第264話 ゴンド村への視察!

「これが転移魔法か……本当に一瞬だな!」


 ルーカスは感動している。 その横でユキノは「やはり、タクト様は神です!」と相変わらず訳の分からない事を言っていた。


 すぐ後に、アルとネロ達も【転移】してきた。


「ここから、数十メートル程歩くと村の入口だ」


 そう言って歩き始めるが、案の定、ルーカス達家族は歩きづらそうだ。

 こんな整備もされていない所を、歩くような服装では無いので仕方ない。


 この位置からでもドラゴンが村にいるのが分かる。

 たまたまなのか、アルが呼んだのかは分らないがグランニールも村にいた。

 俺達を発見すると、わざわざ出迎えに来てくれた。

 着陸と同時に、大きな砂煙が立つ。

 ルーカス達は驚きを隠せずに、その場で呆然とする。


「おぉ、グランニール出迎え御苦労じゃ!」


 アルは当たり前のように会話をする。

 俺も手を挙げると顔を下げてくれたので、顔を撫でながら礼を言う


「今、グランニールと言ったが、ドラゴン族最強と言われるグランニールか!」


 ダウザーは、子供のように興奮しながら質問をしてくる。


「そうだ、グランニール達がゴンド村を守ってくれているドラゴンだ」


 冒険者だったダウザーと護衛三人衆のみが辛うじて、会話が出来る状態のようだ。

 まぁ、いきなり目の前にドラゴンが現れば仕方ないだろう。


 ……そうだ、グランニールに乗って空から村を見て貰えば、より分かりやすいな。

 ルーカス達も歩きづらそうだしな。


 【念話】を使い、グランニールに全員背中に乗せて、村の周りを一周してくれと頼むと、快く了承してくれた。


「今から、グランニールに乗って空から村を見て貰う。 アルとネロは先にグランニールの背に乗ってくれ」

「分かったのじゃ!」

「分かったの~!」


 アルとネロは、軽く飛び跳ねてグランニールの背に乗る。


「それじゃあ、国王達から先に乗せるぞ」


【転送】を使い、安全を考慮して、ひとりづつグランニールの背に移動させる。

アル達が落ちないようにサポートしてくれている。


 最後に、ミクルを抱きかかえて、グランニールの背に乗る。


「【結界】を張るから、落ちる事は無いがあまり暴れるなよ」


 誰も言葉を発せずに頷くだけだった。

 グランニールに一応、安全に空を飛ぶように頼むと翼を広げて飛び立った。


 少し高めに飛んでくれたのか、防衛都市ジークや、ダウザーの魔法都市ルンデンブルクも目視で確認出来る。

 王都は辛うじて分かるくらい小さく見えている。


「まさか、自分の領地を上から見る事が出来るなんて……」


 ダウザーは感動しながら、ルンデンブルク領を見ている。

 皆、それぞれ空からの景色を楽しんでいた。

 ヤヨイのみ震えて決して下を見ようとしない。 高所恐怖症なのだろう。

 ヤヨイだけ降ろそうかとも考えたが、震えるヤヨイを抱えるようにして守っているソディックを見ていると、もう少しこのままでも良いかと思ってしまった。


 数分間の空の旅を終えて、グランニールがゴンド村に着地する。


「タクトよ! 楽しかったぞ!」


 ルーカスは国王という事を忘れて、楽しんでいたようだ。

 グランニールの背中から、村を見ていると数人がこちらに走って来た。 ゾリアス達だった。

 その後ろから、数人の村人もこちらに向かって来ている。


「先に降りているから、少し待っててくれ」


 皆をそのままにして、俺だけ先に降りた。


「タクトか! 何かあったのか?」


 急に、グランニールが飛び出したと思ったら、村の上空を回転しながら飛び始めたので、何事かと心配していたそうだ。


「いや、ちょっと村を見たいという客人を連れて来た」

「……客人?」


 続々と村人も集まって来た。

