第122話 自分の価値!

 どう考えても、人手が足りない。


 ダメもとで、マリーに連絡を取る。

 こう言っては申し訳ないが、以前にクビ寸前と言っていたので一番最初に思いついた。


 時間があると言っていたので、場所を教えて直接家に来てもらった。


 この家という表現も変えないといけないな、実際は店兼住居だし……


 フランを呼び、マリーが承諾すれば短期の従業員として雇いたいと相談したが、俺が決めていいと言われた。

 不安になるといけないので、フランにも同席して貰うように頼んだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 三〇分程で、マリーが来た。


 四階の俺の部屋に案内して、フラン同席で今回来てもらった事について話をする。


 まずは、この家は俺が購入したと話を始める。

 仕事内容は、店内での受付及び、販売。

 写真撮影した夫婦もしくはカップルに、指輪と写真を販売する。

 その写真は、フランが撮影すると説明する。

 賃金は、一〇日で一日八時間労働で『金貨六〇〇枚』支払うと伝える。


 家の購入と、賃金の高さには驚いていたが、接客業には不安がある様だ。

 やはり、飲食店での仕事や奴隷時代の失敗を気にしている様子だ。


「今回は扱う物は小さい物だ。 それに、あちこち動く必要が無い」

「そう……」

「マリーは、見た目は綺麗だからおしとやかに接客してくれれば大丈夫だ!」

「見た目は綺麗って、中身は汚いみたいじゃない!」


 少し怒り気味に言うが、すぐに笑顔になった。

 引き受けてくれると助かるのだが……


 マリーは申し訳なさそうに、


「賃金は半分でいいわ。 但し、御願いがあるの」


 数日前に、住み込みで働いていた飲食店をクビになったらしい。


 わずかに残った貨幣で、宿を借り仕事を探していたところに、俺から連絡があった。


 マリーは、住み込みとしてとりあえず、三日間働かせてほしい。

 自信は無いが仕事態度を見て、その後も働かせてもらえるなら働きたい。

 ただし、知り合いだからという理由で甘い評価はして欲しくない。


 元とはいえ商人の娘だけあって、商売に私情を持ち込むのが厳禁なのは、よく知っているな……


「あぁ、分かった。 その条件で頼む」


 ここは、マリーの意見に従ってみる。


「三階の三〇一はフランが使っているから、三〇二を使え」

「ありがとう、助かるわ」


「ねぇ、タクト。 この家の事を、もう少し説明しておいた方がいいんじゃないの?」


 フランが、気まずそうに話しかけてきた。


「何がだ?」

「噂の件よ……」


 そうか、言われて思い出した。


「それとこの家は、噂の『バケモノ屋敷』だから!」

「えっ!」


 驚いてはいたが切羽詰まった状況なので、そんな事も言っていられないのか覚悟を決めた様だ。


 そういえば以前、食事した際に計算が少し出来るような事を言っていたな、


「マリー、今から計算問題言うから、答えてくれるか?」

「別に良いわよ」


 商人ギルドや冒険者ギルドで出題されたような問題から始めて、徐々に難易度を上げてみる。

 少しどころか、商売する上で問題ないレベルだ。


「それだけ計算出来れば、飲食店でも重宝されたんじゃないのか?」

「何言ってるの。 私なんかに精算させて貰えるわけないじゃない」


 長期間働いている従業員であれば、貨幣を触ったりする作業をさせて貰える事もある。

 しかし、短期間だと信用が無いので盗難を恐れて、貨幣には触らせて貰えないそうだ。


 確かに、言われみれば納得する。


 しかし、この状況だといつまで経っても、マリーの計算能力は活かされない事になる。

 周りと比較する事が出来ないから謙遜して言っているという事か?

 そうすると、趣味程度の裁縫のレベルも気になるな。



 マリーに、シロへ製作を御願いしているニーナの衣装を見て貰う。


「さすがに、ここまでは出来ないわよ」


 そう言うが、シロの代わりに作業をして貰う。


「マリーさん、全然出来ないと言っていましたが、上手ですよ」


 シロが嬉しそうに報告をする。

 やはり、他人と比べる機会が無い為、自分の実力が分からずにいたのか。


「マリー、悪いが裁縫の仕事も追加で頼めるか?」

「いいけど、とりあえずは賃金はこのままでいいから」


 それは、ダメだと言おうとしたが、「空いてる時間に手伝う程度だから!」と押し切られる。


 俺の中では、マリーの正規雇用は、ほぼ決定事項になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る