第120話 シキブの嫉妬!

 トブレの所に行こうと準備をしているとイリアから、緊急の連絡が入る。


 なんでも、シキブが御乱心らしい。

 朝から、ギルド会館が騒がしいのはそういうことか。

 ライラの【結界】は、朝には解除するようになっているので、ギルド会館の動きはよく分かる。

 イリアはまだ俺が、ギルド会館の近くに住んでいる事は知らないと思うので、ギルド会館に向かう事を伝えて、連絡を切る。


 階段下に、ギルドメンバーが集まっている。

 トグルも様子を見に行こうとしているが、躊躇しているようだ。

 

 イリアが俺が到着した事に気が付く。


「タクトさん、ギルマスを止めて下さい!」

「何があったんだ?」

「私達にも良く分からないんです。 突然、ギルマスが暴れだして……」

「部屋には、シキブだけか?」

「ムラサキさんもいる筈です」


 夫婦喧嘩か?

 鬼人夫婦の喧嘩は、激しいと言う事か!

 帰ったら、ライラに【結界】を強化して貰ったほうがいいな。


「仕方ないな、少し様子を見てくる」

「お願いします。 このままではギルド会館が倒壊します」


 あながち冗談になっていないところが怖いな……


「ちょっと、ゴメンよ」


 階段下の人混みをかき分けて、二階へ行こうとするとトグルが、


「お前、よく行く勇気があるな!」


 と聞いてきたので、


「誰かが行かないと行けないだろ? 今回は、たまたま俺ってだけだ」


 答えてやると「そうか」とだけ言い、後ろの方に下がった。



 二階に上がると、想像以上に破壊されていた。

 怒り狂っているシキブと、落ち着かせようとするムラサキ。

 ……声掛けるのも嫌だな。


「おい、どうしたんだ?」


 俺の声にシキブ反応した。


「タクトも、ムラサキの擁護しにきたの!」


 かなりのお怒りモードだ!


「タクトからも説明してやってくれ!」


 怪我だらけになりながらも、必死でシキブを落ち着かせようとしている。


「だから、どうしたんだって!」


 シキブが凄い形相で、


「昨日の昼に凄い美人と、ふたりっきりで街を歩いていたのよ! しかも見ていた人の話では、ムラサキから声を掛けたそうなのよ!」


 喋りながらも、ムラサキへの攻撃が止む事はない。


 ……昨日の昼?


「その女性って、ニーナだぞ」


 シキブの手が、ピタッと止まった。


「昨日、ニーナの引越しがあったけど俺が用事で行けなかったんで、護衛をムラサキに頼んだんだ」

「えっ!」

「街の男に声を掛けられていた所を、ムラサキに助けられたんじゃなかったか?」

「えっ!」


 シキブは、俺とムラサキの顔を交互に見ている。


「ムラサキ、なんで言わないんだ?」

「説明しようと何度もしたけど、シキブが聞いてくれなくてだな……」


 なるほどね! 説明する言葉も受付けないほど、怒りが頂点に達したと言う事か。

 いつも言われてばかりだから、たまには言い返してみるか!

 

「シキブ!」

「……はい」

「まず、この状況を見てみろ!」


 シキブの御乱心で、ギルマスの部屋は半壊に近い。

 廊下にも幾つもの穴が開いている。


「暴れるのは自由だけど、ここはギルドだろう。 私情は持ち込むなよ!」

「……はい」

「ギルドメンバーも、何が起こったか心配していたんだぞ!」

「すいません」


 その後も小言を言おうと思ったが、


「タクト、その辺で勘弁してやってくれ!」


 ムラサキが庇った。


「俺の言葉足らずのせいで、シキブに心配を掛けさせてしまったので、俺にも責任はある」

「ムラサキ!」

「ゴメンな、シキブ」

「私こそ、ごめんなさい」


 これでは、説教していた俺が完全に悪者じゃないか?

 慰めあっている鬼人夫婦は、放っておいて廊下に出る。


「収まったから、上がってきても大丈夫だぞ」


 下で集まっていたギルドメンバーに言うと、まずイリアが上がってきた。

 状況を見て、絶句している。


「後は任せていいか?」

「はい、きちんと壊したものは責任を持って直して頂きます。 タクトさん、ありがとうござました」

「いいよ、この状況を止められるのが、俺しかいないと思って連絡してきたんだろう」

「もちろんです!」


 後処理はイリアに任せて帰ることにした。


 ……女の嫉妬は怖いな!

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