くなり我を忘れていた事に、気が付いたようだ。

 フリーゼは席を立ち、自分の飲み物を手に取り一気に飲み干した。


「どの様な結果だろうが負けは負けだ」


 フリーゼは自分に言い聞かせるように呟く。

 とても、先日アルと戦ったフリーゼとは思えなかった。

 これも魔鉤条蟲を取り除いた為なのだろうか?

 どちらにせよ、フリーゼが聞き分けの良い人格になったようなので安心する。


「タクトよ。勝負とは難しいものだの」

「どうしたんだ急に?」

「今迄、勝負と言っても対等に戦える者が居らなかったのだが、このトランプを使った勝負は楽しいぞ」


 戦闘でアルの相手を出来る者等、この世界では数人だ。

 力で無い勝負を知った事で、気軽に戦える事が嬉しいようだ。


「そうだな。子供達にも負けているようだしな」

「な、何を言っておる。あれは妾が、わざと負けているのだ。なぁ、ネロ」

「そうなの~」


 俺もアルとネロが、ゴンド村の子供達にわざと負けている事は知っている。


「年長者の余裕と言うやつじゃ」


 腰に手を当てて威張る。


「そうか。それなら、俺にも年長者の余裕で接してくれよ」

「それは無理だ。タクトは妾達の師匠なのだから、常に全力で倒しに行く」

「そうなの~」


 アルとネロは俺の脚にパンチの仕草で拳を当てる。

 二人は軽く小突いたつもりだろうが、かなり痛かった。

 ゴンド村の子供達にも、この強さで接しているのかと思うと恐ろしい。


「ゴンド村の子供達に、この強さで叩いたりしていないだろうな」

「当たり前だ。タクトだから強めに叩いておる。安心しろ」


 何を安心して良いのか分からないが、子供達に危害が無い事は分かったので、その事については安心した。


「もう十分に遊んだだろう。そろそろ戻るぞ!」

「駄目だ!」


 俺がネイトスに戻る事を言うと、ルーカスが直ぐに却下した。

 予選で最下位になったネロにトグル、そしてカルアとルーカスで『最弱』を決めるそうだ。

 ルーカスとしても、このまま負けっぱなしで終わるのが嫌なのだろう。

 国王の命令とあれば、誰も逆らう事は出来ない。

 当然、ネロもやる気満々だった。

 仕方が無いので、俺も了承する。

 『最弱』という、不名誉な称号を懸けての勝負が始まった。

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