第480話 自分達の村!
ルーカス達と別れると、モモが話しかけてきた。
「御疲れ様です」
「おぉ、一位おめでとうさん」
「ありがとうございます」
モモは笑顔で答える。
「それで、コカトリスの卵はどうすれば良い?」
ビンゴ大会の景品である『コカトリスの卵』を四つだが、モモが運べなかったので俺が預かっている。
「タクトさんの方で調理して、村に運んでもらうと助かるのですが……」
モモは申し訳なさそうに、俺に頼む。
「あぁ、いいぞ」
「ありがとうございます」
モモは笑顔で礼を言う。
「子供の世話はどうだ?」
「はい、毎日楽しいですよ」
「何か問題は無いか?」
「そうですね。勉強くらいですかね。教えられる人が居ないので……」
これは、ゴンド村だけの問題では無い。
ジークにある四葉孤児院でも、同様の問題だ。
まず、この世界には教育機関である学校が無い。
貴族や商人の子供等は、個別に教師を雇ったり、社交場や家の手伝い等で一般教養を深めたりしている。
やはり、この世界で生きていく上で最も必要なのは算数だろう。
次に家庭科だと思う。
冒険者になるのであれば、剣術や魔法等を覚える必要がある。
適性検査で職業を選ぶ事が可能だが、一通り基本的な事を学んでおいて損は無いだろう。
幸いにもこの村には剣術と魔術に関しては、この国最高級の講師が居る。
ローズルにカルアだ。
カルアはいずれ移住予定だが、決定事項なので問題無い。
「その件については、考えておく」
「御願いします」
「他に困っている事は無いか?」
「そうですね。村の方以外との交流が出来れば良いのですが、この村は特殊ですからね」
「そうだな。村を訪れる旅人や冒険者も皆無だしな」
「国王様達に対しての礼儀を教える必要がありますしね」
「まぁ、そうだな……」
間接的に俺への苦情に思えた。
「それと、治療士の方が居ませんので不安と言えば不安ですね」
「確かにそうだな」
そう思いながらも、ユキノがゴンド村に住むので問題無いだろうと考えていた。
最悪の場合は、転移扉を使って治療士を呼ぶ事も可能だ。
「モモ姉ちゃん」
子供達がモモを呼んでいる。
「すいません、あの子達が呼んでいるので」
「気にするな。早く行ってやれ」
「はい、ありがとうございます」
モモが子供達の所に駆け寄り、戯れている姿を暫く見ていた。
「相変わらずの人気ぶりだな」
トブレがドワーフ族の職人を連れて俺に声を掛けて来た。
「人気者かどうかは分からないがな。それよりも、前村長の申し出を受けてくれて、ありがとうな」
「あの雰囲気で断る事も出来ないしな」
そう言いながら、俺に酒の入った器を差し出すので受け取り、トブレ達ドワーフ族と乾杯をする。
「こいつ等とも相談したんだが……」
トブレは真剣な顔だった。
「その、なんだ。あれだけの素材を貰ったからには、この村にそれなりの事をしたいと思ってだな。俺達もこの村に住ませて貰えないか?」
「俺にそんな権限は無いぞ。それは、村長であるゾリアスが決める事だ」
「そのゾリアスが、タクトに許しを貰えと言っていたんだ」
「そうなのか?」
「あぁ、本当だ」
ビンゴ大会前に、皆に向けて話すつもりだった事を、完全に忘れていた。
「まぁ、俺は構わないが工房とかはどうするんだ?」
「工房ごと移動するつもりだ。村長であるラチスにも話をしたが、好きにすれば良いと言っていた」
「四葉商会からの仕事はどうするんだ?」
「その仕事も俺が引き受ける。素材に関しては集落で調達した方が早いから、ラチスも了承済みだ」
「アルの火龍酒か?」
「あぁ、優先的に俺に回してくれるそうだ。定期的にマリーが訪れるから、向こうで作れる物は向こうに頼むつもりだ」
「場所だけ変わっても、やる事は同じという訳か」
「あぁ、そういう事だ。ザルボもそういう事ならと、こっちに住みたいそうだぞ」
「優秀な職人を二人も出して、集落は大丈夫なのか?」
「それなら心配ない。俺とザルボは、関係の無い物ばかり作っていたからな」
……それで、よく生活が出来ていたと感心をする。
「住む場所等は、ゾリアスに相談してくれ」
「分かった」
俺はトブレ達と別れて、ゾリアスを探す。
「ゾリアス!」
ゾリアスを見つけると、手を引きビンゴ大会の壇上に上がる。
「何だ」
いきなり連れて来られたゾリアスは困惑していた。
「皆、聞いてくれ」
俺は皆に向かって、話を始める。
「この村は、皆の者だ。俺も村民の一人に過ぎない。相談には乗るが、全ての決定権は村長であるゾリアスにある。その事を今一度、覚えておいてくれ」
「おい、タクト」
ゾリアスが何かを言おうとするが制止させて、そのまま話を進める。
「この村は、ここに住む全ての者達の村だ。当然、人族や魔族は関係ない。皆がこの村を良くしようと考えている事を、村長に相談してくれ。村民の皆が、自分で考えていかないと人頼りの村になってしまう」
俺の話を聞いてくれているのか、皆が俺を見て食事等も中断してくれている。
「皆が苦手な部分を助け合いながら、より住みやすい村にしていってくれ」
俺はそう言って、頭を下げる。
小さな拍手の音が聞こえる。その音が段々と大きくなる。
頭を上げると皆が拍手をしてくれていた。
「やっぱり、お前が村長をやれよ」
ゾリアスが嫌味っぽく俺に話す。
「俺はフラフラして、此処に居ないから村長は出来ないんだよ」
俺が笑うと、ゾリアスも笑い返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます