第291話 予感的中!

(久しぶりね、タクト)


 エリーヌに連絡を取る。


(おぉ、寂しいかと思ってな)

(そうね、タクトは王女様のお気に入りみたいだから、寂しくは無いでしょうけどね)


 揶揄かうような口調だ。


(エリーヌの【呪詛】のおかげでな!)


 嫌味で返すと、エリーヌは苦笑いをする。


(俺の活動はどうなんだ? 順調といっていいのか?)

(そうね、タクトは良くやってくれていると思うわよ)

(今迄通り、俺は自由に行動して問題ないということでいいんだよな?)


 エリーヌは、笑いながら頷く。


(それで、仕事はちゃんとやっているのか?)

(……失礼ね。ちゃんとやっているわよ)

(モクレン様には叱られていないのか?)


 エリーヌは、目線を逸らして黙ったままだ。

 サボっているのを見つかって、叱られているのだろう。


(私だって、少しは成長しているんだからね)

(……本当か?)

(本当よ!)


 どうしても信じられない。あのエリーヌが、短期間で真面目に働いているなんて考えられない。

 真面目に働くには、なにかしら裏があるのだろう。


(真面目に働く理由は何だ?)

(そ、そんなの神であれば当たり前の事でしょう)


 その当たり前のことを、今迄していなかっただろうが……。


(本当に、なんで真面目に働くんだ? エリーヌが真面目に働くなんて厄災が起こる前兆に近いからな)

(ひどいわね。私だって、真面目なときくらいあるんだからね)

(……明らかに怪しすぎる。話したくないなら、モクレン様に聞くからいいけどな)

(えっ! いや、あのね……モクレン様や上級様達との面談が近いから)


 俺の知っている人事面談みたいなものか?

 それなら、良い印象を与えておきたい気持ちも良く分かるが、日頃の態度を査定するはずだから、間近だから真面目に働いても駄目な気はするが……。

 その事実を伝えると又、仕事をサボる気がするので余計な事は言わない事にした。


(何か情報でもないか?)

(特に無いわよ。あっても言えないわ。前回、魔王の事をタクトに話したことで、私が怒られたんだからね!)

(そうか、それは悪かったな)


 無理やり情報を聞いた手前、素直に謝っておく。


(ところで、俺の【呪詛】を解除出来る方法は探しているんだろうな?)

(……他にやる事が多くて。一応、考えている事は考えているよ)


 ……一応ね。今の反応だと、絶対に考えていないだろうな。

 まぁ、思い出せるなら既に思い出している筈だし、思い出す気が無いんだろう。

 エリーヌに期待した俺が馬鹿だったと諦める。


(あっ、そういえばモクレン様がタクトに用事があるって言っていたので、ちょっと待っててね)


 モクレンが俺に用事? 何か大事な事でもあるのか?


(タクト、久しぶりですね。順調に布教活動もして貰っているようで感心ですね)

(一応、転移した目的ですからね。それで用事と言うのは?)

(……実は大変言いづらいのですが、タクトは転移後に欲情した事はありますか?)

(はぁ?)


 何を突然言っているんだ?

 しかし、転移してから確かに性欲というのを感じた事はない。

 ユキノの胸も爆乳だと思うくらいで、それ以上どうこうといった感情は無い。


(言われて見れば確かに無いですね。もしかして、原因を知っているのですか?)

(はい、タクトにはショックなことかも知れません)


 モクレンの話だと、俺は『性欲』が無くなった状態らしい。

 その事に気が付いたのは、エリーヌからの報告書で、四葉商会での女性との共同生活や、ユキノの存在があるにも関わらず、そういった行為や気持ちが無かった事だ。

 俺の性格も多少は影響あるらしいが『性欲』が無い事により『恋』や『愛』等の自分との繋がりに対しても、同じように感じなくなっているそうだ。


(布教活動する上で、愛を感じないというのは致命的ではありませんか?)

(……確かにそうですが、見返りを求めない事こそ、本当の愛とも言えるので、別に感じなくても問題ありません)

(……そんなものですか?)

(はい、愛が無くても非人道的な行いであれば、タクトは怒りの感情を持つでしょう?)


 確かに、今迄もそのような場面は何回かあった。

 モクレンのいう愛と言うのは、俺との繋がりの事だから、俺と特定の個人との間でと言う事なのだろう。

 決して、俺が恋愛経験が乏しいのが原因ではないと、分かっただけでも救いだった。


(それで、その原因はエリーヌなんです)

(えっ!)


 俺より先にエリーヌが驚く。

 【呪詛:服装感性の負評価】の時にエリーヌが「たとえ四葉マークの服が理解されなくて変な目で見られても、純潔な体と素晴らしい衣装なので、逆境に晒されても頑張るように!」と、祈った。

 純潔な身体つまり、異性との営みが出来ないように【呪詛】を掛けたそうだ。

 俺がその意味を理解すると【呪詛:色欲無効】が発動した。

 つまり、こちらの世界でも俺の童貞は確定した。


(どうして、【呪詛】が発動する前に分かったのですか?)


 モクレンに、事前に【呪詛】が分かった理由を質問する。

 発見したのは、モクレンでなく上級神である『アデム』が気付いたそうだ。

 一応、転移者の遺伝子を残す事も考えていた為、他の【呪詛】よりも深刻な問題とされているそうだ。

 エリーヌは、真っ青な顔で俺とモクレンの話を聞いている。

 ここ最近、真面目に仕事に取り組んでいたのが、帳消しになるくらいの失態だ。


(特例だけど、アデム様が【呪詛】解明にも取り組むと言ってくれているので、安心して良いと思うわよ)

(ついでに他の【呪詛】も解明して貰えませんかね?)

(それは難しいわね。只、【呪詛:服装感性の負評価】も同じ解除方法の可能性はあるから、少しは期待していいんじゃないかしら)

(そうですか、アデム様に宜しく御伝え下さい)


 モクレンは笑顔で頷いた。その横でエリーヌは、この世の終わりかのような顔をしている。

 俺はエリーヌのせいで、またひとつ【呪詛】が増えた……。

 ある意味、エリーヌが真面目に働いた事による厄災の前兆は、間違いでも無かったのかも知れない。

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