第402話 それぞれの報告!

 エドゥアルドの村へ移動して、湖の件を村人達に報告する。


「とりあえず、あの湖で漁をしても大丈夫だ」

「もう、湖の魚を食べても大丈夫と言う事ですか?」

「あぁ、それと村近辺の魔獣もある程度、討伐しておいたから安心してくれ」

「本当ですか! 有難う御座います」


 報告を終えると、ユキノに村人全員へ【神の癒し】を施してもらう。

 村人達には、湖の調査が完了したので村を去る前に、念の為もう一度治療行為を行うと説明をした。


「本当に有難う御座います」


 ガーラルが、エドゥアルド村を代表して、俺達に礼を言う。

 それに対して、何も言わない俺を皆が見るが、アスランに向かって目で合図を送る。

 俺に意図に気が付いたアスランが、代表して挨拶をした。

 ここは、王子であるアスランが代表として挨拶をするのは筋だろう。

 村人全員が、村の出入り口まで見送りに来てくれていた。


 再度、別れの挨拶をして、エドゥアルド村を去る。



「あの挨拶は、私で良かったのですか?」

「当たり前だろう。冒険者の俺と、王子であるアスランとでは、言葉の重みが違う」


 アスランは、俺が挨拶をしなかった事について、話し掛けて来た。


「村人達も、アスランの言葉であれば素直に聞くだろうしな」

「そうですか?」


 俺的には、国民に対して少しでも、アスランの好感度を上げようとしたつもりだったが、アスランにはそんな気は無いようだった。

 義理の兄に気を使ったのも、多少はある。


 アスランとユキノを送る為に一度、城に戻る事にする。

 トグルはクエストの報告もあるので、ギルド本部に同行してもらう必要がある。

 アスランは、素直に従ってくれたが、ユキノは俺達に同行すると言うが、今回は大人しく城に帰るように言うと、少し不満そうだった。

 三国会談というか、オーフェン帝国へ行く用意もあるだろうと説得して、ユキノを納得させる。


 ジラールにクエストが終わった事と、今から向かう事を伝える。

 ギルド本部に来る時間を聞かれて、その時間にヘレンに待機させておくと言われる。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「御待ちしておりました」


