事情の、整理

 とにかく、新しい情報が入りすぎてパンク寸前だ。

 朝斗は経緯を知っているかもしれない希有な存在。みすみす逃がす手はないので、泊めてやる代わりに情報提供くらいはしてもらおう。


「朝斗は家出してきたそうですよ。家庭に嫌気がさしたと言ってました」

「……えっ? そうなの?」

「はい。飛んで火に入るなんとやら、これは復讐するには最高の状況じゃないですか。しばらく拉致して、いびるなり責めるなりやりたい放題です」

「……あ、あの、真一くん?」


 我ながら悪人っぽいセリフだ。が、こう言えば朝斗を泊めることを強引に押し切れそうな気がする。義母さんに戸惑いが見て取れる様は、今は置いとくとして。


「まあ、朝斗はしばらく俺の部屋に監禁しておきます。義母さんも朝斗をいじめたくなったら部屋にきてください」

「……それは、犯罪行為じゃないかしら……」


 義母さんが常識的な人でよかった。この様子なら、自分の感情に振り回されてまわりを不幸に巻き込むような真似をすることはなさそうだ。……香織や朝斗の父親と違って。


「大丈夫ですよ、名目上は朝斗が香織を頼ってきた、ということになってますから。香織の部屋じゃなく、俺の部屋に閉じこめておくだけの違いです」

「それはそれで問題が……」

「でも、香織の部屋に朝斗をおいとくわけにはいきませんから。年頃の男女、何か間違いがあってからでは遅いですよ」

「…………えっ?」


 義母さんが目をぱちくりさせている。俺は極めて常識的なことを言ったはずなんだが、なんだこのリアクション。


「……とにかく、朝斗を逃がすわけにはいきませんので。切り札として、こちらで身柄を拘束すべきです。というわけで、朝斗は俺の部屋で預からせてもらいますね」


 我ながら強引な理屈だな、と思いつつも、強引さ一辺倒で押し切るために、ぽかんとした義母さんをそのままにして、俺は朝斗のいる二階へ上がった。


「朝斗ちゃんが真一くんの部屋にいるほうが、間違い起きそうだけど……」


「……ごめんね、真一くん。さすがにあの話はできない……朝斗ちゃんに……夕子に、バレないことを祈るわ……」


「……あの事実を、知ってしまったら、香織は……」


―・―・―・―・―・―・―


 俺は、階段を上りながら義母さんに聞いた情報を整理する。


 義母さんと香織が、大奥酒造の家に生まれたこと。


 大奥酒造がおそらく由里の父親に乗っ取られ、義母さんたちが追い出されたこと。


 暴力を振るうようになった旦那と離婚し、義母さんと香織は朝斗の隣に引っ越したこと。


 同じような境遇だった朝斗たちを、香織が傷を負ったことを利用して、義母さんが救ったこと。


 その朝斗の母親が、義母さんの恩を裏切り、大奥酒造を乗っ取った今の社長と再婚したこと。


 由里は香織を確信犯的にハブったであろうこと。


 ……まあここまではいいとして。


 一番引っかかるのは、朝斗が思わず家出するくらいに、夕子という朝斗の母親は由里の父らしき人間とうまくいってなさそうなこと、だ。


 ……ひょっとしてこれ、ひとつだけ朝斗に尋ねればいいんじゃないか?


 階段をのぼりきり、香織の部屋の前まで来た時に考えがまとまった。朝斗からの情報次第では、茶番劇にしかならないかもしれない。

 まあ、茶番劇だとしてもそれはそれで、貴子義母さんの心を晴らす何かにはなりそうなニオイはする。……よし。


 扉をノックすると、一回目で即座に『はい』の声がする。では、拉致監禁ついでに拷問スタートしようか。

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