 俺の姿を見ると「おかえりなさい」と言ってくれる村人もいる。

 感覚的に地元に戻ってきた感じだ。

 丁度、村長も到着して同じように「何事ですか?」と聞いてくるので、ゾリアスと同じ回答をする。


「少しばかり偉い奴だが、あまり気にするなよ」


 一応、驚かないように気づかいはしてみる。


 【転送】で全員をグランニールの足元に移動させる。

 突然、目の前に人が現れたので、驚く村人達。

 ゾリアスは、すぐにルーカス達に気付くと、跪き顔を下に向けたまま、動かずにいる。

 この行動を真似するかのように、村人達が次々と跪く。


「おいおい、そんなことしなくていいぞ」

「それは、余が言うべき台詞だろう」


 ルーカスは俺が勝手に言った事に不満の様子だ。

 しかし、この中で国王と認識しているのは、ゾリアスやスラムに居た数人くらいだ。


 簡単に自己紹介をしていくと、目の前の人物が国王、そしてその一族だと知ると、映画や時代劇で見たように額を地面に着けている。


「国王に会ったら、額を地面につける法律でもあるのか?」

「そんなもの無いに決まっておろう!」

「そうか。 皆、顔を上げていいぞ」

「……その台詞も余が言うべき台詞だろう」


 村人達は顔を上げるが、ゾリアスはそのまま顔を上げずにいた。

 それに気付いたルーカスは、ゾリアスの所まで行く。


「ゾリアス、息災か?」

「……はい」

「そうか、安心したぞ。 ゾリアスが冤罪だという事を、タクトが立証してくれた。 顔を上げてくれ」


 ルーカスの言葉に従うように、ゾリアスは顔を上げた。


「冤罪で辛い思いをさせてしまった事、国王として謝罪する。 すまなかった」


 ルーカスは、ゾリアスに向かい頭を下げる。


「国王様、頭を御上げ下さい」


 ゾリアスは、慌てふためく。

 ルーカスは頭を上げると、ゾリアスに向かい『無罪』である事と、『王都追放』を無効にすると伝えた。


 ゾリアスの目から頬に涙が伝う。


「良かったな、ゾリアス」


 ルーカスの後ろから声を掛ける。


「タクトのおかげだ。 感謝する」

「気にするな。 悪者を成敗しただけだ」


 その後、移動する事もなくその場で、村長とゾリアス達から、今のゴンド村の状況を報告してもらった。

 村長に関しては、緊張して上手く言葉が喋れていなかった。

 ドラゴンにラミア族や、コボルトにハーピー、そして半魔人と普通なら決して、人族と交流が無いであろう種族がひとつの村で生活をしている。

 ルーカス達は、信じられない様子だった。


 ゾリアスが案内役となり、村を案内してくる。

 コボルトによって耕された畑を見ては感心して、村人達で建てた神祠やエリーヌとリラの像で感動していた。


「全て、タクトさんのお陰です。 本当に感謝しています」

「この村は、タクトさんの村ですから」


 村長や村人達は、何度もルーカス達に話していた。

 聞いていた周りの村人達も、その度に頷いていた。


 その度に、ユキノが輝いた目で俺を見つめていた。


「お前、本当に凄いな!」


 ダウザーが俺の横に来て話し掛けてきた。


「まぁ、なりゆきだ」

「いやいや、なりゆきでこんな凄い村は出来ん。 治安も良く、村自体も活気に満ちている。 食料不足等の問題も無い感じだ。 ある意味、理想の村だぞ!」

「そうか? それは、村長やゾリアスに村人達が、良い村にしようと思っていてくれるからだろう」

「それはそうだが……」

「俺は、何もしていない。 村の問題等を解決していったらこうなっただけだ。 全部、村人達の努力のおかげだ」

「お前は、謙虚だな」

「そうか? 俺は傲慢だぞ!」


 そう答えると、ふたりして小さく笑った。

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