第186話 狐人族の事情!

「本当に、すまなんだ!」


 ラウ爺は、俺に頭を下げた。

 やはり、原因はローラの説明にあった。


「ローラから連絡を貰って、一目散にこの街に来てみれば、変な恰好の奴とお嬢が一緒に居たので、てっきり無理矢理連れまわされていると、思ってしまっての~」


 変な恰好って……


「シキブとムラサキも、俺の服装は変だと思うか?」


 シキブは、無言で目線を逸らしている。


「おぅ、今迄見た事も無い変な格好だな」


 ムラサキは素直に感想を言ってくれた。

 俺から見ると、シキブの服とそう変わっていない気がするのだが……


「……やっぱり、そうなんだな」


 ポジティブに考えれば、宣伝効果が高いって事だ!

 前世でも奇抜な服装をした社長やらが、メディアに出て宣伝効果があった。


 ライラが、俺の袖を引っ張って、


「お兄ちゃん、カッコいいから大丈夫」


 優しいライラには、なんでも買ってあげたくなるな。

 親バカとは、こういう感じなのか?



「本題に戻ろうか、ライラをどうするつもりだ?」


 ライラは、俺の方に身体を寄せてきた。


「お嬢には、集落に戻って頂く」


 はっきりと宣言した。


「ライラは嫌がっているが、無理矢理連れて行くなら、拒否するぞ」

「無理矢理と言われれば、そうかも知れませんな……しかし、儀式がありますのでこちらとしても、どうしても譲れませんな」

「儀式?」

「はい、我々の集落では、狐人が三〇歳になると必ず受けなければならない儀式があります」


 ローラの方を見ると、黙って頷いた。


「その為に、ライラが集落に戻る必要がある訳か」

「左様で御座います」

「儀式後はどうするつもりだ?」

「……それは、私の一存では回答出来ませぬ」


 まぁ、次期頭首候補だからな。


「それなら、俺も同行する。 ただし俺は、ライラの意見に従うからな」


 言い終わるとライラを見て、頭を軽く叩く。


「それは構いません。 しかし、儀式は集落の者のみとなりますので、その点は御了承願います」

「分かった。 爺さん達は先に戻っていてくれ。 俺達はその儀式の前には集落には行く」

「必ず来て頂けると、捉えて宜しいですか?」

「あぁ、約束する」


 ラウ爺は、納得した様子だ。


「ところで、タクト殿」

「なんだ、まだあるのか?」

「一夜にして建物を消失させた件を、お聞きしたい」

「どうしてだ?」


 狐人族の集落は、他の場所に住んでいた分家から引っ越してきた者達がいたりと、人口が増加している。

 当然、住居を拡大する計画をしているが、思ったように進んでいない。

 そんな時に、四葉商会の記事を目にして相談したいと思っていたそうだ。


「それは、森を切り開くという事か?」

「左様です」

「むやみに森を切り開くと、森の管理者の怒りを買わないのか?」

「よくご存じですな、その通りです。 それも問題の一つです」

「その里はどこにあるんだ?」

「『蓬莱の樹海』になります」


 ……オリヴィアの森か。


「分かった。 その問題は俺が解決してやる」

「……出来るのですか?」

「あぁ、多分だがな」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 狐人族を帰して、訓練所からギルマスの部屋に移動して、休憩する。

 ローラは、自分の部屋に戻った。


「しかし、村人の服でも変だったのに、なんで今回も前の服以上に変な服にしたんだ?」


 ムラサキが、変だ変だと連発する。

 俺的には、街の住民や冒険者達を見ているが、さほど変わっているようには思えない。

 この感覚は、以前にも感じた事がある。


「ムラサキ、俺の服を一度着てくれないか?」

「着るのは構わんが、恥ずかしいから外には出んぞ。 それよりもサイズが違いすぎるだろう?」

「サイズは問題無い。 騙されたと思って着てみてくれ」


 上着を脱いで、ムラサキに渡す。

 半信半疑のムラサキが着ようとすると、ムラサキのサイズの上着が伸縮する。


「……なんだこれは!」


 ムラサキは身体を動かしたりして、服を確認している。


「この上着、重みを感じないというか、着ている感覚が無いな」


 不思議そうに喋るムラサキに対してシキブが、


「タクトが着ていると、物凄く変だけど、ムラサキが着ると物凄くカッコいいわね? なんでかしら?」

「そうだよな、俺も着てみると案外気に入ったんだが、タクトが着ていると変なんだよな……」


 ……このパターンは、絶対にそうだよな。

 思った通り、頭の中で音がなる。


 【呪詛:服装感性の負評価】が発動した。


 ……エリーヌ、今度は何をやらかしたんだよ!



「それよりタクト、この服って私でも着れるの?」

「あぁ、着れるぞ。 着たいのか?」

「えぇ」


 ムラサキから上着を貰って、上着を脱いで俺の服を着ると、その着心地に驚いていた。

 今迄の服が嘘のように、動きに制限が無いと感動している。


「これ、どこで手に入れたのよ!」


 シキブが、真剣な顔をして聞いてくる。


「それは、企業秘密だ」

「あっ、ズルい! そういう時だけ商人になるんだ!」

「そらそうだろ、これ四葉商会の独占技術だからな」

「それなら、四葉商会で購入できるって事なの?」

「まだ、販売する気はない。 四葉商会関係者のみ着用を許しているだけだ」

「ふーん、そうなんだ。 私には作ってくれないんだ」

「いつから、そんな我儘キャラになったんだ!」

「だって、この服本当に凄いのよ! 欲しいの~」


 ギルドメンバーには、見せられない姿だな。


「お兄ちゃん、私も欲しいな……」


 ライラが、おねだりしてきたので、


「あぁ、今度作ろうな」


 唯一、俺の服装を「変だ!」と言わなかった優しいライラと、約束をする。

 すると、シキブが甘えた声で、


「お兄ちゃん、シキブも欲しいな~」

「シキブ、全然可愛くないから」

「ん、もう!」


 完全に、駄々っ子だ。

 俺としても、シキブ達には作ってやりたいが、まだそこまでの対応が出来ない。

 クララ達とも信頼関係がやっと築けた段階で、一気に生産量を増やすことのリスクが大きすぎる。

 納期の調整や、クララ達の同意も必要になるしな……


「ちゃんと、販売する時になったら、最初に知らせるからそれで勘弁してくれ」


 シキブは納得出来ていないようで、膨れ面のままだ……

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