第435話 冥界の担当者!

 俺は胸に手を当てて【蘇生】を使う。

 一瞬で暗闇になり、冥界に来た。


 暫くすると、黒いローブを被った者が表れる。

 何も話もせずに、俺の隣に居る。


「……えっと、私の担当の方ですか?」


 黒ローブの者は頷く。


「セレナという名のダークエルフの娘に会いたいのですが、会わせて頂けますか?」


 黒ローブの担当者は、無言で頷くがその場から動こうとしない。


「その、セレナという娘に会いたいのですが……」

「……私がセレナです」


 一瞬、耳を疑った。

 オーカスが、俺とセレナが知り合いかと思い、担当者にしたのだと推測する。


「話すのが辛い事を承知で聞きます。貴女の死んだときの状況を教えて下さい」


 黒ローブで顔は隠れて見えないが、淡々とその時の状況を話し始めた。


 いつも通り、森で生活していると動物達が逃げる始めたので何事かと思うと、数人の人族を発見する。

 蓬莱の森でも、かなり奥になる場所なので滅多に人族とは遭遇しない。

 セレナも身の危険を感じて、逃げる。

 しかし、人族はセレナの場所が分かるかのように、後を追ってくる。

 セレナも必死で逃げるが、足に傷を負わされ、先回りされたりと徐々に追い詰められる。

 人族が「これで、俺達も遊んで暮らせる」と言って、自分の命を奪ったと話してくれた。


 俺は、セレナの話を聞いて疑問を感じたので、質問をする。


「自分の居場所が知られていた事に、心当たりが無いですか?」

「ツーさんから、貰ったペンダントが原因だと人族が話していました」

「……ツーさんとは、ガルプツーの事ですか?」

「はい。ツーさんを御存知なのですか?」


 セレナは顔を上げるとフードから顔が見えた。

 ダークエルフなので、黒い肌を想像していたが、日焼けしたエルフといった印象だ。

 俺は、セレナが亡くなってからのガルプツーの事を話す。


「……そんな」


 明らかに動揺をしていた。

 自分のせいで、優しかったガルプツーが人族への復讐者として、憎まれる存在になっている事が辛いのだろう。

 俺は話を戻して、ガルプツーから貰ったペンダントが何故、自分の居場所が分かる原因だと思ったのかを聞く。


「殺される間際に、ペンダントがある限り何処に逃げても分かると、私を殺した人族が言っていました」

「……ガルプツーは、そのペンダントを誰から貰ったとか聞いていませんでしたか?」

「古くからの友人から貰ったとしか、聞いてません」

「そうですか」


 どう考えても、古くからの友人とやらがセレナを殺害する首謀者にしか思えない。


「ツーさんに復讐を止めて貰う事は出来ませんか?」

「正直、難しいと思います。貴女の死が原因で、自分を見失っていますから」


 ガルプツーが、古い友人とやらに利用されているのは間違いないが、ガルプツーのした事は許せる訳ではない。


「私には、現世に戻る事が出来ません。貴方に伝言を託す事は出来ますか?」

「私はガルプツーを殺すかも知れないですよ」

「……はい、それでも構いません」

「しかし、私が伝言を伝えたところで、ガルプツーに信用されるとは限りません」

「大丈夫です。私とツーさんしか分からない暗号を伝えます」


 セレナは俺に伝言と暗号を話す。


「貴女は、私がガルプツーを殺しても恨まないんですか?」


 どうしても気になるので、質問をする。


「はい。ツーさんの悪事を止めていただけるのであれば……それに、私のせいでこれ以上、ツーさんが苦しんで欲しくは無いんです」

「分かりました」


 俺は、伝言を伝える事を約束する。

 しかし、ガルプツーを倒して終わるかと思っていたが、黒幕が別に居るのであれば厄介だ。

 今迄、存在が知られずに居たという事も不気味だが、ガルプツーを従わせていた可能性もある。

 勿論、同じ目的の為、共闘していたという考えも出来るが、そうすれば目的は人族の全滅になる。


 本当であれば、セレナを生き返らして直接、ガルプツーと話をしてくれるのが手っ取り早いのだが……。


 一応、セレナにはガルプツーとの出会いや生活についても話して貰った。

 セレナは嬉しそうに話をしてくれた。

 俺の知っているガルプツーとは全然違っていた。

 このガルプツーを知っているクロにしてみれば、今のガルプツーの姿は信じられないのだろう。

 クロの気持ちも、少しだが分かる気がした。


「貴女が、冥界に残っているのは、ガルプツーの事が気掛りなんですか?」

「はい。待てるのであれば、何年だろうと此処で待とうと思っております」


 魔獣等も死ねば、冥界に来るのか疑問を感じたが、深くは追及するつもりは無い。


「ガルプツーに、貴女の事を伝える上で、本当に貴女の言葉だと分かってもらう為に、何か二人だけしか知らない事はありますか?」

「はい」


 セレナは、ガルプツーとの秘密の事を幾つか教えてくれた。


「私と、ツーさんしか知らない事ですので、信じて貰えるかと思います」


 話し終わったセレナに、ガルプツーの復讐を必ずとめる事を約束する。

 それがガルプツーを殺す事になる事を再度、伝える。


「お願いします」


 セレナは頭を下げた。

 現世に戻る方法をセレナに聞くと、冥界に来る時のように胸に手を当てて現世に戻る事を念じれば、戻れると教えてくれた。

 正直、冥界に来るという事は亡くなった人と会う事になる。

 来ないので済むなら、来なくて良いと思う。

 セレナに、別れの挨拶をして、胸に手を当てて現世に戻る。

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