第413話 対決当日!
雨音で目を覚ます。
まだ時間が早い為、外を見ても殆ど人が居ない。
一応、護衛のものには部屋を用意して貰っている。
ロキとカルアは、夜通しルーカス達を交代しながら、警護をしていた。
一応、ルーカス達の部屋に【結界】を張っているので問題ないだろう。
カルアも今回は楽な警護だと言ってくれていた。
しかし、無駄に広い部屋だ。
昨晩、暇なのでシロを呼ぼうとしたが、気配で感付かれると言うので、話だけをする。
オーフェン帝国の守護神でもあるケット・シーだが、名前があるので『ネーム付』であれば、誰が主なのかを確認したかった。
シロが言うには、本当の名前でなく『通り名』らしい。
オーフェンという国の名も元々は、自分を慕う者達を集めて国を作ったらしい。
国の頂点に君臨する王がフェンだった為、王フェンからオーフェンへと変化したと説明してくれた。
時が流れて、獣人が多い国になり自分の代わりに強き者を王とする事で、フェン自体はあまり表舞台には出てこないそうだ。
ただし、オーフェン帝国の者達は誰もがフェンを敬っている。
今でも、建国者であるフェンへの感謝が大きいのだろう。
「御主人様。もし、彼女が御主人様に無礼を働いた際は、私が動いても宜しいですか?」
「そうだな、頼めるか。でも、シロは苦手なんだろう」
「はい、そうですが、間違いなく彼女が無礼な事をするのは分かっています」
よく知っている者同士に任せておくのが良いだろう。
そう思いながら、空を見ていた。
「今日雨っぽいので、使える魔法が限られますね」
シロが、何処に居るのか知らないが雨なのを知っているのは、気配を悟られない距離で待機しているのだろう。
シロの言葉通り雨だと、炎系魔法は多少なりとも、効果が消される。
風系魔法も雨で軌道が読まれる可能性がある。
雷系魔法は、観客等への被害があるので使う事が出来ない。
しかし、それはあくまで一般論だ。
俺自身、何度も雨の中で討伐クエストを行ったりしているのが、炎系魔法である【火球】を使っても威力は変わらない。
風系魔法の【風刃】も確かに、雨が当たれば軌道が読まれるが、読まれた所でたいした問題ではない。
反応出来ないそれ以上の速度で、攻撃をしているからだ。
雷系魔法は、確実に被害が出るので、今回は出来るだけ使わない事にする。
「じゃあ、何かあれば頼んだぞ」
「はい」
シロとの話を終える。
「おはようございます」
ターセルが起きてきた。
「もしかして、起こしたか?」
「いえいえ、興奮しているのか目が覚めてしまいました」
そう言いながら笑う。
「今日は、タクト殿の晴れ舞台ですね」
「いや、俺たちのだ!」
「そうでしたね。これは、失礼致しました」
気のせいか、ターセルのテンションが高い感じがした。
興奮して目が覚めた影響か?
「対決が終わったら、すぐに帰国で良いんだよな?」
「どうですかね。タクト殿に負けたスタリオン様の事もありますので……」
「気になる事でもあるのか?」
「オーフェン帝国最強と言われているスタリオン様の負けを、オーフェン帝国の国民がすんなりと受け入れるかと思っております」
「俺に向かって、一斉に襲ってくるって事か?」
「あくまでも可能性ですよ」
ターセルなりの冗談のようだが、確かに有り得る話だ。
「それよりも守護神でもあるフェン様が、すんなり帰させてくれるかです」
「それも、その時の判断だろう」
「はい」
対決に勝っても、面倒な事になるのは間違いないようだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「料理人では、無いのですか?」
ルーカスの部屋で、対決までの時間待機をしていたが、時間なのかオーフェン帝国から案内の者がやって来た。
スタリオンの対戦相手が俺だと分かると、呆気に取られた顔でそう呟いた。
案内の者は、先日までの三国会談で、俺とビアーノが晩餐会で挨拶した際の案内人でもあったようだ。
ルーカスとカルアの二人は、案内人の言葉で笑っていた。
「彼が、スタリオン様と戦うタクトです」
王妃であるイースが、ルーカスの変わりに俺が対戦者で間違い無い事を、案内人に告げる。
「失礼致しました」
案内人は、深々と頭を下げて非礼を詫びた。
ルーカス達は、特別席から観戦するらしく、対戦者の俺だけが案内人に連れられて控え室らしき場所まで移動をして、待つように告げられた。
控え室まで案内されている間に、スタリオンの事を聞く。
しかし、案内人は無言のままだった。
案内人も、俺のような奴が王子であるスタリオンの対戦相手なのが、気に入らないのかも知れない。
仮にも、自分の国の王子で最強と言われる男が、エルドラード王国からの最強の男と対決すると聞いて、心が弾んでいたのだろう。
なんとなくだが、案内人は多分、ロキのように筋肉隆々な相手を想像していたのだと思う。
どんな所で対決するかは知らないが、観客は全員敵なのは間違いない。
登場と同時に、ブーイングされるのだろう。
悪役として登場するのも、良い経験だと思いながら暫く待つ。
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