第290話 遠慮!
「久しぶりだな!」
リロイの屋敷の門番が俺に話し掛けてきた。
「久しぶり! 入っていいよな?」
「お前の顔は覚えているから、大丈夫だ。そちらのお嬢さんも、どこかで見た気がするんだが……」
「ナンパなら、他所でしろよ」
「違うわ!」
門番を揶揄って、中に入る。
ナンパと言う言葉が通じるとは思っていなかったが、この世界でもナンパという行為があるので【言語解読】で変換してくれたのだろう。
門番から連絡があったのか、入口の前でマイクが待っていた。
「タクト様、お久しぶりです」
「マイクも元気そうだな」
執事のマイクと挨拶を交わす。
「後ろの御嬢様は?」
「ユキノと申します」
「ユキノ様ですね、承知致しました。私はリロイ様の執事でマイクと申します。以後、お見知りおきを」
マイクは丁寧な挨拶をユキノにする。
「リロイ様がお待ちかねです」
リロイの部屋まで案内される。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
マイクが扉を叩いて俺が来たことを伝えると、入るよう返事があったのか扉を開けてくれた。
部屋の奥から、リロイがこちらに歩いてきた。後ろには一緒にニーナも居た。
「ふたり共元気そうだな」
「はい、お陰様で。後ろの女性は……」
リロイとニーナは不思議そうにユキノを見ていた。
「初めまして、ユキノと申します」
いつも通り、名前しか名乗らない。
「……もしかして、ユキノ様ですか?」
流石にリロイは気付いたようだ。
「あぁ、リロイが今思った通り、第一王女のユキノだ」
リロイとニーナの顔から笑顔が消えた。
「まぁ、気にしなくていいぞ。俺に着いてきただけだから、余計な気を使う必要は無い」
「しかしタクト、そういう訳にはいかないですよ」
「タクト様の言う通り、御構い無く」
笑顔でふたりに話し掛ける。
「ニーナも領主夫人が、板についてきたじゃないか」
「お陰様でね。前回のミラ様達といい、タクトが連れて来る御客様は大物ばかりで驚くわよ」
「そうか、悪かったな」
ニーナに皮肉を言うが、逆に皮肉を言い返された。
「ニーナ。私はタクトと話があるので、ユキノ様の御相手を御願いします」
リロイがニーナに、ユキノの相手をするように頼んでいたので、俺もユキノに頼んでおく。
「ユキノ。ニーナと少しだけ話をしていてくれるか?」
「はい、タクト様」
ニーナとユキノは、部屋の椅子に座り話を始めた。
俺とリロイは窓辺に移動する。
リロイからは、両親の件で礼を言われた。
偽勇者の末裔貴族を始末した後すぐにリロイの元を訪れて「お前達は絶対に守るの~!」と言っていたそうだ。
「孤児院の件、無理言って悪かったな」
「私の方こそ気付かずに、すいませんでした」
「俺も偶然知っただけだ。建てる前に気付けたと考えれば、良かったと言うわけだ」
「そうですね。しかし、タクトといると本当に自分が無力に感じますね」
「そんな事無いだろう。リロイは十分立派にやっていると思うぞ。もう少し、自分に自信を持ったらどうだ?」
「そうですね、ダウザー様からも同じ様な事を言われましたが、なかなか難しいですね」
「失敗しない奴なんて居ないからな」
扉を叩く音がして、マイクが飲み物を持ってきてくれた。
マイクにも残って貰い、話し相手になって貰う。
リロイはもう少し休んだ方が良いとマイクにも言われて、リロイは気まずそうだ。
「リロイが倒れたら、このジークに暮らす人々にも影響があるんだからな」
「……そうですね。面と向かって叱ってくれるのは、タクトくらいしか居ないので、これからも間違った事があれば遠慮せずに言ってくださいね」
「分かった。只、心配しているのはマイクも、そこのニーナも同じだからな」
「……はい」
「マイクも遠慮せずに、きちんと言ってやれよ!」
「はい、以後気を付けます」
「ふたり共、頼んだぞ」
笑い声が聞こえるので、ユキノとニーナの方を見るが、楽しそうな姿なので会話が弾んでいるようだ。
「他に困ったこととかは無いか?」
リロイに話しのついでで聞いてみるが「大丈夫」と答えるので、それ以上は何も聞かなかった。
俺達は、ユキノとニーナの所に行くと、ユキノが目を輝かせている。
「タクト様が、リロイ殿とニーナ殿の仲を取り持ったと御聞き致しました! 流石は、タクト様ですね」
「それは、たまたま結果がそうなっただけだ」
「私もニーナも、タクトには感謝しております。 タクトの影響で、タクトが信仰するエリーヌ様を、私達も信仰しています」
「そうなのですか、私もタクト様の信仰するエリーヌ様を同様に信仰しています」
……そういえば、俺のこの世界の役割を忘れていたな。
俺の知らない所で、エリーヌが神として認知されるのであれば、それはそれで俺の手間が省けるのでいい事だ。
しかし、エリーヌから音沙汰が無いのは、少し寂しい気分になっている事に気が付く。
久しぶりに、エリーヌへ連絡をしようと思う。
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