 ギルド本部に行くと、ヘレンが俺達に声を掛けて来た。

 他の冒険者達は、トグルに気が付くと「漆黒の魔剣士だ!」と話しているのが聞こえた。

 知名度で言えば、ランクSSSの俺よりトグルの方が上みたいだ。


「有名人だな」

「お前のおかげでな」


 皮肉を言うが、皮肉で返される。

 ヘレンの案内で、いつも通りジラールの部屋へと行く。

 扉を開けると、ジラールが仕事を止めて、俺達に座るように言う。


「それで、幾つクエストは完了した?」

「三つとも全て完了したぞ」

「……全部か?」

「あぁ、だから全部だって言っているだろう」

「いや、だってな夜にもなっていないのに、レッドキャップ討伐なんて出来ないだろう」

「グラマス、コイツに常識は通用しない事を忘れていませんか?」


 トグルが、ジラールに当たり前の口調で話す。


「……そうだったな。相手が、タクトという事を忘れていた」


 俺は【アイテムボックス】から、『レッドキャップのコア』ひとつと、『キラーラットのコア』三百八十六個を机の上に置く。

 当然、コアは机の上から落ちて床に散らばった。

 ジラールとヘレンは、唖然としていた。


「……キラーラットを、全滅させてきたのか?」

「いや、十数匹は残しておいたぞ」

「それで、このコアの数と言う事か……」

「それと、『湖の魔物調査』だが、結論から言えば魔物は居なかった」

「どういう事だ?」


 俺は、湖の事をジラール達に話す。

 黒い玉の事や、それにより魔獣化した動物も含めてだ。


「それは、黒い玉という奴を同じような使い方をすれば、何処でも同じ事が起こり得るということか?」

「そういう事だ。それに、魔獣化した鳥は全て討伐したかは、俺でも確認出来ないしな」

「……タクトと話すと、色々と大きな問題が出てくるな」


 大きな溜息とつきながら、ジラールは話をする。


「グラマス、コイツは昔から問題ばかり持ってくる疫病神ですから、仕方ないですよ」


 トグルが、追い討ちを掛けるように、俺の悪口を言い始めた。

 反論しようと思ったが、自分の行動を思い返してみると、不可抗力とはいえ問題事を起こしているのは、確かだった。


「とりあえず、『キラーラットの討伐』の報酬と『レッドキャップの討伐』の報酬は、後でヘレンが持ってくるから受取ってくれ」

「その前に、このコアを片付けても宜しいでしょうか?」

「そうだな、受付から何人か、この部屋に呼んで片付けさせてくれ」

「はい」


 ヘレンが、席を立ち部屋を出て行った。


「それと、『湖の魔物調査』は、報告書が必要だから作成に協力してくれるか?」

「それは、構わないが今からか?」

「そうだな、早い方が良い。疑うわけでは無いが、別の者をエドゥアルドの村へ派遣して、状況確認させて貰う」

「別に良いぞ。それより、エドゥアルドの村はジラール達の管轄なんだよな?」

「あぁ、そうだが問題でもあったか?」

「いや、湖の側でオウルベアが居たので、ついでに討伐しただけだ。トグルに聞いたらランクAの魔獣だと言うので、報告だけしておいた方が良いと思ってな」

「オウルベアだと! オウルベアは、つがいで行動しているから、大人であれば二匹居る筈だが……」

「そうだ。俺とトグルで、一匹ずつ討伐したぞ」

「お前と話していると、驚くことばかりだ。俺の感覚が、麻痺しそうになる」


 ジラールが又も、大きな溜息をつく。

 俺は『オウルベアのコア』を出して、ジラールに見せる。


「あの付近に、そんな高ランクな魔獣が居れば大騒ぎになる筈なんだがな……」

「大人しく暮らしていたという事か?」

「いや、それはあり得ない。オウルベアは知能は低く凶暴な魔獣だ。必ず、なにかしらの報告がある筈だ」

「何処からか、移動してきたというわけか?」

「それも考えにくいな。移動するのであれば、何かしらの痕跡が残ったりするはずだ」


 ……確かに、ジラールの言うとおりだ。

 では何故、あの場所にオウルベアが生息していたのだ?


「意図的に、誰かが強制的に運んできたのかもな……」


 ジラールが、冗談のように呟く。

 俺はジラールの言葉で、ガルプツーがこの湖の件に絡んでいるのは、間違いないと感じていたので、このオウルベアの件も同様かと疑う。


 部屋の扉を叩く音がして、「失礼します」の声と共に扉が開く。

 部屋の状態を見た受付け嬢達は、驚いているのか動きが止まる。


「先程話した、このコアを受付に移動願いますね」

「は、はい」


 受付嬢達は、机の上や床に落ちているコアを袋に入れていた。

 一言言ってくれれば、俺が受付まで運んでやったのだが、他の者の仕事を奪う事にもなるので、俺からは何も言わなかった。


「こちらが、報酬になります」


 へレンが、俺とトグルにクエスト報酬を差し出す。


「レッドキャップは、トグルが全部持っていっていいぞ」

「いや、それは」


 トグルが全部言う前に、言葉を遮るように俺が喋る。


「今回、俺は戦闘に関しては何もしていない。レッドキャップを見つけた事を言うんであれば、それは俺からトグルに依頼した依頼料だと思ってくれ」

「しかしだな」

「アスランからの依頼だと言っても、トグルは拒否するのか?」

「……相変わらず、屁理屈が得意だな」

「いや、正論だぞ。まぁ、トグルが納得していないのであれば、マリー達に食事でも奢ってやってくれ」


 トグルは渋々、納得する。


 その後、綺麗になった部屋で、報告書の作成に協力をしてから、トグルとジークに戻った。 

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