第440話 御機嫌取り!

 マリー達と別れた俺は、飛行艇が仕舞ってある場所に行き、広場まで飛行艇を移動させる。

 空を飛ぶ事は出来ないので、収納する際は何人もの衛兵達が車輪の付いた引き車で移動させていた。

 俺は【アイテムボックス】に仕舞えるので、それほど苦労なく広場まで飛行艇を移動させた。


 ルーカスの姉であるが嫁いだ『ネトレス』に行くが特に準備も無いので、飛行艇の前でルーカス達が来るまで、暫く待つことにする。

 服を正装用の物に着替えて無い事に気が付き、飛行艇の中で着替える。

 若干ではあるが動き辛いので、いつもの楽な服装が良いが第一印象は大事だと思うので、身なりには気を使う事にする。

 暫くすると、ルーカス家族五人に、護衛のターセルとカルア、それとナイルがやって来る。


「ナイルが、ロキの後任なのか?」


 以前に、三獣士の後任と聞いた記憶があったので、聞いてみる。


「いいえ。今回は、亡くなったロキ殿代理という事で、同行するだけです」

「そうか、宜しくな」


 ナイルに挨拶をするが、緊張しているようだ。

 誰でも初仕事は緊張するので、ナイルも例外では無いようだ。


「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」


 カルアが、ナイルの緊張を解くように、話し掛ける。


「しかし、カルア殿も護衛衆を退かれると聞いてますし、私やコスカは三獣士の任を引継ぐと先程、聞かされましたので……」


 ナイルも三獣士が、王国への脅威となる者を、排除をしてきたのか知っているので自信が無いのだろう。

 ましてや、仲間は正反対の性格であろうコスカだ。

 上手くやっていけるか等の不安は尽きないと思っているに違いない。


「大丈夫ですよ」


 ターセルも、ナイルを安心させるように話す。

 俺は人事について、ターセルに聞く。

 三獣士は、そのまま護衛衆となり、ターセルを含めた四人体制となる。

 今迄の三獣士は、ナイルにコスカ、俺の知らない『カーディフ』『ジョイナス』の二人を加えて、こちらも四人体制にするそうだ。

 ナイル達は活動する為に、チーム名が必要になる為、顔合わせした際の最初の仕事が、チーム名を考える事になる事と、リーダーを選出する事になるという。


「リーダーは、カーディフで皆、納得すると思います」

「そうなのか?」


 ナイルは、リーダー決めは既に決まっていたような口調で答える。


「カーディフは実力は勿論、冷静な判断も出来て人徳もあります。コスカでさえ認めています」

「そんな、優秀な人材が居たんだな」

「はい。フリーゼ様専属の護衛として、三年程前にネイトスに居ますので、タクト殿は御存じないのも仕方がありません」


 王都に居ないのであれば、俺が知らないのは当然だ。

 なにかの用事で、王都を訪れていたとしても、話題に上がらなければ特に興味を持つことも無い。


「しかし、そのカーディフが護衛の任を解いたら、誰が領主夫人の護衛をするんだ?」

「それは、フリーゼ様が後任を育てている筈ですので、問題は無いかと思います」

「そうなのか」

「はい。そもそも、フリーゼ様御自身も、それなりの強さをお持ちです」


 ルーカスの姉であれば、四十歳前後になると思うが、今でもその強さを維持しているのか?

 話半分として聞いても、自分の護衛を育てる事も踏まえると実力や、指導力もあるのだろう。

 礼儀作法に厳しいと聞いているので、俺の言動が逆鱗に触れないかが心配だ。

 悩んでいると、大きな荷物が飛行艇に運ばれてくる。


「タクト、これも運んでくれ」


 ルーカスが俺に話し掛けてきた。


「……土産か?」

「あぁ、姉上の御機嫌を取るのに必要だ」


 国王が、実の姉に御機嫌を取る為に大量の土産とは……。


「分かった。【アイテムボックス】で良いんだよな?」

「勿論だ。それと、お主の料理も期待しているからな」

「料理?」

「……言っていなかったか? 綿菓子等の今迄、食べた事の無い料理を姉上に振舞うつもりだ」

「聞いていないぞ。それに料理なら、料理長を連れて行けば良いだろう」

「料理長はタクトなら、ネイトス特有の作物でも工夫して、料理を作れるだろうと言っておったぞ」


 ……ネイトスならではと言っても、どんな作物があるのかさえ知らない。

 それに、大層な料理を作る腕も無いのだが。

 全て決定事項の為、俺が騒いだ所でどうにもならない。

 諦めるしかない。


「用意も終わったのなら、さっさと向かうぞ」


 待たせていたのは、ルーカス達なのに俺が遅いような言い方だ。

 相手は国王であり、義父になる人物なので少し腹が立ったが我慢する。


 全員が飛行艇に乗った事を確認して、ネイトスに向かって飛び立つ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る