第479話 嘘と真実!

 ビンゴ大会が終わり、宴の時間になる。

 俺は今回もビンゴする事が出来ず、落ち込んでいるアルとネロを励ましに行く。


「なんじゃ、タクトか」

「師匠~」


 完全に気力を失っていた。


「何故、妾は勝てぬのじゃ?」


 アルが素朴な質問をする。


「勝負になれば、必ず勝者と敗者が存在する。アル達は戦う力が強いから気にした事が無いかも知れないが、アル達と戦った者達は殆どが敗者だ。今のアルと同じ悩みを抱えていただろう」

「何をすれば、ビンゴで勝てるのじゃ」

「これと言って必ず勝つという方法は無い。しかし、逆の発想をすれば今迄ビンゴ出来なかったって事は、運を貯めているって事だ。良い事をすれば運が溜まる筈だから、これからも良い事をすれば運が溜まって今度はビンゴで勝てるかも知れないぞ」

「……本当か?」

「嘘では無いが、モモや前村長は村の為に良い事をしていただろう」

「確かに!」

「人の為に見返りを求めずに何かをするというのは、とても良い事だからな」

「ん~、わたしもやるの~!」


 アルもネロも少しだが元気を取り戻したようだ。

 自由気ままに生きてきた二人の考え方が変わってくれれば良いと、期待をしてみる。


「タクト様は運が溜まりまくりなのですね」


 知らぬ間にユキノが居た。


「ほったらかしで悪かったな」

「いえいえ」

「国王達の所に行くか?」

「はい」


 アルとネロに挨拶をしてルーカス達の所に行く。


「王妃達はどうしたんだ?」


 ルーカスの傍にはダンガロイとアスランの男しかいない。

 護衛の者も居なかった。


「あぁ、姉上がの……」

「気分を害したか?」

「少し違うのだ。このような村を受け入れられる状況では無いと言った方が正しい」

「魔族嫌いだからな」

「……その事で、義兄上とも相談してタクトに話があるのだ」

「話?」


 二人共真剣な顔をしていた。


「私は御兄様と、ヤヨイの所に行ってきます」


 ユキノは何かを察したのか、アスランを連れて、この場を離れた。


「聞かれたくない話か?」

「まぁ、そうじゃ」

「分かった」


 俺は【結界】を張り、外部遮断して会話が聞こえないようにする。


「それで、姉上の魔族嫌いの件なのだが……」

「アルが原因なんだろう?」

「いや、あれは嘘だ」

「嘘?」

「正確には嘘では無いかも知れないが、魔族嫌いの本当の理由は別にある」

「はぁ?」


 ルーカスは遠回しに俺に話をする。


「ここからは私が」


 ダンガロイがルーカスに代わり話始めた。

 フリーゼがダンガロイの所に嫁いだ頃は、魔族嫌いもここまで酷く無く、一般的な感じだったという。

 嫁いで一年程経つと、フリーゼは子供を身籠る。

 国王であるルーカス達や、ダンガロイの弟であるロスナイに伝える。

 日に日に大きくなる腹に、ダンガロイもフリーゼも生まれてくる子供を楽しみにしていた。

 ロスナイがフリーゼが動けるうちに、自分の領地に招待したいと言うので夫婦揃ってロスナイの誘いを承諾する。

 準備をしてロスナイの所に向かう途中で事件は起きる。

 道中、野営の際に魔獣に襲われ、フリーゼの護衛が殺され、フリーゼも瀕死の重傷を負う。

 その際に、お腹の子も流産してしまう。

 フリーゼは暫く放心状態で、日に日に元気が無くなり、時折自分を責めたりもしていた。

 情緒不安定なフリーゼを心配したダンガロイは、当時王子で義弟でもあったルーカスに相談をして、婚約者であったイースと現護衛のカーディフと共に、ネイトス領に暫く滞在をして、フリーゼの看病を行う。

