第456話 フリーゼの怒り!

 イエティの首を拾って、他の死体と一緒に【アイテムボックス】に仕舞う。

 【魔力探知地図】で周囲を確認するが、それらしい印は幾つかあるがイエティと断定する事は出来ない。

 とりあえず、他にもイエティが居る可能性は、フリーゼ達には伝えない事にして、フリーゼの所に戻るとフリーゼは怒っているのが分かる。


「戦闘中に油断するとはどういう事だ!」


 怒鳴られるが、俺としては油断していたつもりは無いのだが、反論するのも面倒なので素直に謝ろうと思った。


「タクト、油断していない。魔王はこれ位では倒されない」


 スーノパパが俺を庇う発言をするが、言って欲しくない情報まで話した。


「……魔王?」


 フリーゼが魔王という言葉に反応する。


「タクト、魔王だから強い。イエティ敵わない」


 スーノパパが何故、俺が魔王だと知っているのか疑問だったが今は、それ以上にフリーゼ達への対応が先決だ。


「どういう事だ?」


 フリーゼは、怪しい表情で俺を見る。


「詳しくは国王から聞いてくれ。俺からは話す事は出来ない」

「……国王も知っているという事か?」

「それも含めて、国王から聞いてくれ」


 俺が回答をはぐらかしていると思ったのか、フリーゼの機嫌が悪くなっていくのが分かった。


「文句があるなら、国王に直接言ってくれ。何を聞かれても俺から話す事は出来ない」


 俺が素っ気ない素振りで話した為か、フリーゼは「すぐに戻るぞ!」と大声をあげる。

 イエティ討伐した事に対しての礼ぐらいは欲しかった。

 魔族が絡まなければ、良い感じだったのにと思いながらも、フリーゼの魔族に対しての嫌悪感と言うか敵対心は凄まじいと感じた。

 過去に何かトラウマのような出来事でもあったのだろうか……。

 深く事情を知れば面倒な事になる。

 俺にとってフリーゼは、親戚のおばさんなので、良い感じの距離で接すれば良いだろう。


「スーノパパを送って行くから、少しだけ待っていてくれ」


 俺がフリーゼ達の送迎よりも、魔人族であるスーノパパの送迎を優先した事で更にフリーゼの怒りに火を点ける。


「私達が帰る方が優先だろう!」

「駄目だ、スーノパパを送る方が優先だ。帰る時間は俺が短縮出来るので、問題無い」


 俺が反論すると、文句を言おうとするがフリーゼの目を見続けると目線を逸らした。


「タクト。俺、一人で帰れるから大丈夫」


 スーノパパが俺達の事を心配してくれていた。

 種族関係なく気遣いが出来るスーノパパの方が、フリーゼよりも人らしい。


「そうか今度、土産持って来るからな」

「分かった。楽しみにしている」


 スーノパパは律儀に俺達に向かい頭を下げて、帰っていった。


「一旦、ホラド村に戻る事で良いんだな」

「そうだ」


 フリーゼの機嫌は直らない。


「じゃあ、行くぞ」


 俺は【転移】でホラド村に移動した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「何が起こった」


 フリーゼは一瞬で景色が変わった事に驚いている。

 ホラド村の村民達も、いきなり俺達が現れた事に驚いていた。

 俺は気にせずに【アイテムボックス】からアルミラージの素材と死体に、イエティの死体を取り出して地面に置く。

 アルミラージとイエティの死体は、村民達の目の前で【解体】をする。


「アルミラージとイエティは討伐した。これはその素材だ。詳しくは領主夫人から聞いてくれ」


 面倒臭い説明をフリーゼに振る。

 俺が話すよりも上手く説明するだろうし、村民としても領主夫人からの言葉の方が安心感が増す筈だ。

 目線をフリーゼに送ると、一歩足を踏み出してフリーゼが村民に説明を始めた。

 俺は、目立たぬように後ろに下がり、かなり後ろに移動をして、その光景を見ていた。


「まるで英雄だな」


 村民に称えられるフリーゼを見て呟く。

 魔族を殺せば無条件で称えられ、人族から理不尽な扱いを受けても身分の差だと諦め我慢をする。

 分かりやすい敵を作る事により国内の不満から目を逸らすのは、前世でも他国でよくあった事だ。

 姿形が異なっている事を理由にして、お互いを理解しようとする気が無ければ、関係の改善も無いだろう。

 魔獣相手に話し合いが出来ないのは仕方が無いが、魔人であれば人族同様に多種多様な為、交渉の余地はあるのだが……。

 フリーゼは気分が良いのか話続けている。俺の事は忘れているかのようだった。

 長くなる予感がしたので、俺はクロに調査報告を聞く事にした。

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