第54話 マッドサイエンティスト現る!

「御主人様、朝ですよ!」


 シロの声で目を覚ます。

 便利な体で疲れが残らず、毎日清々しく目が覚める。

 前世の時とは大違いだ。

 エリーヌには感謝する。


 着替えを終えて【アイテムボックス】から、クロとシロの朝御飯を出して、一階に降りる。


「おはようございます」


 元気に宿屋の娘『リム』が声を掛けてきた。

 「おはよう」と返して、席に着く。


 既に何人かの宿客が、朝食を食べていた。


「御待たせしました」


 リムが朝食を運んできた。

 朝食は、前世風で言えば、フランスパンと薄切り肉、それにサラダ。

 飲み物は牛乳のようだ。

 味は『ゴンド村』で出された食事よりも、全然美味しい。

 やはり調味料の差が大きいのだろう。


 手を合わせ「いただきます」と声を掛けて、料理スキルをもう少し上げたいと思いながら、朝食を口に運ぶ。

 食べ終わり「ごちそうさま」と手を合わせて席を立とうとすると、リムが寄って来た。


「タクトさん、今の動作は何ですか?」


 不思議そうに聞いてきた。


 ゴンド村の時と同様に説明をすると、えらく感動している。

 今度から自分もやってみるというので、もう一度「いただきます」と「ごちそうさま」の動作を見せた。


 朝から良い事をした気分だ。

 今日はきっと良い事があるに違いない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 目の前には、シキブとムラサキが座っている。

 ムラサキの横には、見知らぬ眼鏡を掛けた獣人の女性とイリアが座っている。

 ギルドカードを受け取るだけなのに、何故か重々しい空気だ。


「どうした?」


 この空気に耐え切れず言葉を発した。


「タクト、そこに座って頂けますか」


 素直にソファに座る。


「……まず、こちらの方を紹介致しますね」


 眼鏡の女性は『ローラ』と言い、種族は『狐人族』だそうだ。

 王都『エルドラード』にある『魔法研究所』の研究主任を勤めている。

 先月からこの街に調査で訪れている。

 昨日、この辺で魔力波に特殊な乱れが有った為、ギルドを訪れた。


 完全に、俺のせいじゃないかな。

 魔力波の乱れって何をしたら乱れるんだ?

 そもそも魔力波って?


「それは、私から説明しよう」


 ローラから詳しい説明をされる。


 魔力波の乱れというのは、時空が強制的に歪まされた際に発生したりするもので、ローラが持っていた計測器がそれに反応した。

 研究者としては、当然確認したいと思って一番怪しいギルドに邪魔した次第らしい。


「……なるほど」


 シキブもムラサキも、俺との約束があるから喋ることは出来ない、

 しかしギルドに、疑いが掛かっている以上放置も出来ないって事か。

 仕方ないな。


「原因は多分、俺だ。試験の際に使ったこれだろう?」


 【アイテムボックス】を使う。

 四人共、初めて見たようで驚いている。


「ほぉ、ここまで大きいアイテムボックスは、長年研究所に居たが初めて見る」


 ローラは興味深々だ。

 もしかして、マッドサイエンティストか!

 計測器らしき腕時計を見ながら


「いや、これじゃ無いな。たしかに、これも乱れはあるがもっと大きい特殊な感じだ」


 えっ、これじゃあ俺って、秘密ばらした馬鹿じゃないか!

 しかし、それ以外の考えられる魔法は思いつかない……。

 昨日の事を思い出すように、部屋を一通り見渡してみる。

 シキブがなにやら両手を頭の上にやり、指全体を倒したり起こしたりしている。

 ……何をしているんだ?

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