第88話 鑑定士としての悩み!

「ところでシキブ、領主の所に行く件はいいのか?」

「あっ、そうね! 問題が色々ありすぎて、優先順位が分からなくなって来たわ……」


 アル達の話で、ゴブリンロードの件で領主の所に行く話が、忘れ去られようとしていた。

 ゴブリンロードより、魔王の方が脅威だから仕方ないかも知れないが……


 シキブは用意の為、奥の部屋に行く。

 イリアとトグルは、一階に下りて行った。

 ローラは早速、報告書を作成すると楽しそうに部屋へと戻っていった。

 部屋には俺とムラサキ、カンナの三人になった。


「タクトさん、すいません」


 カンナが頭を下げる。


「いいよ。 いずれ分かる事だから」

「しかし……」

「鑑定士として正しい事したんだから、気にするなって!」

「……はい」


 カンナは落ち込んでいる。

 まぁ、そうだろうな。

 自分の発言で、こんな大事になったのだから。


「カンナ、もしあの時言わなかったら良かったと思うか?」

「……分かりません」

「そうだろう、どちらにしても後悔してしまうのなら、正直に話した今の方が気分は楽じゃないか?」


 カンナは無言のまま俯いている。


「もし、言わなかったらあの場に居た全員を欺くことになる。 言ったとしたら俺だけを傷つけるかも知れない。 違うか?」

「……」

「数や立場的な事を考えれば、シキブやムラサキを取るのが当たり前だろ」

「……でも」

「鑑定士という職業であれば、今後こういう場面に何度も遭遇するだろうが、その度に謝っていたらキリがないぞ!」

「……はい」

「自分のした行いに自信を持てばいい。 誇り高き鑑定士なんだから」

「そうですね。 有難う御座います」

「偉そうに言っているけど、お前無職だろ!」

「うるせぇ!」


 ムラサキの突っ込みに、暗かったカンナに笑顔が戻った。

 仕事の壁や、人間関係で悩むのはどの世界でも同じなのだな。

 他の街にまだ行った事が無いが、エリーヌが最初にこの街を選ぼうとしたのは、あいつなりに俺にあった街を選ぼうとしていたのか?



 奥の部屋から、正装らしき服に着替えてきたシキブが出て来た。


「お待たせ。 タクトも着替えて貰える?」

「……着替えなんて無いぞ!」

「えっ、その服だけ!」

「あぁ、この村人の服だけだ」


 シキブがよろけて、机に手を着く。


「お金が無い訳でも無いのに、なんで冒険者の初期装備よりも劣る村人の服しか持っていないのよ」

「別に必要無かったから……」

「規格外なのを再認識したばかりだったのに、どうして貴方は更にその上を行くのよ」

「いや~、常識無くてスマンスマン!」

「仕方ないわ。 今から作っても間に合わないから、その服で行くとしましょう」

「服って、店ですぐ買えないのか?」

「何をバカなことを言っているの。 人によって体形が違うから毎回採寸して作って貰うのよ」

「そうなのか、それは知らなかったな」

「タクトの規格外れと常識外れは、底なしね……」

「ははは……」

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