第331話 言葉の重み!

「ところで、両目共に紅いがロッソはロードなのか?」


 ロッソの目が紅い玉のように光っている。

 通常のスケルトンであれば、片目だけ青白く光っているだけだった。


「そうだな、アンデッドの場合は種族毎にロードという概念が無く、アンデッド系の魔族を統べる者がロードになる」

「それが、ロッソなのか?」

「魔力の蓄積されるのが私自身だから、必然的にロードになるな」

「名称はあるのか?」

「いや、無い。不便も無いし、聞かれることも無いからな」

「確かにそうだな」

「まぁ、敢えていうならアンデッドロードになるのだろう」

「そうか。まぁ、名乗る事が無いなら必要無いよな。それと……」


 ロッソに対して、他のスケルトン同様に目がコアなのかを聞く。

 弱点を単刀直入に聞かれたロッソは驚くことなく「残念だが、違う」と答えた。

 俺はそれ以上聞く事はしない。只、疑問に思ったから聞いただけでロッソを倒すという目的では無いからだ。


「ここに引き籠っていると、暇じゃないか?」

「確かにそうだが、色々と物を製作したりしていると時間等気にならないものだ。私にとって時間等意味の無いものだからな」


 ロッソもアルやネロ同様に【不老不死】のスキル持ちなのだろう。

 確かに部屋を見渡すと、珍しい物が多数ある。

 その中のひとつを見た時、大事な事を思い出した。


「以前、『魔力封じの指輪』をネロに渡さなかったか?」

「随分と前だがな。何故それをタクトが知っている?」

「ロッソの作った指輪のおかげで、俺の知り合いが世話になったので、礼を言わなければと思ってな」

「そういう事か。わざわざ、挨拶に来るとは変だと思ったが、本当の目的はそっちという訳か。照れ隠しにしては、先輩魔王への挨拶はどうかな」


 ロッソは、勝手に俺が礼を言うのが恥ずかしい為、挨拶を口実にしていると思っている。


「まぁ、タクトが義理堅い人間族という事は分かった」


 勝手に俺を過剰評価してくれている。

 今迄にない状況だ! これだけでもロッソに対する好感度が格段に上がる。

 少し、いい気分になったのでロッソとエテルナに「必要な物があれば、俺が調達する」と話すと共に、街や村から盗む事は今後しないでくれと頼む。

 エテルナも罪悪感はあったのか、俺の頼みを受け入れて今後は盗みをしないと約束してくれた。


 それからも、ロッソとエテルナとで色々な話をした。

 ロッソも転移者で、気付くと全身骨だらけで驚いたらしい。

 ガルプを信仰させようと努力はしたが、見つめられた者は命を落とすので、すぐに諦めたそうだ。

 アルとネロに出会うまでは、孤独な日々を過ごしていた。

 子供っぽいふたりと行動していると、保護者の気分で楽しくも苦労したと話す。

 俺もその気持ちがよく分かる。

 俺は、分かる範囲で外の様子をロッソとエテルナに話す。

 ロッソの指輪のおかげで結婚すると指輪を贈る等も話すと、嬉しそうにしている。

 表情は変わらないのに、嬉しそうにしている事が分かるのは不思議だったが、そんなロッソを見ていると少し可哀想にも思えた。

 魔王と言われるのも、目が合うだけで生命を奪ってしまう為、他の者から恐れられてしまった結果なのだろう。

 本当は、他の者達と普通に話をしたりした生活をしたいのかも知れない。


「もしかして、寂しいのか?」

「確かにそうだな。私と面と向かって会話が出来る者は、限られているからな」

「相手が目を瞑っていても駄目なのか?」

「数百年前に試した事があるが、目を瞑っても私と対峙したり、私の事を知った上で瞑っても同じことだ。無意識に視界を遮る等であれば、普通に話す事は出来る」

「ロッソ様、それはクレア様の事ですか?」

「そうだ」


 クレアというのは、数百年前に人間族で、ダンジョンを改良する為に時々外に出ていたロッソと出会ったそうだ。

 クレアは全盲で、当時この辺りは飢饉に襲われて口減らしが必要になり、父親によってと蓬莱山で捨てられようとしていた。

 蓬莱山で死ねば、来世では幸せになれるという言い伝えがあり、何十人と子供や老人が捨てられていたそうだ。

 クレアは父親と一緒に居る所をロッソと出くわした為、父親はロッソと目が合い命を落とした。

 全盲のクレアは、ロッソの姿や能力が分らなかったのか、命を落とす事は無かった。

 その後、ロッソはクレアと数年一緒に暮らすが、人間族の寿命は短い為、クレアも亡くなった。

 それから、ロッソは魔力を封じる研究をしたり、死後の世界への行き方等を始める。

 『魔力封じの指輪』もその過程で出来た試作品のような物だったらしい。

 研究に没頭するあまり、アルやネロ達とも連絡を取らなくなり、徐々に疎遠になる。


「不死ってのも、幸せでは無いんだな」

「あぁ、終わりのない拷問のようなものだ……」


 ロッソの言葉には重みがあり、俺はそれに対して言葉が出てこなかった。

 もしかしたら、クレアという少女はロッソの一番弟子なのかも知れないと思いながら、大事な事を思い出す。


「そういえば、弟子のカルアが元気だと伝えてくれと言っていたぞ」

「そうか、カルアも元気でやっているのか」

「あぁ、今はエルドラード王国の護衛騎士団のひとりだ」

「そうか、昔から魔法の才能はあったからな」

「カルアは、ハーフエルフだが特異体質なのか、魔力量が異常に多い。それに咄嗟の判断力がずば抜けていたから、臨機応変に対応していたので、護衛というのは適任かもしれないな」


 嬉しそうに話すロッソに、カルアより預かっていた袋を【アイテムボックス】から取り出して渡す。

 【アイテムボックス】にロッソは驚いていたが、それよりもカルアからの袋の中身が気になっているのか、受け取ると同時に袋の中身を確認する。


「……そうか、もうそんなに経つのだな」


 ロッソは袋から指輪を取り出した。

 エテルナは指輪の意味を知っているのか、ロッソ同様に嬉しそうだ。

 何も聞かずに見ている俺に、エテルナが説明をしてくれた。

 カルアは、ロッソと出会った日を記念日として、百年に一度指輪を贈り続けていた。

 ダンジョンに引き籠っているロッソにとっては時間という概念は無い為、時間を認識出来る数少ない事らしい。

 ロッソは指輪を持ったまま立ち上がり、小さな箱に指輪を仕舞った。


「これをカルアに渡してもらえるか」


 深紅の耳飾りを渡される。

 俺はそれを受け取り【アイテムボックス】に仕舞う。


「ところで、カルアは片づけられるようになったか知っているか?」


 ロッソの質問に笑って返すと意味を理解したのか、それ以上は何も言ってこなかった。

 カルアは昔から、片付けが出来ない女性だったのだと確信した。

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