第319話 報告!
「さっきは、悪かったな」
「別にいいわよ。私も頭に来ていたしね」
ルリに先程の事で謝罪に来た。
「それよりも、あの娘大丈夫?」
「さあな、俺ではどうしようもないからな」
「そうね。本人次第だからね……」
お互いマリーの事を考えて話をするせいで、会話が続かない。
ルリもマリーを心配しているのが分かるので、気休めで話を進める気分でもない。
「タクトさん、たまに一緒にいる男性や女の子は御家族ですか?」
……多分、シロとクロの事だろう。
「そうだな、家族に近い大切な存在だ」
「そうですか、私は家族を知らないので羨ましいですね」
「もしかして、孤児院出身なのか?」
「はい、そうですよ」
「サジとサーシャの所か?」
「よく御存知ですね」
「まぁ、ちょっとな」
ルリとシュカは共に孤児院出身で、元冒険者だそうだ。
冒険者といってもランクDまでしか昇級出来なかったそうだ。
ふたりで貯めた金貨で、この店を立ち上げて今に至る。
「大変だったんだな」
「そうね、苦労と一言では簡単に言えないわね」
女性ふたりで、店を立ち上げてそれを維持していくのは難しい事だろう。
「まぁ、領主がリロイ様に変わってからは、随分と楽になりましたけどね」
「前の領主は非道かったのか?」
「えぇ、そうですね。ところで、タクトさんが四葉商会の代表ってのは本当なのですか?」
「あぁ、あまり公表していないからな。出来れば内緒にしてくれ」
「分かりました。女の子達にも言っておきますね」
「頼む」
「タクトと言うお名前と四葉商会であれば、孤児院を支援してくれているのは、やはりタクトさんなのですね」
「まぁな。サジかサーシャに聞いたのか?」
「はい」
ルリとシュカは、定期的に孤児院に差し入れをしていたそうで、サジから孤児院の移設や、子供達の服の事、フランが写真を撮ったりしてくれている事を聞いたそうだ。
ただ、四葉商会やタクトと聞いても、俺だとは分からないでいた。
改めて、ルリから礼を言われる。
偶然にこの店に来たのも、なにかの縁だったのかもと思い酒を一口呑む。
客が次々と入店して来て、満席に近い状態になって来たので帰る事を伝えると、「気を使って貰ってすいません」と申し訳なさそうに話す。
先程の代金を教えてもらうついでに、シュカへも謝罪をするがルリ同様に「気にしなくていい」と言われる。
きちんとマリーのフォローをするようにと付け加えられた。
「多めになるが、迷惑料だと思ってくれ」
「いいのかい?」
「あぁ、勿論だ」
「それなら、遠慮無く頂いておくとするわね」
「そうしてくれ。又来るから、その時はサービスしてくれ」
社交辞令を言って『ベリーズ』を出る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
開店前に従業員を集合させる。
フランのみ不安そうな顔をしていた。
「報告がある。まず、少し前まで王都からジークに来ていた魔法研究所のローラが、四葉商会に入社した」
ローラ自身を知らない者も多いので、何のことかよく分かっていない者も居る。
一応、王都にある魔法研究所で仕事をしているので、直接は関係ないが報告だけする。
「次にマリーと、リベラ前に来てくれ」
呼ばれたふたりは俺の横に並ぶ。
リベラは何故、呼ばれたかが分かっていない。
「昨日付で、マリーが『ブライダル・リーフ』を辞める事になった」
フランは、予感が当たったのが悔しいのか、目線を落としていた。
「それで、リベラに『ブライダル・リーフ』の店主を任命する」
「えっ、私なんて……」
不安そうなリベラにマリーが、「リベラなら大丈夫よ」と声を掛ける。
マリーは俺と目線が合うと頷き、最後の挨拶をする。
「私の勝手な都合で、急になってしまい申し訳御座いません。短い間でしたが、皆さんと仕事を出来た事は私の誇りです」
フランとリベラが、泣いているのが分かる。
それに影響を受けてか、マリーも涙を流しながら挨拶をしていた。
マリーの挨拶が終わると、フランが駆け寄りマリーと抱き合っていた。
その姿を見ていたユイとリベラは号泣していた。
『ブライダル・リーフ』に関係のないトグルも何故か一緒に居たのだが、同じように涙を流していた。
その姿を見ながら、仲間とは良いものだと改めて感じた。
マリーがひとりひとりに挨拶をする。
ライラは王都に居る為、不在なので「宜しく伝えておいて」と言われる。
「もう、いいか?」
「えぇ、ありがとう」
解散して仕事に行こうとしていたので、「まだ報告が残っている」と皆に言う。
マリーの肩を掴み、
「今度、四葉商会の副代表に就任したマリーだ。皆、副代表であるマリーの言う事を、きちんと聞くようにな」
「……えっ!」
驚くマリーが俺の方を向く。
「なんで?」
「マリーに聞いたよな『ブライダル・リーフ』を辞めるのかって」
「えぇ」
「四葉商会を辞めるとは聞いていないだろう」
「……確かにそうだけど」
「それに、マリーの商人ギルドの所属は四葉商会だろう」
「そうよ」
「俺も忙しいから、四葉商会全部をマリーが見てくれると助かるしな」
「……騙したわね」
「騙してはいないぞ。勝手にマリー達が、勘違いしただけだ」
マリーは怒りながらも笑顔になっている。
「私達の涙、返しなさいよ!」
フランが烈火の如く怒っているが、目からは涙を流している。
マリーも涙を流しているが、同じ涙でも先程まで流していた涙とは意味が違う事は、ここにいる皆が感じているだろう。
号泣していたトグルを揶揄うと切りかかろうとするので、店の外に逃げる。
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