わかってましたとも

 だいいち、夕子さんという保護者がいるというのに、一緒にお風呂などという破廉恥行為が許されるわけがなかろう。


「はいはーい、そんなうらやましいことはアタシが許しませんよー!」


 お、ようやく本物の大人らしい発言が夕子さんから聞かれた。……うらやましい?


「で、でも、美久さんだけずるいです」


 香織の必死の抗議、いや羞恥心を必死に我慢した抗議とでも言うべきかもしれないが、それには残念ながら説得力はない。


「あ、あのね香織ちゃん、あたしが真一とお風呂一緒したのは、もう十年も前のことで……」

「事実は事実じゃないですか……?」


 軽口を叩いた美久が、まさかこんな話を真に受ける人がいるとは、というような戸惑いを全面に出しながら言い訳するが、香織は聞いちゃいない。


「ぼ、僕も、真一さんとなら……」


 朝斗は相変わらずくねくねダンスをしている。気持ち悪いのも慣れてきて、何とも思わなくなってきた。そのうち、この踊りすらかわいいとすら思えるようになる――――わけないか。


「美久よ、よけいなことを言うなよ」

「あー、あはは……ごめんね、真一」


 美久の謝罪も乾いている。この年齢で一緒に風呂とか、端から見たらご褒美かもしれないが、こんな状況で落ち着けるわけがない。どうせ入るなら、ふたりきりのときにすみずみまで洗いっこできるくらいの、まったりあまあまムードがほしい。しかもつきあっただのアレやコレを経験済みとかの事実があれば話は別だが、いきなり真っ裸で一緒に風呂とかハードル高すぎにもほどがある。硬度上昇待ったなし。


「……真一?」

「おっと」


 童貞のめんどくさい理屈をこねてる場合じゃなかった。美久の一言で我に返る俺。


 だが、ふたりきり、って……今の俺は、もしふたりきりで一緒に風呂に入るとしたら……誰を選ぶのだろうか。


 そんな疑問を頭に浮かべたまま、夕子さんの方を見たら、なぜかバッチリ目が合った。


「はいはーい。じゃあアタシから提案。真一くんと一緒にお風呂したい人は、今から真一くんの目の前でオールヌードになってみようかー?」


「「「「!?」」」」


 俺と目を合わせてからニヤリとした夕子さんが、酒に酔っているかのような原爆級提案をしてきた。全員が目を白黒させているのがやたら滑稽ですらある。


「社長だろうが大臣だろうが、風呂に入るときゃみんなハダカだよ。真一くんにそれを晒せないならば、一緒にお風呂とか無理も無理、超無理だ。できないなら諦めな」


 すっげえ屁理屈っぽい真理だが、助け舟を出してくれたのだろう。夕子さんにアイコンタクトで感謝の意を告げると、夕子さんは今度はニタニタと笑って、手を叩き催促する。


「ほらほらー、脱がなきゃ誰も入れないよ?はやくはやく」


 その言葉に促され、キュロットに手をかける香織、ジーンズに手をかける朝斗。だがふたりとも顔の赤みが増すだけで手は動かない。当然といえば当然だろう。

 ――そのさらに脇で、美久がシャツに両手をかけ、由里がスカートをめくり上げるような体勢をとっているけど、なぜだ。


「……ぶっぶー。はいタイムアップだね。真一くんと一緒のお風呂はムーリ」


 お風呂チャレンジ終了。香織と朝斗が、ガックリとうなだれた。まったくやれやれだ。


「はい、じゃ、俺は先に風呂へ……」


 そう言って立ち上がろうとしたその時、予想だにしなかった一番の大問題が発生してしまう。俺の見通しが甘かった。


「それじゃ、真一くんとお風呂に入るのは、このアタシに確定しましたー」


「「「「「……はい?」」」」」


 保護者のトンデモ発言に、思わず五人でハモってしまった。呆気にとられている俺たちのことなどおかまいなしに、夕子さんがシャツとジーンズをポイポイと脱ぎ捨てていきなり下着姿になる。


「ふっふっふ、この生娘どもが。コレが人生経験の差ってものよ!」


 羞恥心のかけらもない夕子さんがブラジャーに手をかけたときに、やっと香織たちが取り押さえて、真っ裸は無事阻止された。


 保護者が一番のコドモだったわ……そのとき俺のついたため息は、いったい何人に届いたのだろう。


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