第317話 親子関係!

 ベリーズを訪れた翌日、『ブライダル・リーフ』でシロに手伝いをして貰いながら、マリーの様子を監視して貰う。

 俺は、従業員に対して仕事の不満等が無いかをひとりずつ面談するとして、マリーに変わった事が無いかを遠回しに聞いてみると、リベラが店の外で、中年の男性に金貨を渡していたり、口論している様子を何度か見たそうだ。

 心配だったが、マリーには聞く事が出来ないと話す。ここ最近は、マリーに元気が無い事も気にしていた。

 マリーに教えてもらいながら店の帳簿を付けているリベラに、店の帳簿で不自然な点は無いかと確認するが、特に無いと返答する。

 マリーの事だから、店の金貨に手を付ける事はしないだろうが確認は必要だった。

 フランもリベラ同様に、その状況を何度か目撃していてマリーに尋ねるが「昔の知り合い」と答えるだけなので、それ以上は聞く事はしていないそうだ。

 一度、マリーと別れた後にその男性を追ってみると、マリーが渡した金貨で昼間から酒を呑んでいたと話す。

 フランには危険だから、あまりそういう事はするなと注意をする。

 今後、そのような事があれば俺に連絡する事も伝えて、マリーを心配してくれた事に礼を言うと、恥ずかしそうにしていた。

 残すはマリーの面談のみだ。

 フランにマリーの手が空いていれば、呼んで来て貰うように頼む。

 数分後、マリーが部屋に入ってきた。


「どうしたのよ。突然、従業員と面談なんて」

「一応、従業員の不満が無いかを確認するのも仕事だからな」


 マリーは痩せたというよりも、やつれた感じだ。


「少し、痩せたか?」

「……少しね」

「問題でもあるのか?」

「大丈夫よ。リベラも順調に仕事を覚えてくれてるし、問題はフランを商人ギルドに合格させる事くらいかしらね」


 俺が王都に行っている間に、マリーは商人ギルドで試験を受けてランクGに合格している。

 時間を見て、ランクFの昇級試験を受けると話していた。

 筆記試験の実力的には、ランクBくらいはあると思う。

 但し、ランクD以上になると、指定された商品の調達が試験内容に加わる為、伝手が無いマリーには厳しい状況だろう。


「ロックスから、嫌がらせは受けなかったか?」

「いえ、四葉商会で働いている事と、タクトが王都に行っている事を伝えたら、怯えた表情をしていたわよ」


 ロックスが俺の居ない間に悪さをするとは考えていないが、念の為に確認をした。


「タクトが何をしたかは知らないけれど、商人ギルドのギルマスを、怯えさせるような酷い事をしたのだけは分かったわよ」

「俺は普通に試験を受けただけだ」

「タクトの普通は普通じゃない事くらい分かっているよ」


 少しだが、マリーに笑顔が戻った。


「まぁ、身体には気を付けろよ。それに心配事があれば、いつでも相談しろよ」

「ありがとう」


 マリーは笑顔で部屋から出て行った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 二日後、フランから相談があると連絡を受けた。

 内容は、マリーが会っていた男性が、マリーの父親だったと打ち明けられる。


「マリーから聞いたのか?」

「さっき、そこの店で食事をしていたら、近くの席に居た女の子に声を掛けていたのよ。女の子達も嫌がっていたけど『ブライダル・リーフ』の店主の父親だと大声で言っていたのを聞いたの」

「マリーには話したのか?」

「まだよ。その前にタクトに相談した方が良いと思ったから」

「そうか、ありがとうな。あとは俺に任せろ」

「嫌よ。私だってマリーが心配なんだから」


 珍しくフランが自分の意思を明確に表した。それだけ気になっていたという事なのだろう。

 フランと戻る前に、シロとクロからも情報を収集する。


 シロとクロの報告では、昨日もマリーに金貨を貰いに来ていたそうだ。

 昼夜問わずに呑み屋をハシゴしていた。

 マリーは仕事が終わると、食事をそれ程取らずに自分の部屋に閉じこもって朝まで出てこないそうだ。


「タクトは、本当の父親だと思う?」

「分らないが、マリーが金貨を渡す事を考えると、その可能性の方が高いかも知れないな」

「もしかしたら、父親なのは嘘で脅されているのかも知れないわよ」

「それなら、店などでわざわざ父親だと名乗らないだろう」

「……そうね」


 『ブライダル・リーフ』まで、遠く感じながら俺は、マリーに対してどう話を切り出せばいいのかを考えていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「どうしたのよ、ふたりして」


 呼び出されたマリーは、いつも通りの口調で話す。


「最近、マリーの父親だと言っている男が街に出没しているが、心当たりはあるか?」

「えっ!」


 マリーは驚くが、いつかは俺に知られると思っていたのか、少し時間をおいて話始めた。


 その男性は、間違いなく自分の父親だという事。

 数週間前に、店から出てくるマリーを待ち伏せして再会をする。

 新聞で『ブライダル・リーフ』の店主をしている事を知り、他の街からジークまで来たそうだ。

 母親もマリー同様に奴隷商人に渡した後に、行方が分からなかったが奴隷商人と再会した際に、売って間もなく亡くなったと文句を言われたと聞いたらしい。

 父親は、もう一度事業を立ち上げる為に、少しでいいので協力して欲しいと言って、マリーから金貨を持っていく。

 その後も、不審に思いながらも父親の頼みを無下に断る訳にもいかないので、言われるまま金貨を渡していた。


「マリーは、どう思っているんだ?」


 マリーの気持ちを確かめる。


「分からないわ。ただ、お父さんが事業を立ち上げるのであれば、娘として協力するつもりよ」

「マリーは、騙されている」


 フランは怒っている様子だ。


「どうして、フランにそんな事が分かるのよ」


 父親を侮辱されたと思ったのか、フランに向かい反論をする。


「だって、マリーが店主だから、いくらでも指輪やら服でもなんでもあげるって、女の子達に言っているのよ」

「嘘! お父さんは、取引してもらう為に一生懸命頑張っている筈よ!」


 面と向かって、父親を否定された事でマリーも興奮している。


「まぁ、落ち着け」


 ふたりを一旦、座らせる。


「マリーは、本当の事が知りたいのか? それとも、このままでいいのか?」


 マリーは考えが纏まらないのか、無言だ。


「マリーの父親という前に、関係のない奴に『ブライダル・リーフ』の評判を落とすような事をされているのは分かるよな」

「……えぇ、フランの話が本当ならそうなるわね」


 フランが何か言おうとするのを、俺は止める。


「今晩、俺に付き合ってくれ。逃げていても結論は出ないから、真実を確かめるとしよう」


 マリーは小さく頷いた。

 フランとは険悪な感じだが、仕方ない。

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