第196話 親子愛!

 待機していた部屋で、二〇分程待っている間にミクルと連絡を取る。

 領主と会ったら、ミクルを連れてくるつもりだと伝える。

 ミクルは「分かった。 待っている」と返事をした。



「お待たせ致しました」


 用意が出来たのか、執事が領主の部屋まで案内をしてくれる。

 部屋の前まで来ると、立ち止まり振り返る。


 「私は、此処までですので」


 そう言って、一礼をして案内を終えた。

 扉を叩き、返事が返ってきた事を確認してから、扉を開けて部屋に入る。


 領主と夫人が、落ち着きない様子で立っていた。

 右手を前に出して、【念話】で「暫く待つように」と話す。

 【オートスキル】から【魔法反射(二倍)】を外して、部屋に【結界】を張る。

 会話が外に漏れない事と、外から部屋が覗けないようにした。


「これで会話は漏れないし、外からも覗かれることは無いから大丈夫だ!」


 言い終わると同時に領主は、


「ミクルは無事なのか?」


 俺の両肩を揺さぶり聞いてきた。

 余程心配なのだろう。


「今から、連れてくる」

「今から連れてくるだと!」

「あぁ、転移魔法を使う」

「転移魔法だと!」


 領主は驚いていた。

 本当なら、隠しておきたいが状況が状況の為、仕方ない。


 領主達の目の前で【転移】をして、ミクルを連れて部屋に戻った。

 時間にしたら、二~三分程度の出来事だろう。


 ミクルを見ると、領主達は駆け寄り抱きしめた。


 幸せの瞬間を邪魔しても悪いので、暫くはこのまま声を掛けずにいる事にした。


 クロとシロには、周囲を警戒する様に指示しておく。


 領主夫人は涙を拭い、俺に頭を下げて、何度も礼を言われた。

 続けて、領主も同様に礼を言い、改めて自己紹介をされた。

 領主は『ダウザー』、領主夫人は『ミラ』と名乗った。


「ミクル、今迄の事を説明してくれ」

「うん」


 ミクルは、木の実を摘みに出た所から、今日までの事を話し始めた。

 

 貴族の娘として、小さいながらも気を張っていたのだろうか、安心したのか涙を流しながら話をしている。

 ダウザー達も、そんなミクルの話に、涙を流しながら聞いている。


 親子愛というやつか……



「タクトと言ったか、お主には到底返せない恩が出来たな。 改めて感謝する」

「別に良いけど、ミクルをさらう様に手引きした奴が、この屋敷内にいるのを見つけるのが先だ!」


 ダウザーも、そのことについては納得していた。

 しかし、方法が見つからない様子だ。


「まず、手紙を持って来た状況を詳しく聞きたい」


 怪しいのは、その手紙を持って来た奴だ。

 そいつは、『マークリム』と言う大臣で、見知らぬ者からその手紙を受け取ったと言っていた。

 

 ……大臣が、見ず知らずの奴から、そんな簡単に普通のしかも、見ず知らずの者から手紙を受け取るのか?

 マークリムが、最も怪しい人物なのは間違いない。

 他にも協力者がいるかも知れないから、慎重に事を進める必要がある。


 シロに入口を見張らせて、クロを影の中に待機する様に告げる。


「俺の仲間を呼ぶがいいか?」

「あぁ、構わない」


 承諾を貰ったので、クロを呼ぶと俺の影から姿を現した。

 案の定、ダウザー達は驚いている。


「お初にお目にかかります。 クロと申します」


 クロに人の姿に変わる様に言うと、更に驚いていた。


「俺達には、スキルの違いはあるが嘘が分かる。 試しに本当の事と嘘を交えながら話してみてくれ」


 ダウザーとミラは、俺への発言に対して、嘘と本当かを言い当てていくと、信じられない様子だった。


「信用出来るなら、これと同じ魔法でマークリムを尋問に掛けるがいいか?」

「お主達は信用に値する。 ミクルを、危険にさらした犯人は必ず探し出す」


 ミクルには隠れていて貰い、危害が無いように【結界】を掛けておく。


 ダウザーにはマークリムを、部屋に呼んで貰う。

 俺が絶対に犯人を見つけるから、それまでは何があっても手を出さないと約束させた。

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