きたくのれんらく

 みんなで朝ごはん。もちろん作成者は美久だ。


 どうやら朝斗も由里も夕子さんも寝不足らしく、みんな眠そうに目をこすっている。香織だけは目をぱっちりさせているが、どこか落ち着かない様子だ。


「なあ、香織……」

「は、はいっっ!」


 何をするわけでもなくそのあたりをうろうろしている香織に声をかけたら、不審者のような返事。危険物持ち去りの犯人はやはり香織に違いない。


「なんでそんなに挙動不審なんだ」

「い、いいえ、に、兄さんが大人の階段を上ったのかという不安と、兄さんと大人の階段を上れるという期待と……」

「……?」

「と、ところで兄さん、ゆうべはお楽しみでしたか?」

「なんだそれ。地震が楽しかったわけないだろ」

「あ、そうですよね。じゃ、じゃあ、気持ちよかったですか?」

「……意味不明だ。地震が気持ちいいわけないだろ」

「は、はい、そうですよね。じゃあ、昨日は、ひとりで寝たんですか?」

「……何が聞きたいんだ。当たり前だ」


 押し問答を重ねたのち、香織が安心したかのように息を吐き、俺から顔を逸らした。


「それじゃあ、アレはひょっとしてわたしとのために……地震さえなければまさか……で、でも、兄さんとならつけなくても……」

「…………」


 香織のひとりごとは、寝不足でボーっとした頭には難解すぎる。昨日、ジト目で見られていたのでちょっと焦ったが、美久からの逆レイプ未遂に関してはバレてないようではあるから、そこだけはほっとした。

 眠気が吹っ飛ぶ事態も避けたかったので、俺は香織に逆ツッコミするのを断念。


「お待たせ。由里ちゃんはトースト、他のみんなはご飯だよね」


 そんなことをやっているうちに、朝食の準備完了。美久のお手製朝食、なんとなくこそばゆい気もしないでもない。

 由里にはコーンスープ、俺たちにはみそ汁。目玉焼きに、海苔、ちょっとしたサラダ。簡易と言えば簡易だが、それが出てくるだけでありがたいものだ。


「「…………」」


 朝斗と由里は、目を輝かせて食卓を見ながら黙り込んでいる。


「……どうかしたのか、朝斗に由里は」


 不思議に思ってそんな声をかけてみると。


「すごい、まともな朝ご飯だ……」

「コンビニに朝食の調達をしに行かない朝なんて、久しぶりですわ……」


 ふたりの発言を聞いた俺は、思わず夕子さんのほうを向く。


「……うん、家族バラバラだしね、現に今も。申し訳ないと思ってる」


 俺が何も言わずとも、夕子さんは察して先にそう反省の弁を述べた。


「朝ご飯くらい一緒しないと、ずっとバラバラなままですよ……」


 俺がえらそうに言うことではないが、それを聞いた夕子さんが真剣な顔で同意してきた。


「……だね。やることも一段落したし、アタシもしばらくここに泊まって、朝斗由里こいつらと生活しようか。家族の再スタートさね」

「それがいいと思います。一日の始まりが一緒だと、なんとなく家族の絆が強くなるように思いませんか?」


 ………………あ。


 自分で言っておきながら、今さら気づいた。まさしく、父さんが義母さんに提案して決めた『矢吹家の決まりごと』って、そういう理由だよなあ。


 傍らでは美久がウンウンと頷いている。


「……そっか、そうだよね。有田家うちはお父さんが朝早かったし、あたしも兄貴も別々に朝御飯食べてたなあ……」


 美久がそう漏らしたのを聞いて、ますます朝ご飯を家族揃って食べることが大事に思えてきた。俺がもし家庭を築いたら、必ずそうしよう。誰と築くのかは未定だが。


 ………………


 父さん、やっぱりすごいわ…………


―・―・―・―・―・―・―


 香織たちは四人でトランプをやっている。なんだかんだ言って、あいつらはやたら仲良くなった気もする。


 俺は朝食後、少し保養所まわりを散歩しながら、父さんにもう一度電話をしてみた。


『おう、真一か。おはよう』

「おはよう、父さん。今いい?」

『ああ、ちょうどこちらも今、用事が済んだところだ』


 用事……やっぱり、俺たちを家に置いておきたくなかったのだろうか、とは思うが、そのことも帰宅したら訊けばいい。


「とりあえず、この前の約束、今日はだめかな?」


 父さんに、『近いうちに、ふたりで話をしよう』と言われていた件について、伺いを立ててみると。


『……おまえは、どんな話が出てきても、それを冷静に受け止められる自信があるか?』


 俺の覚悟を、父さんが逆質問で確認してきた。


「正直なところ、今も多少混乱してる。でも、真実を知りたい。知って乗り越えたい」


 返答は、素直に、気取らず。覚悟は決めたつもりだ。父さんは親子としてではなく、男同士としての話し合いをするつもりだろうから。


『……わかった。うまくその機会を作れたら、だな。しかし……』

「どうかした?」

『まさか、ゆうちゃんがそこにいたとは思わなかったぞ。よけいなこと聞いてないだろうな?』


 父さんの尋問に疑問符しか浮かばない。“よけいなこと”の適用範囲が広すぎる。そして、『ゆうちゃん』って……


『……いや、今のは無しだ。あと、真一、おまえ……』

「どうかした?」


 返事に詰まって無言でいたら、父さんが言い直してきた。どうせあとで話をすることになるだろうから、それは省略してもいいのではあるが、父さんはそれよりもさらにどうでもよさそうな心配をしてきたのである。


『まさか、ゆうちゃんと一線、越えてないだろうな?』

「ぶっっ!!」

『……まさか……』

「父さん、俺にだって理性くらいあるって!」

『い、いや、おまえに理性があっても、強引にだな……』

「…………」


 父さんと夕子さんの関係が垣間見えたわ。あまり想像したくないから、触れるのはやめよう。それがいい。


 俺は適当に話をそらし、昼過ぎに帰宅する旨を伝えて、父さんとの会話を終えた。

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