第109話 噂の化け物屋敷!

「タクト、この物件買うんじゃないわよね?」


 訳あり物件の内容を見ていると、シキブが横から覗いてきた。


「なんか、知っているのか?」

「ギルド会館の前だからね。 噂やら目撃情報は幾つか知っているわよ」


 冒険者達の間では、誰も居ないのに夜になると、灯が灯っていたり少女の人影が写ったりしているのを何人も目撃している。

 持主も夜中に突然、扉が空いたり棚から物が落ちたりしているので、すぐに引っ越してしまい一年近くも空き家となっていた。

 そのため「バケモノ屋敷」と噂されている。


 さっき聞いたのと、同じような内容だな。


「店主、金貨三〇万枚だったら、この場で購入してやる」

「えっ、御冗談ですよね」

「売主はその値段で売りたいのに、この店が過剰に上乗せしているから売れていないんだろう」

「いえ、そんなことは決して……」

「俺が直接、売主と話をしてもいいが、そうすると困るのは誰だろうな!」

「……分かりました。 すぐに売主と連絡致します」


「ちょっと、タクト本気なの!」

「あぁ、『バケモノ屋敷』にバケモノが住むんだからピッタリだろ!」


 シキブとムラサキは、呆れた顔をしている。


「本当にタクトには、驚かされるわね」

「バケモノ屋敷にバケモノが住むというのは、面白いな!」

「だろう!」

「それで、ムラサキ達の愛の巣はどれにしたんだ?」

「愛の巣なんて、恥ずかしいじゃない!」


 多分、思いっきり脇腹に正拳突きを喰らったと思う。

 痛みは無いが、奥に座っているムラサキが青ざめているのでよく分かる。


「ムラサキ達は、どの家にしたんだ?」


 ムラサキの隣に行き、聞いてみた。


「ん? これって」

「あっ、気が付いた。 御近所さんね!」

「いやいや、今バケモノ屋敷を散々罵ったのに、その隣の建物を買う方もおかしいだろうが!」

「だって、バケモノ屋敷の隣で安かったし、怖い思いしたらムラサキが守ってくれるって言うんだもん」


 今度は、ムラサキのみぞおちに正拳突きが入った。

 白目を剥いているので、倒れないように支えて【治癒】と【回復】を掛ける。


「大丈夫か?」

「あぁ、助かった。 死んだ爺さんが川原の向こうで手を振っていた」

「……そうか、絶対にその川は渡るなよ」


 ムラサキ達の家は、相場の八割程度だ。

 そこまで安くはなっていないが、これ位で勘弁するか。

 俺の家は別だが!


「お待たせ致しました。 売主も本日一括支払いであれば! と承諾頂きました」

「そうか、それで売値はどこまで下げたんだ?」

「いえ、それはその……」

「あとで、売主にお礼に行くからその時に、聞くから別にいいけどな」

「……」


 店主は無言になる。


「下げたのは、一割か、それとも二割か?」

「一割、二割とは?」


 この世界には、その割合の概念が無いのか?

 たしかに、あの程度の計算問題だから難しいか……

 説明するのが面倒くさいな


「気にするな、それで答えは?」

「あっ、その金貨三千枚です」

「さっき、チャンスは一回と言わなかったか?」

「はい」

「残念だな」

「本当に申し訳御座いません。 今後このような事は致しませんので、御願い致します」

「そうだな、購入額からその金貨三千枚を減らしてくれたら、勘弁してやる」

「……ありがとうございます」


 ムラサキ達と並んで、契約書にサインをする。


 少しやり過ぎた感はあるが、知識のない奴から嘘で儲けるのは詐欺に近い。

 それは、俺の中では許されない行為だ。

 商売というルールで、商人対商人なら交渉になるから別だ。


 無事、家を購入できた。

 鍵を貰い、手続き完了だ。


 完全に貯金が無くなった。

 今迄、使うことなかったから、ひたすら貯めていたけど一気に無くなった。


 【複製】で貨幣を増やしてもいいけど、それは犯罪行為なので止めた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「いい買い物が出来たな!」

「そうですね」

「シロやクロも部屋が欲しいか?」

「いえ、私は魔物サイズで寝る方が落ち着きますので、特に必要御座いません」

「私は、御主人様の傍に居れれば、どちらでも良いです」

「そうか!」


 シロもクロも、人型はツライのか?


「二人とも、人型はツライのか?」

「そんな事ないですよ。 綺麗な服も着れるし、最近はこちらの方が楽ですね」

「主たちと部屋にいる時は良いのですが、街の中ですと視線が集まるので少し苦痛で御座います」

「そうか、今後気をつけるな」


 クロの視線て、イケメンに向けられる視線だろうな……羨ましい。


「しかし、タクトは悪魔ですね」

「ん、なんで?」

「あんな交渉する人なんて、初めて見ましたもの」

「おぉ、途中から店主が可哀そうだったな」

「そのおかげで、良物件を購入出来たんだろう」

「そうだが、買い物行くときはタクトを連れて行った方が安く変えるな!」

「そうね、家具買うときも御願いね」

「断る!」


 何が悲しくて、人の買い物の価格交渉までしなくてならないのか……



 購入した家に着いた。


 バケモノとのご対面だ。

 簡単に、退治出来るといいけどな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る