第256話 魔王誕生!


 オークロードが死に絶えたのが分かると、林の入口で様子を見ていたオーク達も一斉に逃げて行った。

 【風弓】で何匹かを倒したが、深追いはしない。

 周囲にいた他の魔物達も、攻撃はしてこないがこちらの様子を伺っている。


 シロにシキブの様子を聞くが、傷付いた身体は回復していた。

 俺の身体には、まだ酸が残っているので、少し離れた場所から会話をする。


「本当に、ひとりで倒すとはね。身体もそうだけど、タクトは本当に人間族なの?」

「おぉ、そうだな! 人間族ではなく、タクトはバケモノだ」


 シキブとムラサキは、元気よく話始めた。

 軽口を叩ける元気があれば、問題無いな。


 一応、【神眼】でオークロードの魔力の流れを確認するが、既に魔力は残っていなかった。

 そのまま、目線を移す。


「パク! 今迄、監視していたお前なら分かると思うが、オークロードに間違いないか、こっちに来て確認をしてくれ!」

「……分かった」


 パクが、恐る恐るオークロードの傍まで確認に来た。

 他の連中には、下がるように指示をする。


 俺はパクに向けて、【火球】を放つ。


「タクト! 貴方何をしているの」


 シキブは俺が気が狂ったのかと思ったのだろう。

 ムラサキ達も戦闘態勢に入った。

 俺は、お構いなしでパクに向かって、話始める。


「いつすり替わった。それとも最初からか?」

「タクト殿、何を言っているんですか……」


 シキブ達が俺を止めようとするが、シロとクロがそれをさせないようにしてくれた。

 【火球】をパクに向けて撃つ構えをする。

 

 シキブが【神速】でシロ達の間をすり抜けて、俺を背中から攻撃してきた。

 ナックルについている酸で溶けた爪が、俺の膵臓辺りに食い込む。 が、その前に【火球】をパクに向けて放った。


 パクに直撃したが、倒れる事も無く、その場で笑い始めた。


「流石ですね! まさか気付かれるとは、思いませんでしたよ。いつ気付きましたか?」

「さっき、お前を見た時だ。人族ではありえない程の、大きい魔力を感じたからな」


 【神眼】でオークロードの死亡確認の際に、偶然だがパクを見て気が付いた。


「……なるほど。隠していましたが、貴方とオークロードの戦いぶりを見て、興奮してしまったようですね」


 そう言うとパクは姿を変えて、黒き魔人の姿に変わった。


「……お前、何者だ!」

「ふふふっ! ガルプワンの主だけあって、優秀なのは認めてあげましょう」


 クロのガルプワンという名を知っている?


「お前、ガルプツーか?」


 クロが、何かに気付いたようだ。


「そうだ、ガルプツーだ。久しいな、ガルプワン」

「何故、このような事をしている!」

「何故? 可笑しなことを聞くな。決まっているだろう、人族を滅ぼすためだよ」


 人族を滅ぼすだと!

 ガルプの最後の嫌がらせか?


「お前は『蓬莱の樹海』で、静かに暮らすと言っていたではないか」

「あぁそうだ。 静かに暮らしていたが、その静かな生活を人族が奪った!」


 『蓬莱の樹海』の管理者であるオリヴィアから、聞いた事だな。


「それは、ダークエルフの事か?」

「……そこまで、知っているとはな!」

 

 ガルプツーは、驚きながらも怒りに満ちた口調で話す。

 クロが何か言おうとした瞬間に、周囲にいた魔物達が一斉に騒ぎ始めた。

 ソディック達も、警戒を強める。


「ハハハッ、成程そういう事か! 当初の目的とは違うが、魔王が誕生したから結果としては、目的達成だ!」

「魔王が誕生しただと!」


 オークロードは倒した。 魔王が誕生する筈がない。

 他の場所で、オークロードではない魔王が誕生したという事か!


「何を言っている。タクト、お前が『魔王』だ!」


 ガルプツーが発したこの言葉は、その場にいた皆に衝撃を与えた。

 ステータスを確認してみると確かに、『第四柱魔王』の称号が、追加されている!


「何故、人間族の俺が魔王なんだ!」

「簡単な事だ! 魔族や人族から恐怖や尊敬の念が増えて大きくなれば、種族なんて関係ない」

「……恐怖や、尊敬だと!」

「お前は、既に魔王ふたりを倒して、ゴブリンロードにオークロード討伐といった、魔王になりうる素質があったという事だ」


 ……魔王イコール魔族だと、勝手に思い込んでいた。

 エリーヌが予言していた魔王出現は、俺の事だったのか!

 それよりも、アルやネロを倒したと魔族達の間で広まったことが、『魔王』になった一番の原因じゃないか?


「タクトよ! 人間族いや、人族初の魔王就任おめでとう」

「うるせぇ!」

「これ以上、ここに居る意味も無いので立ち去るとするが、又どこかで会う時は、お手柔らかに頼みますよ、魔王様」


 そう言うと、ガルプツーは影に入り込み消えていった。

 クロは何か言いたそうだったが言えずにいた様子だ。

 それよりも……。


「シキブ、これ抜いて貰ってもいいか?」


 背中に刺さったままの爪を、指差す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る