 徐々に回復の兆しを見せるが、それと同時に魔族への怒りが増していく。

 傷が癒えると、自分を痛めつけるかのように、ひたすら剣を振っていたそうだ。

 その後、流産した影響なのかは分からないが、フリーゼは子供を授かる事は無かった。

 代わりに、ルーカスの子供達を自分の子供のように可愛がった。


「そういう訳だから、姉上をあまり責めて欲しくは無いのだ」


 ルーカスは俺に、フリーゼに対してもう少し優しく接するように言ってきた。

 しかし、俺はダンガロイの話を聞いて疑問しか残らなかった。


「ロスナイの領地までの道は当然、ロスナイは知っているんだよな?」

「はい、勿論です。安全と言われた場所で野営をしました。その場所で襲われた事に、ロスナイからも謝罪はありました」

「言い方が悪いが、領主達の子供が生まれる事で一番不利益を被るのは誰だ?」

「そんな者は居らんだろう」

「国王、少し黙っててくれるか」


 ルーカスが喋ると話が逸れるので一旦、口を閉じて貰う。


「……ロスナイですか」


 ダンガロイは暫く考えて呟いた。


「そうだ」

「確かに、男子が生まれればネイトス領を継承するのは、生まれてきた子になります。女子でも婿を取るという方法ありますが……」

「あくまで推測だ。しかし、魔集石の件と言い、ロスナイはネイトス領を狙っていると考えて良いだろう」


 毎回思うが、この世界の住人は疑う事をしないのだろうか?

 普通に考えれば、ロスナイの陰謀だと気付く筈だが……。


「タルイで、奴隷制度に反対する貴族や奴隷商人達を一掃する際に、ロスナイを捕まえて皆の前で尋問しても良いぞ」

「そんな事が可能なのですか?」

「あぁ、俺のユニークスキルで嘘を見破る事は可能だ。国王は知っているよな」

「確かに、タクトのユニークスキルの前で嘘をつく事は出来ん」

「実の弟を捌く事に抵抗があるのか?」

「無いと言ったら嘘になります。しかし、フリーゼや亡くなった我が子の事を考えれば、許す事等絶対に出来ません」

「じゃあ、ロスナイは生かして捕らえるという事で」


 ルーカスとダンガロイは、承諾してくれた。

 俺自身、フリーゼの事を誤解していた事を反省する。

 女性が流産していた事を、人前で言える筈は無い。

 あの時とっさに、フリーゼなりに必死で考えた代案なのだろう。

 確かに、自分の子供を殺されれば魔族を恨むだろう。

 仮に狼人族に襲われていたら、フリーゼは狼人族を嫌っていたのだろうか?

 そんな疑問が頭を過る。

 どちらにしろ、フリーゼに対する考え方が変わった事だけは事実だ。


「タクト殿、この事はフリーゼに内緒で御願い致します」

「勿論だ。国王もうっかり喋るなよ」

「何を言っておる。余は口が堅いのだぞ」


 ……よく威張って、そのような事が言えるのだと感心した。


「俺からも聞きたい事がある」

「なんじゃ?」


 俺は【アイテムボックス】から紋章の入った武器等を出す。


「これは、以前に討伐したオークの集落や、旅の途中にある森の奥で見つけた物だ。同じ紋章があるが分かるか?」


 ルーカスとダンガロイは、紋章を見ると直ぐに分かったようだ。


「……これは。タクトよ、これを所持していた者の死体は見たか?」

「白骨死体なら、森の奥で見たぞ」

「やはり、そうか。これは、エルドラード家の紋章だ」

「はぁ? いやいや、前に国王から貰った紋章と違うだろう。似ているが違う事位は俺にも分かるぞ」

「正確に言えば、エルドラード家だった者の紋章になる」


 ルーカスの話だと、三代前の国王時代に、国王の弟は自分こそが国王だと、国王に意を唱える者達を集めて、国王の失脚を狙ったそうだ。

 しかし、国王優勢で戦いは進み、最後は反逆罪として国王の弟は処刑された。

 その年、国中で疫病が発生して、国王の弟の祟りや呪いだと噂が広まり、国王も病に倒れる。

 しかし、聖女と名乗る少女が現れて、藁にもすがる気持ちで聖女に国王の治療をさせると、国王の病が治る。

 その後も聖女は、王都の者達の治療をしてから、国を回り疫病を治していく。

 国王は意識を取り戻すと直ぐに、すぐにその少女を探すよう命ずるが、不思議な事に聖女は見つける事が出来なかったそうだ。


「なんで、同じ紋章を使わずに似た紋章にしたんだ?」

「それを余に言われても分からん」


 確かにそうだ。

 まぁ、新しい国を作るという名目もあったので、敢えて別の紋章にしたという事なのかも知れない。

 しかし、あの死体は白骨化されていたとはいえ、そんなに昔の者だったのかと疑問が残る。

 死体を発見した者であれば、装飾品等は奪っていくのが当たり前だ。

 しかし、聖女の話が出たのは意外だった。


 二人に話が終わった事と伝えて【結界】を解く。

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