てきだからたたかう

 美久とラ〇ンにて。


『すまん、ニヨニヨ共和国泊まり無理』

『えー、なんで?』

『保護者がいないからダメ出し食らった。日帰りで参加』

『そっか。由里ちゃんたちはどうするんだろうね』


 そう言われてみれば……由里たちはどうなんだろう。朝斗とふたりだけじゃないだろうし、父か母が一緒とは考えにくい。


『謎だな。まあ、美久はニヨニヨ共和国を満喫してきてくれ』

『んー、でも真一が帰っちゃうんじゃなあ。あたしも日帰りにしようかな』

『由里が精一杯気を遣ってくれてるんだし、お言葉に甘えて泊まったほうがいいんじゃないか』

『それもそうだけど……詳しくはそのときに判断することにしよっかな』

『任せる。じゃ、また明日』

『うん。おやすみ』


 ラ〇ン終了。そろそろ俺も寝ないとな。


 まあ、水着姿が見れるなら、日帰りでもいいだろう。そんな思春期男子らしいスケベ心とともに、俺は眠りに落ちた。


―・―・―・―・―・―・―


 そして、土曜の午前十時。俺と美久と香織は、ニヨニヨ共和国直通バスに乗り、無事目的地にたどり着いた。入り口近辺に、見知ったふたりが立っている。


「由里ちゃーん! 朝斗ちゃーん!」


 美久が二人の名前を叫びながら、大きく手を振ってアピールする。ふたりが気づいて、朝斗は手を振り返してきた。


「ようこそ、美久お姉様」


 由里がロングフレアーのスカートを両手で広げながら優雅な挨拶をしてきた。さすがは縦ロール、高貴な振る舞いだ。


 ――が。


 このスカート、由里が失禁したときのと一緒じゃないのかなあ。なんでわざわざ同じ服を……ま、洗濯してるはずだし、ばっちいということはないだろう。


「俺と香織はスルーか、金髪ビッチ」

「さあさあ美久お姉様はこちらへ。大奥酒造が所有しているニヨニヨ共和国内の保養所がありますので、何日でも滞在できますわよ」

「おいこら無視かよ」


 どうやら由里の眼中には俺と香織は入ってないらしい。


「香織、真一さん、いらっしゃい!」


 苦笑いしながら由里に手を引っ張られ中に入っていく美久を尻目に、朝斗が笑顔で俺たちに挨拶をしてきた。


「あーちゃん、この前ぶり。きょうは無理に押し掛けちゃってごめんね」

「ううん、人数は多い方が楽しいから」


 朝斗と香織はもう元通りだな。幼なじみだ、それも当たり前か。そんなことを思いつつ仲睦まじい二人を見ていたら、不意に朝斗が視線をこちらに向けてきた。


「し、真一さん、いらっしゃい。きょ、今日は、泊まっていくんですよね?」


 ポッと頬を軽く染めてから身をくねらせ、そう尋ねてくる朝斗。くねくねさせるなよ気持ち悪い。


「あー、悪い。親から許可が下りなくて、今日は日帰りだわ」

「ええっ……」


 朝斗がムンクの叫びのような表情になった。これ前にも見たな。朝斗の顔芸だ。


「せっかく、真一さんと一緒の部屋で寝れるかと思ったのに……」

「いや泊まるとしてもさすがにそれは」

「ああ、由里の気持ちが今は痛いほどわかる……いっそ真一さんを監禁して……」


 ポン。


「……あーちゃん?」


 朝斗が劇団ひとりをしている最中、ちょっと威圧感漂う笑顔をした香織が、後ろから朝斗の右肩に手を置く。刹那、朝斗の悲鳴が辺りに響いた。


「あだだだだだだ!!」

「それは、許されませんよ? ふふ、愚かなあーちゃん……」


 おおう、思い切り肩を掴まれてるよ……ほんと、香織って力強いよな。というか、もう朝斗に負けないな。


 ――――出だしから不安要素しかないのは気のせいだと思いたい。


―・―・―・―・―・―・―


 さて、ニヨニヨ共和国に入国して、最初はどこに案内されるのかと思ったら。


「……ここは、ボウリング場か?」


 でっかいピンが飾られている建物の前まで連れてこられた俺たちが揃って斜め上を見ていると、おもむろに由里が振り返ってきて、俺の方を指さしてきた。


「小十郎! 勝負ですわ!」

「あん?」


 今まで無視されていたのになぜか突然指名を食らったので、俺は間抜けな返しをしてしまったのだが、そんなこと全くお構いなしに由里はたたみかけてくる。


「小十郎は言いましたわね、『次に会うときは敵同士』だと! その通りですわ、今日はわたくしとボウリング勝負ですわよ!」

「いや、よくわからんのだけど」

「二組に分かれ、スコア勝負ですわ! わたくしたちが勝利したら、あなたたちは今日一日、わたくしたちのシモベになっていただきますわ!」


 あまりに一方的すぎる由里の物言いに頭に血が上りかけるも、美久が隣で見透かしたように笑っているのに気づき、思わず由里より先に美久に話しかけてしまう。


「美久、何がおかしい?」

「ふふっ、由里ちゃんて、真一だけには素直じゃないなー、って」

「は?」

「一緒に遊びたいんならそう言えばいいのに、なんてね」

「…………」


 ほんとにようわからん。ま、敵同士とはいえ、こういう内容ならまだ平和だ。美久や香織、ついでに朝斗もいることだし、険悪なムードにならなきゃそれでいい。


「ふん、勝てると思ってるのか、由里。じゃあ、俺たちが勝ったら――俺の言うことをひとつ聞いてもらうかな」


 宣戦布告に応えると、由里の耳障りな高笑いが聞こえてきた。


「ではバトル開始ですわね。そちらの組は、小十郎兄妹。こちらの組は、わたくしと朝斗と美久お姉様で、ハンデなしのトータルスコア勝負ですわ!」

「ふざけてんのか! 二対三でトータルスコア勝負とか、こっちが不利じゃねえか!」

「ほっほっほ、甘いですわね。確認しなかった小十郎の落ち度ですわよ」


 怒鳴る俺、高笑いを続ける由里、なにやら訳の分からない展開に置いてきぼりな香織と朝斗、そしてすべてを知っているせいか苦笑いをしながらひとりごとをつぶやく美久。カオスな構図だ。


「あはは、そっか、由里ちゃん知らないから無理ないね。二対三でも……うーん……」

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