第309話 事実確認!

 衝撃の事実を聞かされた三獣士は、事実として受け止めれないでいる。


「タクト殿が、それ程の実力者だったとは……」


 ロキサーニは考えが纏まらないでいるようだ。


「ロキサーニ、タクト殿は強い。その事実だけを受け入れろ。いずれは俺達の上に立つ者かも知れない」


 悩んでいるロキサーニに、師匠であるロキが言葉を掛ける。


「師匠、どういうことですか?」

「タクト殿は、ユキノ様の婚約者だ!」


 一同、驚く。俺が一番驚いている。いつの間にユキノの婚約者になったのだ?

 唯一、ユキノだけが喜んでいた。


「おい、いつの間にユキノの婚約者になったんだ?」

「違うのか?」

「違う」


 俺が否定すると同時に、ルーカスが発言した。


「ロキよ。お主の勘違いだ。今は、まだ婚約者ではない」

「おい! 今は、って何だよ」

「言葉の通りだ」


 ルーカスは、ニヤけながら答える。

 ユキノは一層、嬉しそうにしていた。


「前も言ったが俺は、王族にも貴族にもなる気は無いからな!」


 改めて宣言をすると、ユキノは残念そうに下を向いている。

 ロキに睨まれているのは分かったが、視線を合わせないようにする。


「それとセルテートは、タクトに礼を言わねばならんぞ」


 ダウザーがセルテートに向かって話す。


「ルンデンブルク卿、どういう事ですか?」

「お前の妹リンカが奴隷になったところを救ったのが、タクトだ」

「なんですと!」


 妹のリンカ? ってことはルーノとも兄弟と言う事か。

 失礼な態度なのは、狼人族でなく血筋と言う事だと思うと、納得出来た。

 風貌や冒険者の実力からして、ルーノの弟とは考えにくい。


「ルーノとリンカの兄貴なのか。たしかに礼儀知らずなところは、ルーノにそっくりだな」


 思ったことを、そのまま口にするとダウザーが大きな声で笑う。


「確かにお前達兄弟は、礼儀知らずだよな」

「……そんな事はありません」

「まぁ、それ以上なのがタクトだけどな」


 俺は【呪詛】で丁寧語が話せないのと、この世界の常識が分からないだけで、それなりに礼儀作法は知っているつもりだ。


「そんな事言っていると、俺にも考えがあるからな」

「冗談に決まっているだろう」


 冗談でない事くらい俺にも分かる。


「ルンデンブルク卿は、タクト殿と話される時は口調が違いますが……」


 ロキサーニが、ダウザーに質問をする。


「それはタクトには、ルンデンブルク家と友として接するように頼んでいるからだ」

「そうです。タクト殿とは友人として接している為、上下関係は御座いません」


 ダウザーとミラが、ふたりして答えた。

 ロキサーニ達三獣士は、再び信じられない様子だった。

 セルテートが俺のほうを向き、リンカの件で礼を言われる。

 一応、リンカを叱らないようにだけ頼むと、「分かった」と了解してくれた。


「事前に情報を得ていれば、戦い方を変えていたのですがね」


 ロキサーニが悔しそうに話すので、「何故、俺を倒そうとしているのか?」と聞くと、思いもよらぬ答えが返ってきた。

 ルーカスより全力で倒すように命令を受けたそうだ。

 ルーカスにその事を問いただすと、俺の実力を確認する為に仕方ないと理由を説明した。

 立場的には分からない事もないが、何か騙されていた気分だ。


「遠くから、タクト殿を観察したりして戦略を練っていたんですがね」

「観察していた?」

「えぇ、一度見つかりそうになりましたが……」

「もしかして、コスカといた時の殺気がそうか?」

「はい、気付くかを試してみたら、スグに反応したので焦りましたよ」

「殺気には敏感だからな」

「殺気を出したのも、ほんの一瞬でしたのに、こちらを見たので思わず隠れてしまいました」


 殺気の相手がロキサーニだと分かり、少し安心した。

 もし俺でなく、一緒にいたライラを狙っていた可能性もあったからだ。


「ところでタクト殿の職業は、私と同じ魔法剣士なのですか?」

「……いや、無職だ」

「……無職?」

「あぁ、無職だ」


 ロキサーニは納得出来ていないようだが、ターセルが「間違いなく無職です」と無職のお墨付きを貰うと、腑に落ちていない様子だが、とりあえず納得したようだ。


「無職だから何も出来ないのではなく、タクト殿の場合は無職だから何でも出来るのでしょう」


 ターセルが、逆転の発想で無理やり良い事を言ってくれた。

 確かにその通りだと思った。

 考え方を変えるだけで人生が変わると、前世でそんな言葉を聞いた事がある。


「タクト様は、神が職業なんですよ」


 ユキノが横から口を挟んできた。

 相変わらず意味不明な事を言っている。

 ターセル達は、言葉を返せず困って俺のほうを見ている。

 俺だって、呆れて何も言えない。


「ユキノ、タクトの職業は神で無く魔王だぞ!」


 ルーカスが、ここぞとばかりに冗談を言うが、神やら魔王は職業でなく称号になる。

 さっきよりも、どうしていいのか分からない空気が漂っている。

 ターセルが、俺が思っていた事と同じ事を、冷静な口調でルーカスに説明していた。

 ターセルからの説明を聞いている、ルーカスの恥ずかしそうな姿を見ていると滑稽だった。

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