第96話 見た目の大事さを痛感!
翌朝、リロイの様子を見る為、領主の館に行く。
門番に事情を話しても、入れてくれない。
マイクの事を話しても、嘘だと言って取り合ってもらえない。
仕方ないので、シキブに連絡する。
「もしもし、どうしたの?」
「とても言いづらいんだが、領主の屋敷の門番が俺を疑って入れてくれないんだ……」
「だから、言ったでしょ! そんな村人の恰好じゃ当たり前よ! すぐに行くからそこで待ってなさい!」
「はい」
母親に怒られた気分だ。
やはり格好は大事だな、あとで服でも作りに行こう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
三〇分程で、正装に着替えたシキブが来てくれた。
「本当にスマン」
腰を九〇度に曲げて謝罪をする。
「色々と問題を起こしてくれるわよ、本当に!」
シキブが説明をすると、あっさりと入れて貰えた。
通行許可書貰えば、村人の恰好でも大丈夫か?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「今朝は、久しぶりに気持ちよく目が覚めました」
そうだろうな。
ニーナが部屋に居なかったのだから。
ステータスを確認しても『HP』『MP』共に最大値だ。
「タクト様、何か分かったのですか?」
「あぁ、もう半分は解決したようなものだな」
「なんですと!」
「タクト、それ本当なの!」
「あぁ、街の暴漢も今夜からは現れないと思う」
「後で説明してくれるわよね?」
「ん~、今日は無理だけど明日位には報告出来るぞ」
「今日、報告出来るわよね~」
シキブが笑いながら、脅しをかけてくる。
「報告はしたいけど、確定じゃないので明日まで待ってくれ!」
シキブは諦めたのか、明日で許してもらった。
「すまないが、領主とふたりで話がしたい」
「構いませんよ。 シキブ殿はマイクと隣で待っていて貰えますか?」
「はい、承知致しました。 行きましょうか、シキブ様」
「失礼致します」
ふたりが居なくなるのを確認して、
「噴水の女性の件だが、昨日は見ていただけと言っていたが、声を掛けなかったか?」
リロイは驚き、
「あの方に御会いしたのですか!」
「あぁ、少し事情のある娘だった」
「そうですか、あれからずっと気になっているのですが……」
「領主、あの娘に会ってみたいのか?」
「はい、それは勿論ですとも」
嘘偽りのない目で俺を見た。
「会ってどうするつもりだ」
「笑われるかも知れませんが、妻にしたいと考えております」
はぁ、いきなり結婚!
「相手がどんな娘かも、知らないのにか?」
「はい。 しかし月夜の光で踊る彼女は美しかった。 それに私の直感が妻にしたいといっているのです」
あてにならない第六感てやつか?
「領主は、貴族じゃないのか? 縁談とかもあるんじゃないのか?」
「そうですね。 確かに私は貴族ですが、没落貴族と言った方が良いかも知れません」
リロイの家系は、特に功績も上げていない為、年々貴族内での地位も低くなり今では名ばかりの貴族になっている。
リロイの父親やリロイ自身も他人を蹴落としてまで地位を上げる事をしない為、他の貴族に領地やらも奪われてしまい、厄介払いでこの『ジーク』に飛ばされたそうだ。
母親は、リロイが幼いころに他の貴族に気に入られ愛人として奪られるところだったが、自ら死を選び父親への愛を貫いた。
しかし、奪おうとした貴族はプライドを傷つけられたと、更に父親への嫌がらせが増したそうだ。
『ジーク』に赴任する前に、その父親も事故で亡くなった為、リロイが領主して派遣された。
付き人も、マイクと数人程度だという。
この屋敷は、大きすぎて困っていると最後に話した。
「そうか、つらい話をさせてしまい、すまないな」
「いえ、構いませんよ。 それより彼女に会うなら手紙を書きますので、御渡し願いますか?」
「あぁ、それ位ならお安い御用だ!」
「少し、御待ち下さい」
「ゆっくりでいいぞ!」
リロイの純粋さが正直羨ましかった。
俺が、持っていない力だ。
レベルやスキルがどれだけ強くても、あの強さは持って生まれた『人』としての強さだろう。
俺が、リロイの立場だったら間違いなく他の貴族を恨んでいただろう。
一概には言えないが、貴族や奴隷商人という響きは、どうしても好きになれない。
それは、これからも変わらないだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「御願いします」
「あぁ、確かに預かった。最後にひとつ聞いていいか?」
「はい」
「あの娘が、身分の低い農民や獣人、それに病持ちや魔物だったらどうする」
「……そうですね」
やはり、魔物は厳しいだろう。
「結婚します」
「結婚する?」
「はい、私はその方の素性は存じ上げませんが、どの様な理由であれ自分の気持ちには正直に生きたいので!」
素直だな。
やはり、リロイは尊敬出来る領主だ!
「ありがとう。 意地悪な質問をして、すまない」
「いえいえ、私の事を気にかけてくれた上でのことと分かっていますので」
迷いのない笑顔だ。
リロイがベルを鳴らすと、マイクとシキブが戻って来た。
「宜しく御願いします」
リロイが頭を下げる。
館を出る前に、マイクに通行許可書が無いかを尋ねる。
あるみたいなので、ひとつ借りる事にした。
これで明日は、門番に止められることも無い。
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