第171話 納品と問題!

「これで、いいか?」


 トブレに、依頼の品を見せる。


「おぉ~! 流石だなタクト!」

「いや、遅くなってすまない」

「何言っている。 遅くても簡単に手に入る素材じゃないんだ!」


 トブレは、目を輝かして素材を触っている。


「出来る限り早く残りの素材も揃えるから、待っててくれ」

「期待して待っているぞ!」


 楽しそうに工房へ素材を運んでいる。

 俺も手伝って、素材を運ぶ。


「まさか、クラウドスパイダーの糸が手に入るとは!」

「そんなに貴重なのか?」

「当たり前だろう! 何処に生息しているか不明なんだから!」

「そうなのか」

「あぁ、たまに地上で死体が発見されるだけだから、数が少ないんだ」

「……なんなら、あと五つあるぞ」

「なんだと!」


 トブレから依頼された数量のも渡しただけで、残りは【アイテムボックス】に仕舞ってあった。

 【複写】で増やしておいた。


「……欲しいが、それはダメだ。 お前に甘える事になる」

「気にするな。 俺はいつでも手に入れる事が出来るから」

「はっ? タクト、生息地域が分かったのか?」

「生息地域というと少し違うが、居る場所は分かったぞ」

「……よく分からないな。 でも貰うわけにはいかん。 貰ったのが無くなったら又相談する」

「分かったよ」


 トブレから、納品される指輪を受け取る。

 品質的には問題ないが、発注した数量の二倍は出来ている。

 多い分には、今は問題ないが……


「納品数量が多いが、作業工程変えたのか?」

「……すまないが、俺の口からは言えん」


 なにか事情があるのか?

 深くは聞かないでおくが、必要以上に作ってもらっても困るな。

 あとで、ラチスに話をするか。



 工房の中で雑談をしていると、族長のラチスとステーが入って来た。


「邪魔しているぞ!」


 挨拶をするが、なにやら元気がない。


「どうしたんだ?」


 トブレは事情を知っているようだが、話をしようとはしない。

 ラチスは、ゆっくりと話し始めた。

 裏の鉱山に、強い魔獣が住み始めて鉱石が取れなくなったらしい。

 自分達でどうにかしようと悩んでいた所に俺が来たという訳だ。


「魔獣が何か分かるのか?」


 ラチスは『アイスシープ』の集団だと言う。

 近づくと口から氷の息を吐いて攻撃をする。

 しかも岩山で生活している為、ドワーフでは手出しが出来ない。

 鉱山に近づくだけでも、威嚇して岩を落とされる。


 今は、開店休業状態で、俺からの発注の指輪を皆で作っていたそうだ。

 なるほどな、たしかにトブレからは話しづらい内容だな。


「俺に、討伐の依頼をする為に来たって事だな?」


 ラチスとステーは頷いた。


「分かった。 連れて行ってくれ」


 案内される途中で、発注以上に納品されても買い取れない事もあるとラチスに告げる。

 ラチスも分かっていたようだが、何もしていない職人達が可哀そうだったので、つい仕事を与えてしまった。

 すまなさそうな顔をして、俺に謝った。


「まぁ、今回は買い取れるから問題無いけど、今度は事前に相談してくれ」


 ラチスは頷く。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 鉱山の麓に着くと、確かに岩場に数頭のアイスシープが居た。

 ラチス達を遠くに避難させてから、【隠密】を発動させる。

 オリヴィアに教えてもらった【転送】を使い、アイスシープの上から【雷球】をぶつける。

 初めて使ったので、転送位置に誤差が出る。

 ……思ったよりも難しい。


 突然の襲撃に、戦闘態勢になるが、敵の姿が見えない為そこから動こうとはしない。

 続けて、【雷球】で攻撃する。

 一匹に命中して、山から転がって落ちてきた。

 アイスシープは、まだ状況が分からない様子で周りを警戒している。

 異変に気が付いた他のアイスシープの集団が集まって来た。

 【転移】と【雷球】で確実に一匹づつ始末していく。

 最後の一匹も訳が分からないまま、逃亡しようとするが【雷球】で始末する。


 ラチスを呼んで、大体数は合っているかと確認する。

 多分、全部だと嬉しそうに答えて、感謝された。


 落ちてきたアイスシープを【解体】して【アイテムボックス】に仕舞う。


 しかし、何故突然アイスシープがこの場所に現れたかは分からない。

 先に、【念話】で確認すれば良かった。


 ラチスの家に行き、報酬の酒瓶を支払う。

 今回、納品が三倍だったが手元に無かったので、後日持ってくると伝えるが今回はこの数量での取引で良いと言われた。

 その後も、ラチスと言い合ったが俺が折れる事で決着した。


 ザルボにも会いたかったが、陽も沈み始めたので伝言だけ頼んで帰ることにした。

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